(a-004~006)

 そして私は抱きかかえられながらテレビを観る等して約124分間過ごすことになった(間隔がはっきりしているのは当然時刻が表示される機材があったからだ)。情報量・罪悪感、希望的観測と悲観的観測の往復。それらが循環を重ねて麻痺していくような恐怖が延々と苛む状況が続くのがひたすらに苦痛だった。

 それが終わり、彼女は風呂に入るから先に寝室へと言ってこの場を後にした。解放されたという安堵が束の間と知っていても全身の力を抜いたようで、布団で贅沢にも寛げると思った。

「・・・・・・」何時の間にか、眠っていたらしい。

 背面、頭部に圧迫感があるが温度は僕にとって適温だから辛くはない。何があったか分からないから不安になる。

 動けるかな。

「ぐ」手足とかは動かせるけれど腕とかの大雑把な機能が制限されている。音?が聞こえる。規則性がある、落ち着くいきものの、心臓。

「おはよ」

「んぎゅ」後頭部の上の方に息がかかっている。天井側を向いていたのだけれど寝返りを打っていたらしく、そして隣で眠っていたらしい。

 ぼやけたクローゼットが日光に調整されていく。数分すると彼女の呼吸の速さが変わり、不明瞭な声が再び聞こえた。

「いえーい」

「くるひい、です。ん、む」立場上仕方ないにしても、距離感に慣れない。

 病状的に怖くなくなって(しまって)いるけれど、感情の出力の抑えが利かせられないのは危険だから、励まそうとしてくれていると自意識過剰な妄想をストッパーに、ストックホルム症候群を誤魔化す。

 ・・・。

「ぎゅーさせてー、おはよーのぎゅうーっ。眠ってる他でも温もりと実感が欲しーのー」

「ん、むうむ、んー!」それでもこっちの中身は恋愛対象が男性の一般成人女性で、私の身体が今小さいのもあるだろうけれど、このひと胸おっきいから後ろからハグされてても普通に息できない。困る・・・。それに同じだったから気にしてないけどシャツを着用していても眠る時は上下を揃えないひとだから、沈み込んでるみたいになっている。

「ふへへへ、にがさんぞー」

「ん、んー、ん、っ、・・・、・・・・・・」また身体に引っ張られる。やば、頭火照ってきて。ふわふわで・・・。待て、苦し、酸欠・・・。

「おとなしくなった。ふふふ、それじゃ出したげよ。その代わりぃ」

「っは、はあ、はっ、あ、・・・・・・んひうっ!」

「今日はここ、いじったろっ」

「ふぇっ?く、んぁ、あっ、やめ、・・・て。んっ。ふぇあっ!」

 あれ、身体って男だよな・・・?胸弄られてこんな気分になるか?

 いやまあ。それに関する性的知識はなくもないのだけれど、今生では弄った覚えも弄られた覚えもっ。

 あ。声・・・。

「ぁう、待って。待っ、・・・あっ」また、力が抜けて上手く動かせない。抵抗しないといけないのに。気持ちいの、よくないのに。

「やっぱし反応可愛い。へへー」

「ふっ、う。ひゅ。おっ」

「ぎゅ」

「んおっ・・・・・・ぅ、はあ゛、あっ」

「ゆっくりとー」

「っ・・・・・・。ふぅっ、ぐ、あ、んぅ、・・・はっ、ぁくっ・・・あぅ・・・っ・・・・・・」

「はやめにー」

「ふぇっ!?・・・やっ、ひぐっ、あ、ふぇぁ、はっ・・・」

 あっ。

「お、一寸びくってした」

「・・・・・・っ」今、おなか辺りがぎゅう、って・・・。あたまも清涼感のある綿を詰め込まれたみたいで、これって甘くだけど若しかしなくても。

 悟られないように顔を背けちゃったけれど、逆効果だったかな。

「ふふー、よかったぁ。もっとしたげるからねー」

「ふぇ?」向き変え、え待って今したらほんとに、いっ。

「きょ、っ!むぅ!・・・ん、んくっ、んぐぅ・・・」

「ぇう、んむ、ぱぁ、っ。れ、ぅるぁ」

「ん、んぅ・・・・・・」

 え、キスされてる?

