第16話

「おーい」


 奥からディンが何か包みをもって歩いてきた。


「あの娘、帰ったのか」


「ああ」


「なんじゃその顔」


「別に......」


「どうせ、余のことを聞いてそんな顔をしているんだろう」


「お前、これでいいのか、なんか悪党にされてんぞ」


「勝者が歴史を作るのは世の常だ。 人々が余のことを知ったからと言ってどうなるというのだ? 今が平和ならば真実などどうでもよかろうて」 


 そういってディンは笑った。


(なにげに魔王の器だな)


「まあお前がいいならいいけどよ。 それでなんだその汚いつつみ」


「失礼な! まあよくみろ」


 包みの布をほどくと、中から一振の剣がでてきた。 華麗な金の装飾が施され黒い鞘におさまっている。


「剣か」


「うむ、余の所有していたヴォルディオンだ。 サキミが持て、余は剣をつかわぬ」


 渡された剣を掴む。

 

「その剣はよく詳細はわからぬが魔力を切ることができるらしい」


「これをとりに来てたのか」


「ああ、正直、ここに巣くうモンスターは暗黒大陸からやってくる強者、その剣ならば折れないだろうしな」


「なるほど、ならありがたく使わせてもらう」


「よし! ならば帰るぞ。 いや、忘れておったデュラハンだ! 報酬だ!」


「あいつ粉々になったんじゃないのか」


 俺たちはデュラハンが飛んでいったほうに向かう。


「まて! 魔力を感じる!」


「嘘だろ! あの魔法食らっていきてんのかよ!」


「あやつはアンデッド、不死に近いからな......」


 剣を抜いて近づく、森の中の広い場所にでた。 木々が放射状に焼け焦げて地面がえぐれている。


「あの魔法で吹き飛ばされたんだな」


「あれだ!」


 えぐれた地面の中心に砕けた鎧がある。


「鎧は残ってはいるが動いてないぞ...... あれ?」


 近づくと鎧の胸の辺りに結晶がある。


「おい、魔晶じゃないか?」


 上で木に隠れているディンに伝える。


「な、なに!? うわぁぁ、!」


 焦ったディンは転げ落ちてきた。


「いたた...... 本当だ! なるほどこれのせいであの巨大な魔力か」


 ディンはうなづきながら、魔晶から魔力をえている。


「ふぅ、また少し回復したな」


「そりゃよかった。 なら帰ろうぜ」


「そうだな。 ああ、それでセレネは他に何かいっておったか?」


「ああ、お前が勇者のまえで泣いてたっていってた」


「なっ! 泣いておらぬわ! 泣いてなどおるものか!」


「そうか......」


「なんだその顔! 泣いてなどおらぬからなーー!!」

 

 ディンのさけびが周囲に響いた。



「泣いてないからな!」


「わかった、わかった。 もう町だぞ。 でこれからどうする?」


「ふん、まあ他のモンスターを倒しにいく。 余たちしか倒せぬようなやつをな」


 依頼書を真剣に見ている。


(こいつ、危険なモンスターを排除するために依頼書をもらってきたのか) 


「ぬ......」


 そのディンの表情がくもる。


「ん? どうした」


「こいつを倒しに行くぞ!」


 そういうとつかつかとあるきだした。


「おい! なんだよ。 まてよ!」



 荒れた岩山のでこぼこ道を歩いていた。


「どうした? なにがいるんだ?」


「ふむ、もしかしたら......」


 そのとき山の中腹にさしかかると、一瞬影ぎできる。


「なんだ!? 今何か上......」


 上をみると大きな翼をもつ爬虫類、ドラゴンと思われる巨大なモンスターが山の頂上へと向かっていった。


「ワイバーン...... いやドラゴン!!? でもすごい毛で包まれてたぞ!」


「ああ、近くに行くぞ!」


 頂上にある洞窟へたどり着いた。


 洞窟内を歩いていくと、先に大きな空間がある。


「いた! ドラゴンだ!」


 その中央に一本角の青いモフモフのドラゴンが伏せている。 寝ているようだ。


「ふむ、一本角のドラゴン...... 依頼書と同じ、近づくぞ」


「まて! フェアネスソウルをつかう!」


「必要ない......」


 そういってディンはつかつかとドラゴンに近づいていく。 俺は剣を抜くとあとをおった。


 そのとき、ドラゴンのまぶたがあき、その金色の瞳に俺たちの姿がうつる。


「ガアオオオオオ!!」


 その咆哮が部屋中にとどろく。


「やるか!!」


「まて!!」


 ディンがとめる。


 ドラゴンの瞳から大きな雫が落ちると、その体は光輝き、女の子に変じた。


「うえええええ! ディンプルディねえさまぁ!」


 そう泣きながらディンに抱きついた。


「ええ!?」


「久しいなティンクル。 息災であったか」


「うええええ!」


 ティンクルと呼ばれた少女はディンに抱かれ、ずっと泣いている。


「何なんだ......」


 俺は呆然とそれをみていた。

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