短編にすらならない。
白雪工房
第1話
雪が言いました。
「つららが立った!」
意味不明です。この場合の雪というのは本当にただの雪で、ストーブで溶けてしまう程度の存在に他なりません。でも、雪は言ったのです。
「つららが立った!」
ほら、また言いました。きっと最近ハイジでも観たのです。それで、アルプス山脈に被さった真っ白な帽子のつもりでいるのです。
そうに違いありません、きっと。
時間が巻き戻った! 僕は言う。
「時間が巻き戻った!」
すごいとか、そういう素直に褒め称える感想が出る前に、有り得ないがひょこひょこ歩いてきた。
ホンット有り得ない!マジで!
時間が巻き戻った!
蚊取り線香って何でこういう匂いがするんだろう。やんなっちゃう。青木は呟いた。本当、なんでこんな時に蚊取り線香の匂いなんて。
昨日はお爺ちゃんの命日だったのに!
信じられない、本当。辛気臭いお葬式も、その主役で、額縁の中でにこにこしてたお爺ちゃんも、全部全部思い出したくないことばかり蚊取り線香が引き連れてきて。青木は、名前も知らない旅館の布団をばっと被ってひっそり泣いた。
世界は青木を置いていくばかりなのだ。誰も彼女に合わせて踊ってくれない。アン・ドゥ・トロワをいっしょに口ずさんでほしいだけなのに。
ラムネは美味いよ。心底そう思う。水木くんは言った。でも、その美味さの裏には何かが潜んでる、そう思うんだ。とも言った。
水木くんはいつも変なことを疑ってばっか。この前は滑り台の裏側に怪獣が巣を作ってるなんて言い出して、しかも最初は冗談の筈だったのに言ってる途中に本気になってやんの。
ばーか。
私は言った。水木くんは「ふん」と鼻息を一回。ラムネのビー玉を取り出して海に投げた。
くさやが爆発?お隣さんから伝言ゲーム方式に回ってきたそのニュースを聞いて僕は顔をしかめた。どうやったらくさやが爆発なんてするんだ?誰か教えて欲しい。昔どこかの飛行機でシュールストレミングが爆発したらしいってニュースを聞いたけど、くさやがどう爆発するってんだ。
だって、あのくさやだぞ?
僕は呟く。頭の中ではもう一人の僕が「あのくさやって、どのくさやだよ」とへらへらしている。
うるさい、黙れ。ともかくじっとしてられん。
今すぐ荷物を纏めて事故現場へ突っ込むのだ。
俺はヨーヨーの達人。しかもマグロ漁船に似たようなのが積まれてるようなリール状のヨーヨーなんかじゃなくって、お祭り屋台のヨーヨーの達人なのだ。おっと、君たち今ちょっと馬鹿にしたな?だが、笑っちゃあいけない。
あれは慣れてくるとなかなか奥深くてだな。やれゴムの回転率がどうとか、水を何ミリリットル入れれば負荷が丁度良いとか、そういう細かなカスタムを施して自分だけのお祭りヨーヨーを作る。世界大会もあるくらいだ。最近は金魚柄よりシンプルなヨーヨー柄が流行りらしいぞ。是非この流行りにのってみるといい。楽しいはずだ。
猫というのは実にお気楽な生き物で、そのお気楽さといえば喉をごろごろ鳴らしてこたつに包まれればご飯を貰えると勘違いしている程だと言います。特に三毛猫の雄なんてのはそれが顕著で、生きているだけで何でもしてもらえると確信している程です。ともかく、猫というのはそういう生き物なのです。
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