 初めてなのに、嬉しいよりも悲しいよりも前に頭と口の中の上がいっぱいぞわぞわする。甘いの、吞んじゃう。胸のとこじゅわじゅわして、ふわふわなのであたまいっぱいになる。

「はっ」

「ぱぁ、は、っあ、はあっ、はっ、はあっ」これ。逃がさな、いと。

「そろそろかなぁ。すごくおりこうさんの身体だから多分このまま続けてもはじめてのやつ、来ると思うから。白いのは未だお預けだけど今日は中のほうでしたげるから安心して」

「・・・・・・?」

「きゅってしてから・・・」

「ひゅっ!」

「くりくりー、くりくりー」

「ふゃっ、ひゃあ!」来ちゃ、っ。

「こねこね、ぎゅうー、きゅっ」

「にゃっ、ひ、ぁ、はう。・・・っ」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「かわいい・・・」

「・・・っ、・・・っひゅっ」

「いっぱいかわいいーっ。ふにゃってしたとことか特に」

「ぅう・・・」あたまぱちぱちする。お腹の下きゅってするの強くなってる。上手く考えられない。からだ、筋肉とか全部絞められて、いま弱くなってきてるけど気持ちいいのに変わるから全然動かせない。

 一寸首もくるしい。今ぎゅーするの、くるしい。

 解放されて、日の光から日付が変わった事を知った。







 数時間後。

「おさんぽしない?」

「突然、ですね」

「猫さんだからいいかって思ってたんだけれど、よくよく考えてみたらあなた人間に近い方の獣人種なのよね。お外とか出た方が健康になると思うの」

「確かに一理ありますが・・・」

「お外にがて?」

「いえ・・・。えっと。服がですね」

「着たい?」

「えっ」異世界はもう理由にならなさそうだけれど。

「そっか・・・、わかった。探してくるから待ってて」

「ちょっ、探すってサイズ。・・・行っちゃった」

 数分後。

「ごめん、これしかなくて」

「僕は、いいと思いますよ?」Tシャツ1枚でよく生活していたし、着ないよりは。

「私も似合うと思うけれど、部屋用な気がするなぁ」

「ですね」

「んー。・・・そだ、買いに行くのを目的にしてみるってのはどう?」

「いいんですか?」

「全然おっけー」

 数一分後。

「晴れててよかったよねぇ」

「そうですね」

「ほかに行ってみたい場所とかある?」

「特にないですけど、あの。いいですか」

「ん?」

「降ろしてもらえたりとかは・・・。お散歩の意味が、ほら。リードもちゃんとついてますし」

「ど、どうして?」

「君がまたあいつみたいなのに襲われたりしたら怖いの。だから、嫌」

「あいつとは」

「元カレ。あいつ意識の外でも記憶が脳の根底に刻み込まれてたら本能で追跡するの」

「えぇ・・・?」何それ微妙に怖い。

「あ、苦しかった?」

「それは、大丈夫ですけど」ほんとは苦しい。それに背中に胸が押し付けられてる構図になってるからブラのワイヤがぶつかって一寸痛い。でも言う程でもないので。

 それ以上に抱っこによる気恥ずかしさと虚構化へ一歩前進している人物説明でそれどころでは。

「そう?」

 あ、しまった。肯定しとけば降りて手を繋ぐ位で止められたかも知れないのに。

 数10分後。洋服店、出入口付近。

「着れて帰れるとこでよかったね」

「はい。嬉しいです」

「折角だから私の選んだのも着てくれると嬉しいな」

「え」

「メイドモデルのゴスロリ服、似合うと思うのだけれど」

「動き辛いし手入れとかも大変そうだと思うのですが」

「成程、こういうの好きだから気にしてなかったな。じゃあ私の誕生日とかハロウィンとかに着てもらえたり、如何どうかな?」

「そ、・・・それなら、・・・・・・着、ます。でも似合わないと思います。私には」

「似合うと思うけれどなー。何だったら此の世で『萌え』という概念に当てはまるファッションは全部合うと思うけれど」

「そう、ですか」過大評価って怖い。


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