自覚
体をしたたかに打ちつけ、何が、と振り返る。メイファとユルスンの間、鈍く光る鉄色の
「な……」
「メイファ!走って!」
剣を抜きはなったユルスンの背後に人影が見えた。山賊の、いや、旧政権派の待ち伏せだ。
急傾斜からするすると尋常でない速さで人が下りてくる。まるで山猿だ。メイファは擦りむいた膝にも気づかず走りだす。
ユルスンを置いていっていいのか、でも、足手まといになるくらいなら逃げたほうが。後ろ髪引かれる絶望感を無視して懸命にはやくはやくともう一人の自分が
ピィ。鳥の声ではない甲高い音がこだました。見つかった、と悟る。爆発しそうな胸を押さえ、木々を
「お嬢――――」
聞き慣れた声にはっとした。ハオイン。ハオインだ。生きていたのか。涙が盛り上がった。
待った、そんなに大声を出したら敵に見つかる。危ない。どうしよう。慌てて目だけを動かす。
「おじょう――――おじょう――――」
「…………?」
四方から反響が聞こえる。いつまでも。頭がぐらぐらしてきてどっと冷や汗が出た。なんだか、だんだん声が野太くなっている気がする。
「メイファおじょうさん――――さん――――」
息を詰めて気配を消す。近くでがさりと足音がした。
「ひっかからんな」男の低い声。
「幻術でもかましてみろ」別の声。さらにもうひとつ。
「山のまわりに『線』を張るだけでどれほど力を使ったと思ってる。限界だ」
「稀代の
「なんだと」
「まあまあ。あっちは?」
「さてね。もう討ち取ったろ」
メイファは口を押さえた。ユルスンが……そんな。
「しょうがねえ。俺のかわいこちゃんを使うか」
ピィ、と口笛を吹いた。二つ返事で犬の吠え声。
「おい、食い殺させる気か」
「どうせ
「もったいねえって話」
「たしかにな」
少しだけ男たちと距離があいた。メイファはそろそろと移動する。心臓が口から飛び出そう。吐き気を飲み下し中腰になった。
「ああ、いたいた」
「えっ……」
くるりと視界が回転した。足が宙に浮いている。易々とメイファを肩に担ぎ上げた四人目の男は手を振った。
「いたぞ。帰ろうぜ」
「おー、でかした」
『や……やだっ!降ろして‼』
錯乱して西語を失念した。がっしりと掴まれてびくともしない。
「活きがいいこと」
「何言ってるか分からんが」
『待って、いやだっ!ユルスン、助けて、ユルスン‼』
「ん……おい、ユルスンて言ってないか」
「チッ。手なずけられやがって。聞きたくねえ、口ふさいどけ」
これから生涯暮らすことなるアニロンをもっと知ろうと思ったのに。王に会ってみたかったのに。ユルスンともっと仲良くなりたかった。仲良くなって…………。
それから?
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