第15話

「ふぇぇ...... だいじょうぶかぁ...... サキミ」


 ヨタヨタとディンがやってきた。


「魔力がなくなったのか......」


「ああ...... 魔法が切れたみたいだ......」


 そういってその場に倒れた。


「ほい、ポーション」


 ポーションをディンに飲ませた。


「これ飲んだほうがいい」


「......私にもいただけるのですか?」


 少女はためらいながら聞いた。


「そのダメージじゃ動けないだろ」


「あ、ありがとうございます......」


 そういって俺から少女はポーションの瓶を受け取った。


「ぷはっ! やりきったあとは格別だな! それにしても余にあの魔法をかけるとはな」


「賭けだよ。 この魔法いつまで持つかはわけらないからな。 先にデュラハンにかけて時間を稼いだ」


「うむ、余も何とか放てた。 全力とはいかずとも倒せるだけの魔法だったな」


「よくわからないけれど、あれが全力じゃないのですか!?」


 そう少女が驚いている。


「ふむ、そうだがお主は」


「あっ、失礼を私はセレネ・モーリアスと申します。 飛行船のときと共に助けていただきありがとうございました」


 そう丁寧に深々と礼をした。


(言葉遣いやこのふるまいから貴族とかか......)


「モーリアス......」


「俺はサキミ、こっちはディンだ。 それでセレネはなんでこんなところにいる冒険者か」


「いえ、私は冒険者ではありません。 騎士...... いえ、この城を一目みにやってきました」


「この城をみに?」


「......はい」


 思いつめたようにセレネは目を伏せた。


「なぜだ? この城にはもはやなにもない。 天井すらなく朽ちた瓦礫があるだけだぞ」


 ディンが聞くと、セレネは口をつぐむ。


「......ここは伝説の魔王の居城でした」


(ディンのことか)


「その話って千年もまえの話だろ」


「知ってるのですか!?」


「ま、まあ」


 ディンはなにかを思うように黙っている。


「それでその魔王の城をみてどうする? 観光客なのか」  


「いえ、あなたは魔王ディンプルディのことをどれぐらいご存じですか?」 


「いや、ただのアホな子としか...... いたっ!」


 ディンが俺を蹴った。


「?」


「いや、千年前にいた魔王としか......」


 俺はごまかした。 セレネが何者かわからないからだ。


「......そうですね。 ほとんどの人は勇者セリアのことしか知りません。 昔話や伝承には名前ではなく魔王としかのってませんから......」


「それで、そなたはなぜそんな昔の魔王のことを」


「......はい、実は私はかつての勇者、セリア・モーリアスの子孫なのです」


「えっ? 勇者の子孫」


「はい...... お恥ずかしながら」


 そういって恐縮している。


「......余は少し席をはずす、調べものがあるでな」


 そういってディンは城の奥へと向かった。


(なんだあいつ...... 勇者のこと気にならないのか)


「それで、その勇者の子孫がなんでわざわざこんなところに、祖先の偉業を確認にきたとか?」


「いえ、逆です......」


 そういいづらそうにセレネが険しい顔をする。


「逆?」


「歴史は邪悪な魔王を勇者セリアが倒した、ということになっておりますが、実際は違うのです......」


 そうセレネは目をふせる。


「違う?」


「魔王ディンプルディは人間と魔族の対立を避けるため、人間の大陸ともっとも近いこの場所に建国したのです」


「ん? そうなのか、それでなんで勇者に倒されたんだ?」


「どうやら、魔王が何者かとの戦いで疲弊したのをいいことに、人間側が戦争をしかけたのです。 もちろん悪の魔王を討伐するという名目で...... その時、田舎の小国にすんでいた騎士セリアはそれを知らないまま神の啓示をきき、魔王との戦いにかりだされ戦ったのです」


「ふーん、騙されたのか」


「はい...... ですが、倒したあと騙されたことに気づいたセリアは、そのことを悔いましたが、人間側は勇者ともてはやしました。 そうすることで自らの正統性をえようとしたのです。 セリアは訂正しようとするも、それが叶わず後悔のうちになくなったそうです」


「なるほど......」


「それは代々我が一族にに日記として伝わっていたのです」


「それで、ここにきたのか」


「ええ代々、その事を忘れないように、我が一族はここに参じているのです」 


「そうか...... まあ、でもセレネが悪い訳じゃないし、魔王も許してくれるんじゃないか、意外とアホの子だけど器が大きいし」


「器が大きい?」


「い、いや、魔王ぐらいのものになるとそのぐらいの器があるかなって」


「かもしれません。 魔王を倒すとき、恨み言のひとつもいわなかったと日記にはかかれています。 泣いてたそうですが......」


(まあ、ディンならそうだろうな。 でもそこは泣くなよ)


「それでは私はもういきますね。 ディンさんにもよろしく」


「そうか、じゃあ」


 そういって手を振りながらセレネは去っていった。

 

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