妖術カモ! ~妖怪になった現代陰陽師の話~

イズラ

第1章:妖怪になった陰陽師

第1話:陰陽師、死す。







 




――――妖気を吸った状態で死ぬと、妖怪になる。











 桜の花咲く季節となり、生物の活動が活発になってきた頃だろう。


 それに伴い奴らの声音も強くなってきた。


「……それで最近……仕事が、多いんですね…」



 私の可愛い後輩「川村由紀かわむらゆき」が最近 疲れ気味なのも その所為だ。


 まぁ、過労は新人に限った話ではなく、この時期は陰陽師自体が繁忙期なのだ。


 巣穴から顔を出す山の動物に 妖怪が憑りつき、人里を襲う。


 そんな事例を解決してきたばかりだというのに、溜まった仕事を消化するための

2日連続勤務……。




 ハンドルを握る手が震え始め、本格的に休養不足となっている。


 4年目の私ですら この調子だ。


 1年目の川村からしたら この世にこれ以上の苦しみはない——程度にはなっているだろう。


 川村は後部座席で横たわっているが、ときどき唸るような低い声が車内に響き渡っていた。


「……『みんな無理し過ぎ』、か…」



 ボソッと独り言を呟く間に、車は山路へ入って行った。







 ——おやおや、私の住処にまた、埃が入ってきたね







 崖に沿った山道をしばらく進むと、巨大な瓦礫の山々が道を塞いでいた。


「……ここからは車じゃ無理か…」



 余裕を持って停車し、ドアを開けて車を降りる。


「…もうっ…! サイッコーに疲れましたー!」



 後から 伸びしながら降りてきた川村。


 大声で叫ばれた愚痴は、辺りに不自然なほど響き渡った。


「ほら川村、横から通るよ」



 川村を手招きし、瓦礫を避けてガードレール沿いに進んで行く。


「…はい」





 瓦礫の山々は思った以上に続いていて、私たちは細い道を歩き続けた。


 途中からガードレールが途切れ、散らばった瓦礫に つまづかないよう慎重に進んだ。


 足を踏み外せば奈落の底へ真っ逆さま。


 恐怖と緊張で心が擦り減って行った。




 10分ほど同じような道が続き、ようやく広い道が見えてきた頃。


「……先輩、もう、限界っす…。心も体も……!」



 苦痛の叫びを上げる川村。


「…うるっさい……!」



 そう吐き捨て、次の一歩を踏み出そうとしたその時。


 背後から「あっ」という声が聞こえた。


 振り向くと、

 


「 「 「 キャァァァァァァ―――――― 」 」 」



 一瞬、足を踏み外して落下する後輩の姿が見えた。




「………………へっ? あっ――――――」



 ここから、私の人生は落下していった――――。











「——————あれ? ここって…………、樹海…?」



 光が届かず、真っ暗のはずなのに、辺りの景色がよく見えた。



 それに なぜだか体が とんでもなく軽い。



 宙にも浮けそうな信じられない感覚である。



「……あれ、落ちて来たんだよ、ね……?」



 ふと自分の体を気にするが、驚くことに、全く持っての無傷だった。



「…………っ!?」



 決定的なのは、私の体が透けていることであった。





「し、死んでる!?」






――――第1章:妖怪になった陰陽師

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