第11話

「まさかゲイザーまで倒されるなんて......」


 ギルドにもどるとアラミアさんがそういって驚く。


「強いモンスターをたやすく討伐するお二人は一体何者なんですか!?」


「ああ、余はまお...... モゴモゴ」


(いうな! バカ! 魔王なんて知れたら俺たちが討伐されかねん!)


「まお?」


「い、いえなんでもないです! ただのアホの冒険者ですよ」


 ディンの口を塞ぎ、そうごまかした。


「今、強いモンスターの依頼は、ほとんどお二人が達成して依頼がありませんよ」


「そうなんだ。 まあいいかお金は稼いだ」


(これだけあればもうアパートの家賃収入でやってけるだろ。 くふふっ)


「安いものなら依頼はありますけど、あとは闇の世界で有名な怪盗とか、世界的に有名な盗賊団とか」


「盗賊に怪盗...... 見つけるのは難しそうだな。 まあ少しやることがあるから、ではまた、何かあればお願いします」


 そうアラミアさんに話してカードを受け取った。



「百万ゴールドだな。 これで当面はしのげるし、アパートの入居者も探せる」 


「うむ、それに念願の包丁も手に入れられる! あと鍋もまな板もな!」


「ああ、不労所得へレッツゴーだ!」


 アパートに帰るとネメイオがいた。


「お帰りなさい」


「ああ、ネメイオここに入居者を募集したいんだけど、そっちでやってくれるよね」


「ええ、できます。 ただ諸経費がかかりますが......」


「まあ、維持費と仲介料だったら用意したよ」


「それもそうですか、それに......」


「それに?」


「建物を借家などにつかう場合は不動産取得税と、最低限の管理委託費、各種保険料、登記料とそれに関わる司法書士費用、弁護士、税理士への費用、つまり外注費、もろもろこみで九十万ゴールドですね」


 そういってネメイオは微笑み手を出した。


「うあああああああああ!!!」


「ど、どうしたんですかサキミさん!?」


「もうやめてやってくれぇ! こやつの心はもう! もう限界なんだぁぁ!」


「ええええ!?」


 俺は人目をはばからず泣いた。 その時とても夕日がきれいだったことは覚えている。



「う、う、う......」


 俺はまた布団にくるまる。


「まあ、そう落ち込むな。 なっ、一応入居者もくれば家賃収入が入る。 なっ」


 ディンはなぐさめてくれる。


「う、う、ありがとう」

 

「まあ、ご飯でも食べて気長に待とうではないか! 余った金で食材を買った、なにが食いたい?」


「お腹と心に優しいもの......」 


「そ、そうか、わかった! 今よりつくるゆえ待っておれ!」


 ディンは台所にたち調理を始めた。


「なあ」


「ん? なんだ?」


「お前なにしてんの?」


「みればわかるだろう? 料理だ」


「違う。 お前千年ぶりで復活したんだよな」


「ああ、それがどうした?」


「いや、なんかすることあるんじゃないの?」


 その時包丁を動かす手が止まった。


「はあああああああ! 忘れておった!! 余は魔王だった!」


「いまさらかよ!」


「お主に付き合っておって、つい本来の目的を見失っていた! くっくっく、そうだ! 余は魔王!」


 そういうディンは強烈なプレッシャーを発している。


「くっ! まさか! 人間を支配するのか! 話しだいでは聞かんわけでもないぞ!」


「いや、せんよ。 聞かんわけではないって人間裏切るつもりか」


 すんとして正座してそういった。


「なんだよ! 魔王ってそういうんじゃないのかよ!」


「そんなことしてなんになる? マンガとゲームのやりすぎだぞ。 昨日も夜遅くまで読んでたな! 早く寝ないとダメだといっておろう!」


「母親か! だったら、やりたいことってなんだよ?」


「ふむ、余は魔王として国を持っておった。 そこにすんだ者たちの行く末が気になる」


「なるほど...... でももうみんな滅んでんじゃないの?」


「不吉なことをいうでないわ!」


「人間たちは結構裕福だぞ。 こんなガチガチの法律つくれるぐらいだし、ということは魔族滅ぼされたんじゃないの」


「余や魔族は必ずしも人間と対立してたわけではない」


「えっ? 人間の勇者的なやつに殺されかけて逃げたんじゃないのか?」


「......まあな。 だがお主も見たであろう。 あの時代の余の姿」


「ああ、あの魔法使いみたいなのに魔法あげてたな」


「そう、人間ともまあまあ良好とはいわずとも常に対立はしておらなんだ」


「じゃあなんで殺されかけてた?」


「ふむ、色々あってな不覚をとった......」


 ディンは厳しい顔を向けた。


「だが別に人間を憎いわけでもない。 戦争ならば魔族同士とてしていたからな」


 そう笑顔を見せた。


(まあ、何となく、こいつはアホの子だが、悪人じゃないことはわかっていたが......)


「なるほどな、でその国にいってみるのか」


「そうだな...... いかないといけない...... なぜかはわからぬが気になるのだ」


 思い詰めた表情をしてディンはいった。


「なら俺もいくか」


「ここはどうするのだ?」


「ネメイオに頼めばいいだろ。 維持管理費払ってんだから、人が来ないなら暇だし、それに他の国にも冒険者ギルドもあるらしいしな。こし稼いでおこう。 またなにか要求されかねん」


「ふむ...... ならば任せていくか」


「ああ」


(さすがにここまで手伝わせて、俺がなにもしないわけのもいかないしな)


 魔族の様子を見るべく、俺たちはディンの国へと向かうことにした。

 


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