人生を謳歌する

ByaKuYa

断編

第1話 新しい世界へ

「はぁ…」


下校中、ふとため息を吐く。


(先日のテスト、はっきり言って良いとは言えない。今日もまた、怒られるだろうな。)


とは言ったが、正直な話90点は越えてる時点で十分良いと言えるだろう。

なら…な。


(俺も、の家に生まれていたら。)


俺の家は代々続く大企業。その嫡男として生まれた俺は、物心ついた頃からずっと英才教育を受けてきた。両親は常に厳しく、何事も一番を目指せと言ってきた。

そのおかげか成績はトップクラス、運動神経も文句なし、正に文武両道と言えるだろうさ。


(けど、現状一番という訳ではない。)


今までも二番三番にこそなってきたが、一番になったことはなかった。

その度に両親から怒られ続けてきた、そんな毎日だ。


(なんて、時代錯誤も良いところだよ本当に。)


はっきり言って、俺はそんな毎日に辟易していた。


(こんな誰かに縛られ続ける人生なんて、終わってしまえばいいのに…!)


心の中で叫んだところで、どうにもなるはずもない。


「…ッ!?」


刹那、全身に衝撃が走る。

身体中がとにかく痛い、全く動ける気がしない。何が起こったのか、全く分からなかった。

喧騒が響き渡る。そこで初めて、俺は事故に遭ったのだと理解した。


(俺は…死ぬのか…?)



俺は死を予感した。近くから「大丈夫か!?」「早く救急車を!?」という声が聞こえたが、すでに手遅れだろう。

薄れゆく意識の中、俺は思った。


(これでやっと…解放される…)








あれからどれぐらい時間が過ぎただろうか。薄れたはずの意識は戻っていた。

俺は助かったのだろうか?

だが、できれば助かりたくなかった。あんな生き地獄のような人生なんて、まっぴらごめんだからな。


「…うぅ…ん?」


恐る恐る目を開ける。


そこにあったのは、見渡す限り真っ白な空間だった。


「…は?」


無難な疑問文が口から出てきた。


「こ、ここは!?俺は、死んだはずじゃ!?」


事故に遭ったときとは違って、現状を全く理解できない。


「落ち着きなさい。」


「…ッ!?」


ふと聞こえてきた声に、驚いて顔を向ける。

そこには、一人の女性が立っていた。いや、女性と呼ぶには、あまりにも神々しかった。一言で表現するなら、


「女神様…ですか…?」


思わず敬語になる。


「その通りです、よくお気づきになりました。」


戸惑う俺の疑問に、女神様はあっさりと答えた。


「えっと…あの、俺は死んだはずでは…?というか、ここはいったい?」


「では、順序を追って説明しましょう。」


そう言うと、女神様は俺の置かれた状況を説明しだした。


「貴方は不慮の事故に遭い、命を落としました。ここまでは分かりますね?」


「…分かり…ます。」


「分かりました、では続けましょう。」


安心したかのように、女神様は話を続けた。


「死後の貴方は魂となり、私がこの空間に呼び寄せたのです。」


「それはなぜですか?」


俺の問いかけに、女神様は微笑んで答えた。


「貴方に幸福な人生を送ってもらうためです。」


「それはどうして?」


次の問いかけに、今度は悲しんだような顔で答えた。


「貴方は生前、不幸な人生を歩んでいました。そんな貴方を見て、私は哀れみを覚えたのです。」


そう言うと、今度は再び微笑みを浮かべて話を続けた。


「故に私は、貴方を私の創造した世界へ送り、新しい人生を歩んでもらいたいのです。」


「女神様の創造した世界?」


「そう、私の創造した世界です。貴方が今まで暮らしていた世界とは全く異なる世界、と言うべきでしょうか。」


「異世界…」


確か学校でクラスメイトたちが話していた言葉だ。そんな世界が本当にあったのか。


「説明は以上です。なにか聞きたいことはありますか?」


「えっと、とりあえず状況は分かりました。」


「なら良かったです。」


女神様は安心したようだ。


「では、異世界へ行く前に、貴方の要望にお答えいたしましょう。」


「要望というと?」


「名前、容姿、能力、貴方の理想を全て叶えるということです。最強の強さを手に入れたい、強大な魔法が使えるようになりたい、何でも構いません。」


「何でも…」


俺は考える。

考えた末に出た答えは、


「不自由さえなければ、特に希望はありません。」


俺の答えに、女神様は一瞬目を見開き驚いた。しかし、すぐに笑みを浮かべ、


「貴方は無欲なのですね、実に素晴らしい。」


どこか満足したかのようだった。


「では、私のおまかせで構いませんね?」


「はい。繰り返しますが、不自由さえなければそれで構いませんので。」


「分かりました。それでは…」


言い終わると、女神様は何かを唱え出した。

すると、俺の足元から眩い光が溢れ出してきた。


「あの…これは!?」


「安心してください。貴方を異世界へと送る準備をしているだけです。」


「そうでしたか…」


女神様の言葉を聞き、俺は安堵した。


「最後に、もう一度だけ言います。貴方はこれから、自由な人生を送ってください。誰にも縛られることのない、貴方だけの人生です。」


「俺だけの…」


「その通り、貴方の思うがままに生きてください。どのような人生を歩むのか、それは貴方だけが決められるのです。」


「…ッ!…ありがとう…ございます。」


その言葉に、俺は涙を流して深謝した。


「さぁ、お行きなさい。貴方の人生に、幸福があらんことを…」


その言葉を聞いた後、俺の身体は光に包まれた。


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