第2話 平和の崩壊
あれから約二週間、僕は凪の姿を見ていない
いつも皆勤賞を取るくらいには元気で明るい子なのだが、2週間も休んでいるので流石に変だと幼馴染ながら感じた。そう考えていると廊下で哲矢たちが話しているのが聞こえてきた。
「いやぁ~、にしてもあんなにやっちゃって、俺ら平気なんスカ?」仲間の一人、細川がそう言った。
「大丈夫だろ、すでに犯人は捕まってる。俺らに捜査が来ることはねぇよ。第一、もう訴えてこないと思うけどな。」と哲矢が不敵な笑みを浮かべて言った。その時、僕の体がひどく震えた。まさか、彼女になにかしたのでは...という想像が頭をよぎった。
担任の先生になんで休んでいるのかを聞いたが、よくわからない、無断欠席なんだが電話をしても出てくれないと言っていた。
「そういえば、咲田って未江野と同じ中学校なんだろ?すまんがこのプリントを渡してきてくれないか。次のテストの範囲に入っているんだ。」と担任の先生はプリントを渡してきた。丁度いいと思った僕は放課後、そのプリントを持って彼女の家に向かった。だが、何故かその足取りは重かった。
歩いて20分程か、僕は彼女の家についた。庭に花が植えてある家は、外見とは裏腹に暗く見えた。玄関に行ってインターホンを押し返事を待った。ポストには新聞があったが、1週間前の朝刊が残ったままだった。そうして待っていると、静かに玄関の扉が開いた。出てきたのは、彼女の母親だった。でも僕が覚えている人とは別人のようだったので、気付くのに時間がかかった。
「あっ...どうも、お久しぶりです。幼馴染の咲田煉瓦です。えっと...学校のプリントを届けに来たんですけど...」そう言うと、彼女の母親は驚いたように言った。
「あっ、咲田くんだったのね。どうぞ入って。」言われるように、僕は家に入った。
リビングでお茶を出してもらったので、僕はそれを飲んだ。家の中には得も言われない重い空気が漂っていた。そんな空気を振り払うために、僕は恐る恐るお母さんに尋ねた。
「あの...なんで、凪ちゃんは学校を休んでるんですか...?」そう聞くと、彼女の母親は手を止め、一瞬戸惑ったような顔をした。だがその後すぐに、納得したような顔で返した。
「そうね...咲田くんなら、言っても大丈夫かしら...この話は、他の人には言わないでくれる?」と言って、事の詳細を話した。
...2週間前の事、塾に行っていた凪は夜の9時まで勉強をして家に帰っていた。そうしていつものように帰っている途中に、彼女は突如、謎の男たちに絡まれたという。
「ぐへへ、いい女じゃねぇか。ちょっとこっちに来いよ!」
「なっ!ちょっと離して!嫌ー!!」彼女の抵抗は屈強な男二人組の前では虚しく、そのまま暗い路地裏で彼女は無惨にも知らない男達に凌辱されてしまった。しかもその時その場には哲矢とその仲間がいて、その様子の一部始終を彼に撮られたのだ。その後家に帰った凪は両親に打ち明け、すぐにこの事件を警察に通報したのだが。その前に本物の犯人とは違う人が自首したためそれ以上の捜査がされなかったという。それ以降は極度の人間不信で学校に行くことが怖くなり、彼女は鬱になってしまった...。
その話を聞いたとき、僕は頭がどうにかなりそうだった。手のひらの感覚がなくなるぐらい手を握ってしまうような、そんな静かな怒りを感じていた。最初は彼女に会って直接プリントを届けようと思ったが、そんな事をするほどあの子は元気じゃないと、僕は思い知った。
「...良かったら、声だけでも聞かせてあげて?あの子、ここ最近は私達とも会話をしてないの...」彼女のお母さんの提案により、僕は二階の彼女の部屋の前まで来てしまった。その扉の奥からは、おぞましい程の重い空気が流れていて、そのせいで僕はつい幼馴染なのに焦って言葉が詰まってしまった。
「...あっ、な、凪ちゃん。ひ...久しぶり、ですね。煉瓦だよ...学校で出たプリントを渡しに来たんだ。もしあれだったら、僕が色々教えてあげるよ...?」数秒の沈黙の後、扉の奥からは確かに彼女の声で静かに泣く音がした。その後、扉の奥からは凪の悲痛な叫びが聞こえた。
「...もう、帰って。煉瓦くんに...こんな私を見てほしくないの...お願い、帰って!!」その拒絶反応に、僕の心は一気にいっぱいになった。哲矢達は、あんなに元気で無邪気だった彼女をこんな風になるまでにしてしまったのか...悔しさと怒り、憎しみ、絶望、そのどれもが体から溶岩の様にあふれて、気持ちと体が熱くなった。
その時、僕に決意が湧いた。彼女にはあった、正面から立ち向かう決意だ。僕には分からなかったが、今その瞬間に気づいた。
「...ごめんね凪ちゃん。また今度...どこかで会おうね。さよなら。」僕はファイルを彼女の部屋の前において階段を降りた。
「...えっ?煉瓦...くん?嘘でしょ、駄目だよ、そんなの駄目...!」その時、凪はドア越しで僕の心を読んだのか僕の事を止めようとした。しかし、僕の足は固まった決意によって止まることはなかった。
「すいません、こんな時に来てしまって」そうお母さんに言って、僕は彼女の家を出た。そうして家を出るときにこう決心した。
「あの子の悪者は、僕が全員消してやる。」
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