青春起結
鈴木魚(幌宵さかな)
第1話 喧嘩と告白
由理(ゆり)は激怒した。空気も読まずに告白してきた和樹(かずき)に怒り心頭に発(はっ)した。
その日、由理は親友の知美(ともみ)と喧嘩をした。
きっかけは些細なことだったが、仲直りができないまま放課後になってしまった。
知美の方から話しかけてくれるかもしれない、そんな淡い希望を抱いていたが、知美は一人でさっさと帰ってしまった。
「知美のばか」
由理は誰もいなくなった教室で机に突っ伏して、ぐずぐずと時間を潰していた。こんな苦しくて、悲しい気持ちになるのなら早く謝ればいいのに……。
頭ではわかっていても、素直になることが出来ず、後悔のため息ばかりをついていた。
その時ガラッと、急に教室の扉が開く音がした。
由理は勢いよく振り返った。
「あれ?お前まだいたの?」
教室のドアが開く音とともに、野球部のユニホームを着た和樹が入ってきた。
「なんだ、和樹か」
由理は再び机に突っ伏した。
「なんだって、なんだよ」
和樹は由理の横を通り過ぎ、自身の机の中に手を突っ込んで、何かを探し始めた。
そのうち、机の中から明日提出の課題プリントを引っ張り出し、畳んでポケットにしまった。
「あ、そうだ」
和樹が由理の方を振り返った。由理は首だけを動かして和樹を見る。
「俺、お前のこと好きなんだ」
数秒の沈黙。
「……は?」
「付き合わない?」
晴天の霹靂。寝耳に水。
突然のことで由理は和樹が何を言ったのか理解できなかった。
「え、」
「まぁ、また返事くればいいから。じゃあな」
和樹は由理の言葉の途中でそう言うと、慌てて教室を飛び出して行った。
え、どういうこと?和樹に告白された?
由理は呆然としながら体を起こした。
「なんで今?」
真っ先に思ったのは、そんな疑問だった。
同じクラスなのだから、由理と知美が朝から喧嘩していることは知っていたはず。
そして、今は気まずい雰囲気になっていることも。
それなのになぜ今告白した?
なんでこのタイミングで?
様々な「?」が頭の中を駆け巡っていく。
突然の出来事に由理はしばらく放心していたが、徐々に和樹の行動に対して腹が立ってきた。
空気も読まずに告白してきたあいつはなんなんだ!?
由理はすぐにLINEアプリを立ち上げて、知美に電話をかけようとして、
「あ、今、喧嘩中だった」
通話ボタンを押すところで一瞬だけ躊躇ったが、由理はそのまますぐにボタンを押した。
「……何?」
数秒のコールの後知美が出た。
不機嫌そうな声をしているが、その声を聞いただけで由理は安心してしまい、言葉が止まらなくなった。
「知美、今日はごめん。私が言いすぎた。それより、聞いてほしい話があるの!」
「え、あ、何?いや、私も悪かったから、ごめん。それよりどうしたの?」
「今、和樹に告白されたんだけど、タイミングもシチュエーションも最悪なの!聞いてほしい」
「え、告白されたの!?」
電話の奥で知美が叫ぶ。
「いつ?今?」
「そうたった今!知美と仲直りできなくて落ち込んでたら、急に告白された!」
「え、何それ?由理はまだ学校?今から駅前のカフェ行くからそこで話そうよ」
「うん、ありがとう」
由理は、鞄も持って教室を飛び出した。
こんな簡単に仲直りできるなら、最初から謝ればよかったな。
ずっとイジイジと悩んでいたことがバカみたいに思えてきて、走りながら由理は赤面した。
*この小説は「文芸貴久書店 3号」に投稿し、掲載された作品です。
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