第8話 変革の決意

 「そんなわけない、そんな事をするわけない...!」そう自分に言って、僕は自分の家を目指した。外は既に夜中の0時を過ぎており、街は静寂に包まれていた。


 家の前についた時、僕の考えは間違っていたことを実感した。僕の家だったところには、至るところに落書きをされ、窓ガラスも割られていた廃墟があった。ポストには、罵詈雑言に溢れた手紙と怪しい宗教勧誘の手紙、更には政府からの「本件のおすすめの救済措置法について」という手紙がいくつも入っていた。割られた窓からは、もぬけの殻になった部屋の中が見て取れる。


 「どうだ、これではっきりしたろ?この『平和の世界』の裏には影がある。明るいところにはいつだって暗いところがあるんだよ。」と僕を見たスケイルズさんは言った。僕は目の前の現実を受け止めきれずにいた。こんなのが許される世界があるのかと、絶望に打ちひしがれた。

「...そうだ、一回河川敷にでも行くか?ちょっと休もうぜ。」と言ってスケイルズさんは歩いていった。僕は無言でうつむきながら彼について行った。


 河川敷にあるベンチに座った僕に、スケイルズさんは自販機の缶コーヒーを買ってきてくれた。

「おい、お前微糖飲めるか?ほらよ。」

「あっ...ありがとうございます...」二人でベンチに座って、僕らはコーヒーを飲んだ。あまり苦いのは好きじゃなかったが、そんなのを気にする程、僕の心は冷静じゃなかった。隣で無糖の缶コーヒを飲んでいたスケイルズさんに、僕は尋ねた。

「なんで...僕をあそこから助けたんですか?」そう言うと、彼はコーヒーの缶の縁を見ながら言った。

「だって、お前俺と面接した時に死にたそうにしてなかったからな。せめて命ぐらいは助けてやりたかったんだ...」そう言う彼の言葉には、何か自己への罪悪感を感じた。


 そうしていると、僕も何か不甲斐なさを感じてきた。僕は哲矢達に犯された凪の事を助けると決意してあいつらを殺した。それで僕は世間から嫌われ、死刑になるはずだった。

僕の考えてた「ヒーロー」は、世間から見れば悪者だった...じゃあ彼女にとっては?凪にとって僕は何だったんだろうか?もし彼女にとっての「ヒーロー」じゃなかったとすれば、僕は何を助けたんだろうか...自分の為にあいつらを殺してたのか?そう僕は今までの事を振り返った。


 飲み終えたコーヒーの缶をゴミ箱に投げながら、スケイルズは僕に聞いてきた。

「どうだ、少しは落ち着いたか?」缶は、ゴミ箱の縁に弾かれて落ちた。

「まぁ落ち着きました。...僕は、あの子を救えたんでしょうか?ただ自分のために殺しただけとすれば、僕は...本当にただの殺人鬼なんじゃないでしょうか?」スケイルズは、落ちた缶を拾って僕の問いに答えた。

「それは分からん。お前の幼馴染がお前に感謝してるのか、恐怖してるのかはその人次第だ。...ただ1つ、今の世間の意見を変えることはできるぜ。」


 そしてもう一度ゴミ箱に向かって投げた。その缶はゴミ箱の中に落ちてゆく。

「この世界に不満があるやつは五万といる。理由は様々だが、その中には人や金、権力などが必ずある。それを野放しにしている奴らは政府の連中だ。そこを変えれば世界や世間の声は変わる。元々『悪』だったものも『正義』になれるんだ。」僕は、その言葉に胸を掴まれた。僕のやっていたことが正義か悪かは、この世界が決めたこと。それを変えれば、世間は僕がした事を正義にしてくれる。...あの子も、感謝してくれるに違いない!


 「その世界を変えるために、俺は半人族の革命軍に味方している。これから何が起こるかは分からないが、俺は今の世界がおかしいという決意は変えたりしない。絶対にこの世界を変えるんだ!...別にお前も…なんては言わない、ただこの思いは分かってくれるか?」その問いに僕は、持っていた空き缶をゴミ箱に投げ入れ、期待の目を向けて答えた。

「もちろん。その思いも、その計画も、僕は賛成するよ。一緒に変えよう、この世界を!」


 僕らはこの暗い世界で、1つの希望に胸を走らせていた...。


 

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