第38話 生への《決意》

 「そろそろ私達も行きましょう。三人とも、一気に行くわよ?」夏月は一緒にいたボンビット、辻猿、冬牙に言った。

「よっしゃ!半人族のお前ら、皆逮捕だ!行けぇ〜!!」

「っ!!マズイ、待たれてた!」そうして四人は一斉に建物の陰から現れた。半人族のメンバーはあまりの出来事に驚き戸惑っていた。だがその時、ケープさんは空に獅子の轟く咆哮をし、皆を鼓舞した。

「お前ら、自分の決意を忘れるな!!俺たちは今、自分たちの苦しみに勝ちに来たんだ!このまま尻尾巻いて逃げたりはしない!お前ら、行くぞ〜!!」

「っ...!う、うおぉ〜!!」その声に励まされ、不完全燃焼していた半人族たちの本能の闘志は再燃し、一斉に大規模な戦闘を開始した。


 「ふん、私にはお前ら二人か...別に何人いようが構わん。お前ら、ここで死ぬ覚悟は出来ているんだろうな?」ヴォイドは殺気を纏いながら脅しを言うと、そのまま虚空拳の構えを取った。それを尻目に、ミケは僕を見て言った。

「...おい人間。頼むから、これ以上僕の足手まといだけはするなよ?」

「こっちこそ、一人で前に突っ走るなよ!僕も隣にいるからな!」僕らは互いを罵りつつも、一緒に戦う決意を見せつけた。

「面白い...ならば、私のこの技を避けて見ろ!『断絶』!」そう言うと、ヴォイドは手元の空間をグニャアと歪ませ、僕らには見えない虚空で斬撃を飛ばしてきた。斬撃は地面を削り、そこの空間を抉りながら僕らに飛んできた。

「そんなの、当たるわけないだろ。今度はこっちの番だ!」そう言いながら、ミケはその斬撃をくるりと避けて再び奴に向かって飛んだ。


 「(ふっ...分かりやすい攻撃だ。必死に避ける必要もない。虚空で弾き返してやる。)」そう思ったヴォイドは、虚空を纏った腕でミケのパンチ攻撃を防ごうとした。それを見たミケはほくそ笑んだ。

「へっ、人間のくせに、チョロい奴だな!」次の瞬間、ミケのパンチは目の前ですぐ近くで意図的にスカり、その反動でいきなり蹴りのモーションに入っていた。

「なっ!(今のはフェイントか!)しかし、それでは私に効かん!」その言葉通り、ミケのフェイントからの蹴りはヴォイドの周りにあった虚空にことごとく阻まれてしまった。

「その隙を待ってた!喰らえ、オラァ!!」しかしその虚空を使う瞬間の隙を、僕は静かに狙っていた。僕はそのタイミングを見計らって高くジャンプした。ヴォイドはミケの攻撃に対応するために、僕の標的を外していたのだ。そのまま僕はヴォイドに渾身の殴りを入れた。食らったヴォイドは虚空で一瞬ガードを入れたため倒れなかったが、その衝撃でよろける程のダメージはあった。


 「くっ...(なんと、防御の後の隙を狙っての一撃。この連携技は、私の拳法でも防ぎきるのは至難の業か...それに...あの少年の拳、なんだかとても重い...体が勝手にふらついてしまう...)」

「よし、なんとか一撃入った!」

「良いぞ人間、その感じだ。このまま最後まで、一気に畳み掛けるぞ!」その掛け声に合わせて僕らは同時に走り出し、そのまま総攻撃を畳み掛けようとした。

「...お前ら、その連携に頼っているな?それでは素の技など当たらん!まずはお前からだ、怪力の少年!」だがヴォイドは今の一瞬の連携で、僕の攻撃がミケよりも遅い事に気が付き、僕を一対一で一気に倒そうと目論んだ。流石にこの行動には僕らも驚きを隠せなかった。

「うおっ!(ヤバい、こっちに来た!)」

「チッ...(一対一じゃ、あの人間は確実に負ける...!)クッソ、させるか!」ミケが何とかヴォイドの予測出来ない動きに対応して蹴りを入れようとしたが、一度攻撃を食らったヴォイドはその攻撃を間一髪の所で固めてみせた。

「なっ!クッソ、バレてた!」

「さっきも言ったはずだ。その攻撃はもう食らわん。猫の少年、まずはお前から先に逝け。『爆絶』」するとミケの足を空中で固定していた虚空が途端に光だし、そのまま大爆発したのだ。その爆発攻撃を食らったミケは、そのまま遠くへ吹き飛ばされてしまった。


 「ぐわぁああ!!がはっ...!ぐっ...あ、足が...」

「み、ミケ!!っ!」僕の横には、さっきまで遠くにいたヴォイドが立っていた。

「何をよそ見している?相棒の事を考えている暇はないぞ。次はお前だ。」その時、僕の心には『この人には敵わない。』という揺るがない圧倒的な絶望感が押し寄せた。その途端に体から力が抜け、足が一気にすくんだ。

