第35話 逆膝枕(羨ましいだろー

「ふふん♡ 市川パイセンとのお勉強楽しいなー!」

「何が楽しいんだよ……」

「だってぇ、市川パイセンと2人きりでお勉強できるの【あたしだけ】もん」


 相変わらず、でかめの声で話す桜庭。


 最近、なんだかちょっと変だ。


「じゃ、次は数学な」

「ええー! 数学は嫌いっす」

「苦手科目なんだからやらないとダメだろ」

「うーん……じゃあ、数学終わったらご褒美ください」

「それだけでご褒美はなあ……」

「モチベを上げるためっすよ!」

「何がほしいんだよ」

「【膝枕】してほしいっす!」


 膝枕、を強調して言う。


 まるで誰かに向かって叫ぶように。


「まあ……いいけど。その代わり真面目にやれよ」

「はーい♡」


 ★


「終わったー!」

「すごいな……」


 数学の問題は全問正解。


 ずっと数学が苦手だったはずだったのに。


「よく頑張ったな」

「ふふ……じゃあ、市川パイセン?」

「なんだよ?」

「もお! 本当はわかってくるくせにー!」


 ぼふっ!


 桜庭の頭が俺の膝に。


「ふふん! 市川パイセンの膝、気持ちいい〜〜♡」

「そうなのか……?」

「はい! 至福の幸せ! 【誰かさん】はこんなことしてもらったことないだろうなー!」

「誰かさんって?」

「こっちの話っす! 市川パイセンは気にせずにー」


 この部屋は俺と桜庭しかいないはずだが……?


「市川パイセン、頭ナデナデして!」

「いいのか」

「うん! してほしいっす!」


 桜庭のきれいな髪を、軽く撫でる。


「はあー! めっちゃ気持ちいいし、落ち着くっす」

「寝るなよ」

「ぶー! 寝ようと思ってたのに……」

「お前なあ」

「どうだ、誰かさん。羨ましいだろー」


 ★


「くっ……う、羨ましくなんか、ないんだからね」



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