アイ・アム・アイアン

スパニッシュオクラ

第1話 ストリートチルドレン

雑踏に埋もれた商人街は、喧騒の中に立ち並ぶ露店や商店が、彩りと賑わいをもたらしていた。その中、一人の男が道路の縁に寝転がっていた。彼は風のように流れる人々とは対照的に、まるで商店街の喧噪を離れた静かな小島に身を置いているかのように横たわっていた。


彼の目は上に向いて、建物の屋根や電線、鳥の群れを追っていた。顔に浮かぶ微笑みは、心に宿る平和と静寂を物語っていた。彼の心はこの騒がしい商人街の中で、自身だけの静かな隠れ家を見つけたようであった。


男───ガロは商人街の中で、周囲に流れる喧噪とは対照的な存在だった。彼はストリートチルドレン、街の孤児たちの一員であり、生活の過酷さを肌で感じていた。その日も腹の中で鳴り響く音が、彼の目を覚ました。眠い目をこすりながら大きな欠伸をすると、不快そうな顔で「……腹へった」。とつぶやいた。

商人街の路地裏には、ごみの山や古びたダンボール箱が積み重なっている。

「…朝飯……朝飯……これで良いか」。


ガロは腹を押さえながら、一つの小石を手に取り、それをガリガリと噛みしめ始めた。彼の生活は過酷で、何でも食べざるを得ない現実が彼を押し詰めていた。彼が口にした小石は、彼の強靭な生存本能と、この商人街での闘争の象徴とも……


「うっま、独特の風味があって、まるで地中の秘密を味わっているみたいだ」。


決してそんなことはなかった。彼なりに楽しんでいた。

小石を飲み込み、満足した様に男はのそのそと定位置に戻ると、眠そうに大きな欠伸をした。すると、商人街のホームレス仲間のゲンさんが隣に座った。

「おい、調子はどうだい?」


ガロは眠そうな目をこすりながら、笑顔で応えた。「まあ、生きてる感じだよ。」


ゲンさんは古びたポットから濁った茶を注いで男に差し出す。「まぁ茶でも飲んで元気出せよ。」


ガロはお茶を啜りながら、不思議そうな表情を浮かべた。

「これ、何で淹れたかもわからないやつだね。」


そのとき、ガロの視線は足元にあるムカデに落ちた。男は軽く身を乗り出し、そのムカデを拾い上げ、一口で食べる。


「げぇ…よく食えるなそんなもん。」ゲンさんがむせながら言った。

ガロは冷静な面持ちで返答する。「食えるさ、大抵のもんは毒でもなければ、あ噛んでる。」


「毒あるやろ、どーみても。」ゲンさんは呆れた顔で言う。


ガロは「ヴォエェェェェ」と叫び声を上げ、吐き出した。

「やれやれ」とゲンさんが胸ポケットから別のポットを取り出し、中の液体を注いで差し出す。ガロは一思いにぐいっと飲み干した。

「ありがとうゲンさん、因みにこれは?」ガロが湯呑みを置き、尋ねる。


「小便。」ゲンさんは淡々と答える。


「ふざけんなクソジジィッ゙!!」。

ガロが再び吐き出した。


ガロは何でも良いからと口をゆすぐものを探していると、通りの方からカラカラという音を立て瓶が転がって来た。ガロは瓶を拾い上げる。その瓶の中には黒色の液体が光を反射して輝いており、表面には何か文字が書かれているのが見えた。

「なんて書いてある?」


ガロは文字が読めないためゲンさんに手渡す。ゲンさんは興味津々で瓶を手に取り、眉を寄せながら文字を解読しようと試みる。「どれどれ…」と彼はつぶやき、文字を読み上げる。


「アイ…アン。」

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