【本文サンプル】ひとひとつ
言端
冬の帳
ホッキョクグマが極寒の地に安住するように、魚は水を得なければ生きられないように、人にもそれぞれ、生まれ持ったものと結びつく環境がある。ただ人間というものが他より少しばかり細分化されているせいで、限られた大地の中で全員分の在り処は用意してもらえないものだ。だから人間はどこへでも行けるようにつくられているのかもしれない。
***
落ちては消える結晶を渡っていくように、櫻田の意識は雪から雪を伝って上空へ飛び出す。静寂と安寧の季節がまだ続くことを実感する。幾度廻ったかわからなくなるような日々も歳月も、冬が来ればまた零になるのだ。世界が凍てつくように止まるなら、それはさぞ、筆舌に尽くしがたい美しさなのだろうし、それを自身が見届けないことも、一つの理想だと言える。吁、もう暫し、楽に息が吸える。見慣れた奇行を気にも留めない様子のゴトウさんを振り返り、櫻田は無邪気に笑む。
「佳い天気になりましたね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます