僭王の花嫁
合澤臣
序章
急転
「……というわけで、そなたの嫁入りが決まった」
あっけらかんと投げやりな声が頭上に降って、礼も忘れてぽかんと見上げた。
黄金の玉座、顔の見えない男は笑い含む。至極寛いだ様子で頬杖をついたまま酒杯を傾けた。
「話を聞いていたか?我が妹よ」
「…………は…………」
妹――わたしが。そうか、わたしか。我に返って再び床に額をこすりつけ、垂れてきた冷や汗の感触に悪寒を強めた。
「ファ……
「かの地は我が国より気候厳しく住みにくいと聞く。市井で育ったそなたなら宮にいるか弱き姫らよりよほど頑強であろう?それにあちらの商人とも交流があるらしいではないか」
ぴったりだな、と手を挙げた。
「難しいことはない。先代がそなたの母を見初めただけはあって
公主――わたしが。宮城なんて今日生まれて初めて入ったこのわたしがそう呼ばれるなんて、天地がひっくり返ってもありえない、考えたこともないことだった。
「降嫁は一年後だ。それまでに、その芋くさい振る舞いを直して少しはマシになれ」
高らかに嘲笑った腹違いの兄でドーレン帝国の皇帝は次いで酷薄に吐き捨てた。
「アニロンの野蛮人どもを骨抜きにできるよう、せいぜい精進せよ」
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