童話



大人になったら

行きたいところはどこだった?

外国、遊園地、ネバーランド

それとも砂漠の王国かしら

とにかく、小さな身体では

一人でいけないとこだけど

大人になったら行けるようになる

そんなところはどこだった?


僕はひたすらママの手から

早く逃げてしまいたかった

場所はどこでも良かったの

神さまお願い、僕にあたえて

ちいさな、ちいさな、隠れ家を

僕の身体を折りたたんで

隠してしまえる隠れ家を



大人になったら

行きたいところはどこだった?

遠い街、すてきなおじいさんが

一人で雑貨屋をひらいている

葉巻のタバコのにおいがしてる

こっそりと甘い 大人のかおり


僕の身体はとても小さく

ママの胸にもあまりすぎたの

大きな弟も一緒に抱かれ

僕は唇をつねられた

神さまお願い、僕にあたえて

ちいさな、ちいさな、隠れ家を

僕の身体を折りたたんで

隠してしまえる隠れ家を



大人になったら

行きたいところはどこだった?

「隠れ家がほしい」と言ったら

おじいさんは「そんなことは容易い」と

にやり笑って指差した

遠い昔に海賊が

宝を入れてた宝箱

でも、僕が入るには小さすぎたの

僕は少し、大きくなりすぎた


骨を抜いて

目をくりぬいて

髪の毛も全部ひっこぬいて

ぜんぶ丸めてしまったら

今でもここに入れるだろうか

少し考えてしまったら

それは甘い蜜だった

神さまお願い、僕にあたえて

ちいさな、ちいさな、隠れ家を

僕の身体を折りたたんで

隠してしまえる隠れ家を


僕は勇気をふりしぼり

散々迷って、ちょっと泣いてから

心臓ひとつを取りだして

宝箱の一番奥底にしまいこんだ

カタン、とフタを閉じた時

僕の心臓は、どくん、と音立てた



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