第9話


 「キャアアアアアッ」



 人間の悲鳴を直に聞いたのはこの時が初めてだった。


 悲鳴というか絶叫?


 この世の終わりみたいな顔をしてた。


 多分、食われると思ったんだろう。


 その気になれば食べることもできたが、生憎そんな趣味はなくてね。


 思いきって声をかけてみたんだ。


 驚かせるつもりはなかったから。



 「ごめんなさい」



 アカネは目を見開いたままだった。


 地面にへたり込んだまま、瞬きもせずにこっちを見ていた。


 かと思えば奇声を上げて、何が起こったのかわからないような顔をしていた。


 パニクっていた。


 魔法の解けたシンデレラみたいに。




 「しゃ、しゃべ……った………?」




 うっかりしていたと言えば、うっかりしていた。


 狼は喋らない。


 そんなこと、当時は考えもしなかった。


 ただ、絵本に出てきた狼のように、普通に喋れば良いと思ってたんだ。


 何もおかしくないと思ってた。


 それが間違いだった。

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