鬼のカチューシャ
二晩占二
鬼のカチューシャ
大正3年11月20日、
山頂に初雪の積もる、早朝の
そして、
二人は友人だった。
「
警察官に化けた
「はぁ、なんやて、お
そのつぶやきに、隣から
「見てみい、この腕。この足。野良仕事なんか一度もしたことない箱入り娘の体や。
めったに使わない関西弁、めったに使わない男口調。
「はあ。せやな。言われてみたら千代はこない
誰が
知らぬ顔で目を丸くする古狸から目を
死体の足元だった。
「あっ、それは
知っている。
その髪飾りは
「カチューシャ……」
千代が髪飾りをそのように呼んでいたことを、
「
「なんだい、それは」
「お
「髪飾り、ねぇ……」
「その髪飾りのことをな、カチューシャっていうねんて。ほんまは主人公の娘さんの名前なんやけどな」
「ふうん」
熱を高めていく
「
しかし
「は?」
「ちょっと町まで行ってさ、うちの代わりにカチューシャ見てきてや」
「なんで私がそんなことしなきゃいけないんだい」
「お
「聞きな、小娘。なんで私が
面倒を突き放すつもりで言った
「うちは、ほら」笑った
カチューシャかわいや わかれのつらさ
せめて淡雪 とけぬ間と
神に願いを かけましょうか
「
「ほな
ふいに、横から
「
「なんやて?」
聞こえない声量でつぶやいたにも関わらず、古狸は拾った。やはり、
「ご
どの問いにも答えることなく、
死体は
「ようやく見つかった思たら、山
せやけど、
「ああ、これは妹です。間違いありません」
「お
唐突な報告に、
「ああ、
若者は泣き顔をこらえた
「
同じ指摘を、
「
「お
「良い相手なのかい?」
聞くと、
「ぱっとせえへんわ」
それから
「けどな、その人の妹さんがね、ええねん」
「良い、って何が?」
「
そう言って、また笑った。
警察官に化けた
「失礼やけど、お相手は?」
青年は
「
青年は、髪束となった妹を見つめている。
「……名前は?」
人間に化けた
「
それがどないしましたん、と青年はようやく疑問を浮かべる。それはそれは、と微笑みでごまかしながら、
――うちは、ほら。
――自由に動かれへんから。
あの娘は、
「うちも鬼になれたらなぁ」
ある日
「なんだい、急に」
「
「
すると千代は、ぱあっ、と笑顔になって、
「なら、このまんま
「身内殺しの鬼と一緒に住むだって? 私ゃ、ごめんだね」
「
結局、
本当に、鬼になっちまったんだね、千代。
二人がよく落ち合った山奥の秘密の場所に、
やがて、決意したように自分の
もう一方の
鬼のカチューシャの完成だ。
そっと、その場に置いて、
鬼になってもいい。
神だか仏だかいう得体のしれないものに、得体のしれない鬼が、心からの祈りを
やがて顔を上げると、すでに
あとは肌色をなんとかしないとね。
歩み出しながら、
娘殺しの犯人は、いずれ
山の土に積もる雪は、徐々に白さを増していた。小さな足跡をつけて歩く
カチューシャかわいや わかれのつらさ
せめて淡雪 とけぬ間と
神に願いを かけましょうか
雪に、少女の足跡が続いていく。
<了>
作中使用曲:「カチューシャの唄」(島村抱月:作詞・中山晋平:作曲・松井須磨子:歌)
鬼のカチューシャ 二晩占二 @niban_senji
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