【1000pv突破感謝!】世話焼き好きな幼なじみと同棲する話

マホロバ

第1話

 悠々自適で快適な暮らし。

 俺──久島くしま ゆうの生活は、まさにそんな夢のような日々だった。

 今は大学生としての1年目を終え、新たな学年が始まるまでの春休み。

 やるべき事は無いのにやりたい事はやり放題。

 朝から晩まで自由な生活を送っていた。


「あー最高…もうずっと春休みでいい」


 外に出るのはコンビニで飯を買う時と、週3日のバイト、後は不定期開催のサークル活動のみ。後は家でゲームに漫画にアニメと娯楽三昧!


 今日も今日とて自堕落な日々を送っていた。

 またダラけて1日を終えるのだろうと思っていると、突然スマホから着信音が鳴った。


「もしもし?」

『久しぶり悠。元気か?』

「親父か。元気だよ元気」


 電話の相手は俺の父親──久島 雅史まさふみだ。

 普段は電話なんかする人じゃないのに…何の用だろ


「珍しいな。親父が電話するなんて」

『どうしても直接伝えたいことがあってな。今大丈夫か?』

「大丈夫だけど…なんか怖いぞ?」

『そう身構えるな。幼なじみの瀬奈せなちゃんって覚えてるか?』

「瀬奈?…あー、アイツか」


 山野辺やまのべ 瀬奈せな。俺の幼なじみだ。

 俺の実家は田舎にあり、同世代の友達がほとんど居なかった。その事もあってか、俺は1つ年下の瀬奈とよく遊んでいた。

 懐かしいな…瀬奈は背が低いのにお節介で、周りからは〈ちっちゃいお母さん〉って呼ばれてたもんだ。

 だけど何で急に親父が瀬奈の話をするんだ?


「覚えてるぞ。アイツがどうかしたのか?」

『今日からお前の部屋で暮らすことになったから。寝床を用意してやってくれ』

「はぁ!?」


 今なんて言った!?俺の部屋で暮らす!?この一人暮らしが限界のワンルームでか!?


「何言ってんだ親父!?冗談だろ!」

『もう出発しちゃってな。今日中に着くだろう』

「着くだろう、じゃねぇよ!俺の事情とか考えてねぇのか!?」

『母さんが言ってたんだ。“悠はどうせ1人暮らしを楽しんでるから気にしなくていい”って』

「畜生…完璧に読まれてやがる…!」


 さすが母さんだ…俺の行動を完全に読み切ってやがる…!でも読んでるからってやっていい事と悪いことがあるよねぇ!?


「ってか瀬奈の両親は!娘が男と一緒に暮らすなんて許すのかよ!」

『もしもの時は責任取って腹切らせるから大丈夫って言っておいたぞ』

「知らないうちの俺の命が賭けられてる…!?」

『まぁなんだ。もう決まった事だし、腹切りたくなかったら手を出さないことだな』

「それが親の言うことか!」

『それから最後にもう1つ』

「まだあんのかよ…なんだよ…」

『お前の反応が聞きたくて電話したんだ』

「このクソ親父が!!」


 思わずスマホを放り投げてしまう。電話が切れる瞬間、親父の愉快そうな笑い声が聴こえてきたのが1層腹立たしかった。

 どうしよう…親父の話が本当ならもう来ちまうぞ…


「この部屋にか…?それはちょっとな…」


 部屋を見渡すと、見事なまでの散乱具合だった。

 床には漫画やDVDのパッケージが散らばり、パソコンにはBGM代わりにしていた動画が流れている。こんな所を見られるのは、さすがの俺でも許容できるものでは無かった。


「せ、せめて片付けだけでも…」


 そう思った瞬間、インターホンが鳴った。

 聞きなれた呼び鈴のはずなのに、今だけは死神の足音のように聞こえた。


「は、はーい!」


 扉の覗き窓から外を確認する。しかしそこには誰も居らず、一瞬ピンポンダッシュでもされたか?と考えてしまった。

 恐る恐る扉を開けると、扉の前にはキャリーバッグを引いた小さな女の子が立っていた。


「久しぶりね!悠ちゃん!」

「おいマジかよ…」


 扉の向こうに居たのは、俺の幼なじみ─山野辺 瀬奈だった。彼女は俺の顔を見るなり、トレードマークの八重歯をギラつかせながら、満面の笑みを浮かべた。


「急で悪いけど今日からよろしくね!早速だけど部屋入っていい?」

「それなんだがちょっと待ってくれねぇかな?今部屋の片付けをしてて…」

「片付け!それなら私に任せて!」

「あ、おい!」


 しまった、瀬奈はこういう奴だった…

 こっちが少しでも困った素振りを見せようものなら、有無を言わさず世話しようとする。

 今もこっちの静止を意に介さず、するりと俺の部屋の中へと入ってきた。


「む、ちょっと散らかりすぎじゃない?」

「だから嫌だったんだよ…」

「でも大丈夫よ!私が来たからにはもう安心だからね!すぐに綺麗にしてあげるから!」


 有無を言わさぬ瀬奈の笑顔に気圧され、俺は渋々頷いた。こうなったコイツが止まらないのは、昔からよく知っていた。

 半ば押し切られるような形で、俺の一人暮らしは終わりを告げ、俺達の新生活が幕を開けた。


 これは、自堕落な一人暮らしに戻りたいと、世話を焼きたい幼なじみの瀬奈彼女の、忘れられない同棲生活の記憶だ。

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