「(マズイ、このままじゃ負ける!一旦距離を...!)」そう思った僕は後ろへジャンプした。しかし、ヴォイドは僕を追わずに技の構えの姿勢に入っていた。

「えっ?(な...なんだ?何かが来る!!)」僕はその行動を本能で気づき、咄嗟に腕で防御に入った。

「そこまでなら届く!破っ!!」叫んだヴォイドは何もない空間に発勁を出した。すると、ヴォイドと僕の間にあった空間の虚空がヴォイドの発剄に合わせて移動し、僕に発勁の衝撃を伝えたのだ。

「ぐはっ!?(馬鹿な...そんな攻撃ありかよ...!)」突然の出来事に僕は後ろにのけぞりながら飛ばされ、そのまま地面に倒れてしまった。いくら防御をしていても、戦闘経験が薄い素人が達人の技を食らったらひとたまりもない。それは自分でも、十分に分かっていた。


 「フゥ...これで終わりか?」ヴォイドは息を切らしながらも、僕らに勝利宣言を言った。僕は発剄を食らい、ミケは爆発を食らったせいでどっちも満身創痍でボロボロだった。もう無理だ...勝てないと思ったその時、ミケは爆発で折れた足を抑えてうずくまり、口から血反吐を吐きながらもヴォイドに叫んだ。

「ふざ、けるな...まだ、終わってない!僕は...ぐふっ!お、お前らに勝って、平和を手に入れるんだよ!!こんな所で、終われるか!まだ...僕は、負けてない...」最初は威勢のある張っていた声だったが、その体は声に合わせて、段々と意識を持たせる力を失っていた。

「まだ喚くか...全く、鬱陶しい。安心しろ、今すぐにケリを付けてやる。死ね、『断絶』。」そうして動けない僕らに、無慈悲な死の斬撃が飛んできた。


 「(もう指一本動けない...このまま、死ぬのか...僕は...?)」その瞬間、僕は生まれて初めての走馬灯を見た。今まで退屈だった、何気ない学校での思い出。いつも笑顔だった、家族との楽しい記憶。初めて僕を友達だと思ってくれた凪の事。...その儚い過去の記憶の数々を思い返すと、僕は自然と涙が溢れた。拘置所で僕がかつて思った、『まだ死ねない、死にたくない』という生への執着心が、再び今になって心に火を宿したのだ。


 その瞬間、僕の両足や左腕がカルマの右腕のように大きくなった。その体で、僕は咄嗟に動き出し、自分とミケに飛んできていた虚空の斬撃を手で止めてみせたのだ。

「何っ!?馬鹿な、私の虚空の斬撃を受け止めた...!?(この少年、まだこんなに力が...!)」

「れ...煉瓦...!っ...は、はは...お前、結構面白い奴だな...!」その行動に押されたのか、ミケは痛みを堪えながらも立ち上がって僕に言った。

「ミケ、まだ行けるか?」

「もちろん、こんな所で終われないだろ?」僕は止めていた斬撃を握り潰し、自分の中に滾るを全面に押し出して叫んだ。

「よし行くぞ、あいつを僕たちで倒すんだ!!」そのまま僕らは、ヴォイドに向かって再び走り始めた。


 「馬鹿め。そんな付け焼き刃のから元気で、この私がやられると思っているのか?愚の極みだ。この攻撃で墜ちろ!『断絶』!」

「そんなの効くかよ!!オラオラオラオラー!!」ヴォイドは僕らに虚空の斬撃を繰り出し続けた。だが、先陣を切って走る僕はその斬撃を全て巨大化した拳で打ち消したのだ。

「ミケ、今だ!」

「お前に言われなくても...やってやるさ!」そのまま僕の背中から現れたミケは、僕の体を踏み台にしてヴォイドの前に一気に飛び出た。

「ぐおっ!?さ、させるか!」ヴォイドは焦る様子で、自分の腕に虚空を纏わせてガードの体勢に入った。それを見たミケは、ニカッと笑顔で笑ってみせた。

「ハハッ!騙されたなマヌケ!喰らえ、これが僕の完全版フェイント、名付けて『猫騙しキャット・トリック』だ!」ミケはヴォイドの虚空を、研ぎ澄まされた猫の空間把握能力で避けながら、奴のお腹に響くような重い回し蹴りの一撃を入れた。食らったヴォイドはお腹を抱え、悶えるように唸った。


 「ぐはっ!クッ...こ、小癪な真似を...!」

「それで終わりじゃねぇよ!行け、煉瓦!!」

「うおー!!僕の全力を喰らえぇ!!オラオラオラ〜!!」

「きょ、『拒絶』!!...っ!?な...何!?」ミケの攻撃に気を取られていたヴォイドに、僕は自身の持つ全力の連撃を入れた。その連撃はヴォイドの展開した虚空の壁をぐんぐんと押しのけて、ついに奴の無敵の防御を貫通することに成功した!そのまま僕はヤツに、決意のこもった怒涛の連撃を繰り出し続けた!

「ぐはぁあ!!(馬鹿な...私の虚空が、通用しない...だと!?)ぐおおおお!!」

「トドメだ、行っけぇ〜!!」

「うぉらああああ!!」ミケのその声に合わせて、僕が奴に全身全霊の力を込めた拳を入れようとした...その時だった。


「は〜い、そこまで〜。」



 

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