第29話 義理の絆

 集会をした日の夜、僕は村の中を食後の運動がてら散歩していた。途中でケープさんと他の半人族たちが酒場でお酒を賭けたポーカーをしているのを見かけた。仲間とあんなに盛り上がれるのか...と自身のボッチな過去を思い返した。そこから少し離れた村の入口あたりに行くと、そこは誰も居ない暗い森の静寂がその空間を包んでいた。昔の感傷をそこで少し癒やし、そのまま家に戻ろうとした時、村の外から誰かが走ってくる音がした。

 

 「(っ!?だ、誰だ?こんな時間に帰ってくるなんて...)」誰か分からなかった僕は敵かもと思い、入り口の門の柱の影に隠れて様子を伺った。そうして静かに入口を見ていると、森からミケが布袋に何かを入れた状態で村に帰ってきた。周りをキョロキョロと確認したミケは、すぐに半人族の家の間にある細い路地へと入っていった。


 「こんな時間に、あいつ何してるんだ...?」その時、僕の心の中に探求の情が湧いた。多くが謎に包まれていたミケのプライベート...いくら仲間と言えど尾行なんていけないと思いつつ、気がついた時には既に忍び足でその路地に入っていた。そのまま恐る恐る奥に進んで行くと、そこには小さな古い小屋があって、中から淡い明かりと微笑ましい話し声が聞こえた。

「すご~い!こんなに良いの?お兄ちゃん、ありがとう!!」

「別にいいよ。今日はお前の誕生日なんだから好きにしてくれ。」その会話は、僕が今までに家族とした誕生日のお祝いパーティーの時の記憶を蘇らせた。つい懐かしさと悲しさで涙を流しそうになったが、咄嗟に袖で拭った。そうしてそっと窓から中を覗いてみると、そこにはミケと一人の兎の半人族の少女が、小さなちゃぶ台を囲んで話していた。


 「(えっ?う、兎?)」その景色に気を取られていた僕は、自分の足元の体勢が悪いことに気づかず、そのまま足を滑らせて転んでしまった。流石にその物音で、僕が覗き見ていた事がミケにもバレてしまった。

「っ!な、お前は...あの人間!一体何のつもりだ、今は忙しいんだよ!帰れ!」

「うわーっ、人間さんだ!あれ、でも初めてあった人かも...」兎の少女は、転んでいる僕に駆け寄り、白く暖かい手を差し伸べてきた。

「人間さん、大丈夫?」

「あ、あぁ、全然平気だよ。ごめんね、何かお取り込み中だったみたいで...」急いで謝ってすぐにその場を去ろうとした僕の手を、彼女は強く握って離さなかった。

「うんん、行かないで。人間さん、きっと暇でしょ?私のお誕生日パーティーに参加してよ!多いほうがパーティーは楽しいでしょ?」

「えっ...?ぼ、僕も一緒でいいのかい?」

「うん、いいよ!嬉しいな〜!」そう言ってぴょんぴょん跳ねる彼女だったが、後ろにいたミケはそれを良く思わなかった。

「いいわけないだろ、ウブワ。そんな簡単に人間を信じるなっていう事、お前が一番分かってるだろ?僕ら半人族を殺す、卑怯で意地汚いヤツが人間には多いんだよ!!」その言葉に、耳をぴょこっと傾げながらウブワという少女は言った。

「この人は平気!私が言ってるんだもん、絶対大丈夫だよ!それに、今日は私の誕生日だから好きにしても良いんでしょ、お兄ちゃん?」

「うっ...で、でもなぁ、ちょっとは相手を疑うぐらいはしろよ?お前は初対面の相手だろうがなんだろうが、少し信じすぎなんだよ。」言い合っている二人の後ろにあったちゃぶ台の上には、布袋から出た、イチゴがたっぷり乗ったショートケーキが2つあった。結局そのまま、僕は二人の誕生日パーティーにお邪魔させてもらう事になった。


 その後、誕生日ケーキを食べて眠くなってしまったウブワは、そのまま幸せそうな顔で寝てしまった。

「この子は、ミケの...友達?知り合いとか?」僕は食器を片付けつつ、ミケに寝ている彼女の事を尋ねた。ミケは彼女にブランケットをかけながら、食い気味に答えた。

「違う、義理の兄妹だ。昔居た収容施設で、僕らは親が居ない孤児同士だったんだ。こいつも、親が施設の人間に殺されたときは、毎日ずっと一人で泣いてた...だから今もこうして一緒にいてあげてるだけで、別にそんな血が繋がってるわけじゃない。」僕はそれを聞いて、少し感慨深く感じた。

「そう、なんだ。...なんだか、君らを見てると、僕の家族の事を思い出してきたよ。二人共、血が繋がってなくても、本当の兄妹みたいでさ。僕にも弟がいてね、ミケみたいに色んな事を注意したよ。」

「ふん、何を偉そうに...人間の家族という血だけの関係と、僕とウブワの関係は違う。お前みたいな純人族の人間には、分かんないだろ?」ミケは素っ気なく言葉を返す。それに僕はフォークを置いて返した

「確かに、全部は分からないよ。僕はエスパーじゃないし、そういう能力を持ってるわけじゃないからね。でも、だからこそ、僕はもっと知りたいんだ。仲間の...バディの君の事を。」僕は彼に伝えた。机の上に置いてあるランプの火がゆらゆらと揺れて、狭い部屋を明るく照らしていた。


 「...そうか、なら、僕からも色々聞いてもいいか?僕も、バディのお前の事について少し知りたくなった。」そうして僕は村の家の密集地の中、小さな小屋の中でミケに自分の今までの事を明け方まで語り明かした。凪の事、カルマの事、僕の思いの事...そんな僕の話を、ミケは最後までちゃんと聞いてくれた。

 まだミケの事を完全なバディとは少し思えない。ただ、確かに、僕は彼との距離を縮める事が出来たと思っている。そう一人で勝手に思いながら僕は、段々と空が薄く明るくなるこの村を歩いていた。


 

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