りんご猫物語 ~ノラ猫と呼ばないで アタシはジイジの娘 人間なの~
イケイケ
第1話 プロローグ
「まぁシャムちゃん、一週間もどこに行っていたの?あっ耳をかじられてるじゃないの。鼻の頭も傷だらけ」
シャムは力なくミァ~と鳴いた。家(うち)までたどり着けば、後はご主人さまが助けてくれる。
シャムはスープのキャットフードを出してもらい、一週間ぶりの食事にありついた。
一通り治療を終えると、医者は言った。
「恋のシーズン、オス猫はメス猫を探して遠征しますからなぁ。
美猫ともなれば、争奪戦も激しい。
タイの王室で飼われていたというシャム猫は、荒ごとには向いていないので、ケチョンケチョンにやられたのでしょう。
きっと物陰に潜み、飲まず食わずで、じっと傷が癒えるのを待って、帰ってきたのでしょう。」
「まぁシャムちゃん可哀想に、次の秋にまたチャンスがあるから、気を落とさないでね」
しかしシャムはそれに反するように、口角を上げてニンマリと笑った。人間なら親指を立てて、サムズアップしそうな、笑顔だった。
街一番の美猫と噂のスノーは、名の通り真っ白な猫だった。
スノーはこの春、白いメス猫二匹とオスのシャム猫一匹を産んだ。
彼女の争奪戦に何匹ものオス猫が集まったが、勝ち抜いたのは歴戦のボスネコだった。
しかし、意気揚々と近づいてくるボス猫に、スノーは猫パンチを食らわせ、そっぽを向いた。
そして脇でへたばっているシャムを、優しく舐めた。
スノーは面食いだった。そしてシャムはイケメンだった。
タイの王室から受け継いだのか、シャムは棚ぼた体質で、労せず美味しい所を持って行く、幸運を持ち合わせていた。
棚ぼた体質は生まれたオス猫にも受け継がれ、唯一里子に出されず、母猫の元でぬくぬくと育った。
遊び相手は、お隣の同い年のキジトラのメス猫で、大人になっても厳しい争奪戦に巻き込まれることなく、二匹は何の障害もなくパートナーになった。
幾度目かの春、二匹の間に数匹の仔猫が生まれたが、その内の一匹が、メスのシャム猫だった。
仔猫たちは、出の良いおっぱいを奪い合った。
お隣だったこともあり、珍しいことに父のシャム猫も、子育てに熱心だった。
二匹は我が子達を、愛おしむように舐めて、毛づくろいをした。
仔猫たちも、ママンとパパンのナメナメが大好きだった。
おっぱいの時のように、アタシもアタシもと、両親の愛情を奪い合った。
離乳期を迎えると里子に出されるが、残念なことに祖父と父が持っていた棚ぼた体質は、メスのシャム猫には引き継がれなかった。
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