こがらしの井戸

葵流星

こがらしの井戸

わたしが幼い頃住んでいた村の山の中に井戸があった。


「こがらしの井戸」という、井戸で、井戸というよりはため池のようなものだった。


そして、いつもふたがしてあった。


近くの小川から水門を開けて、水を溜め。


井戸の底、まあ、大きな空間があるのだが、そこに溜まった水を排水する為の水路があり、そこの水門を開くと水を排水できる。


そんな仕組みのものがあった。


ただ、その井戸は定期的に干上がっており、また、水を汲むためのポンプや滑車すらもなく、時おりバケツが置いてあった。


井戸の底は、泥があり、年に数回、お供え物として土と果物を池の中に放るという儀式があった。


決まって、その後は、大人たちは酒を飲んでいた。


私を含めた子供たちには、甘いもの…季節にもよるが大抵は砂糖菓子が配られた。


そして、あるわらべ歌を聞き、歌った。


『服を織りましょっ、せっせつのせ。


石を拾いまっしょ、よっこらせ。


おねんねしまょう、ねんねこね。


おとうさんがつれて、おかあさんがつれて、


ばっちゃがつれて、じっちゃがつれて、


ふくをきせて、なわでしばって、


ふゆをこしましょう、そうしましょう♪


みずにみちたいどでなきゃならん


かれたいどにはむしがつくけん


わすれんなよなや、くれにいけ


おとをきって、よびませぬ


((一番最初に戻る))」


こんなわけのわからない歌だった。


そして、東京に出た私は、数十年ぶりにこの歌を聞いた。


他には、名古屋の公園で…。


ただ、そんな懐かしい記憶がよみがえった。


こがらしの井戸





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こがらしの井戸 葵流星 @AoiRyusei

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