目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~
第16話 俺、陰キャモードなのに注目される
第16話 俺、陰キャモードなのに注目される
翌日。
「ど、どうした暁斗。顔が死んでるぞ」
朝の予鈴が鳴る前の時間。
登校してきた楽人は、俺の顔を見るなりそう言ってきた。
「ああ、気にするな。今は大丈夫だ」
「……いや大丈夫には見えないが」
「それより、もし廊下に芹さんが現れたら教えてくれ」
「お、おう。もしかして、告るのか!?」
「いや。今芹さんと目が合ったら……俺は死ぬ」
「死ぬっ!?」
あまりに楽人がオーバーなリアクションをするので、クラスメイト達が「なんだなんだ」と俺達の方を見る。
しかし、そんな視線も気にならないくらい、俺は頭を悩ませていた。
昨日あんなことがあっての今日だ。
今すぐに芹さんが俺のところにやって来て「護衛やってください!」とか言ってくるシーンが、脳内再生余裕である。
この学校の高嶺の花であり、現役アイドルであり、大人気ダン・チューバーである彼女が、「紋無し」であり、陰キャであり、ぼっちである俺に話しかけてくる。
そんな天変地異が起きれば、一日と待たず学校中の噂になり、瞬く間に俺の日常がぶっ壊されてしまうだろう。
それだけでも死活問題なのに、俺の正体をこの場でバラされてしまうかもしれない。
さらば、俺の平穏な陰キャ生活。
俺は、せめてもの現実逃避と机に突っ伏した。
――絶対、芹さんが絡んでくる。
そう身構えていたのだが。
一時間目が過ぎ、二時間目が過ぎ、三時間目が過ぎ。
四時間目も無事に終わって、昼休みに突入しても、一向に芹さんがやって来る気配がない。
おかしい。
一体どういうわけなんだ?
不思議に思いながら、そうしている間にも時間は過ぎていき――遂には放課後になってしまった。
「結局現れなかったな」
「何が?」
俺の独り言に反応し、首を傾げる楽人に「こっちの話だから気にするな」と告げる。
放課後になり、教室から半分以上の生徒が出て行った。
俺もその流れにあやかり、教室を出ることにしよう。
机の横にかけた鞄を引っ提げ、楽人に「そんじゃな」と軽くあいさつしてから教室を出る。
とりあえず、弓道場に行って練習でもするとしよう。
そう思いながら、下校する生徒達の喧噪が溢れている廊下を歩く。
当然、俺のような話しかける価値もない「紋無し」&ぼっちの俺など、誰も気に留めない。
だが、そんな影の薄い存在である俺も、強い光に照らされればたちまちそれに浸食されてしまうというもの。
「いた!」
廊下全体に響き渡る、凜とした声。
その声は、喧噪溢れる中でなお、鋭く廊下全体を駆け抜けた。
その上で、声の主があの人だったから――必然的に廊下を支配していた喧噪が止む。
「……げ」
かくいう俺も、声のした方を振り返って戦慄した。
このタイミングで出てくるのか……!
廊下の向こうに、例のアイドルが立っている。そして、その視線は紛れもなく俺の方を向いていた。
「なんとか間に合った……」
そんなことをぼやきながら、まるでスケ番のようにずかずかと歩いてくる。
「なずな様よ!」
「一体どうしたんだ? 何か気に障ることでもあったのか?」
そんな囁きが、生徒達から上がるのも気にせず、芹さんは俺の方に歩いてきて――がしっと力強く腕を握ってきた。
「なっ! ちょっ、芹さ――」
「ちょっと大事な話があります」
「え? 話?」
「ここでは目立つので、場所を変えます。こっち来てください」
芹さんは俺の質問に答えず、ぐいっと腕を引いて歩き出した。
何事かと見守る生徒達の群れをかき分け、強引に俺を引っ張って歩く。
「誰? あの人」
「なずな様とどういうご関係なのかしら」
「まさか――なずな様の思い人!?」
「バカ。あり得ねぇよ。あいつ「紋無し」じゃねぇか」
「そうですわね。でも……なずな様が同年代の殿方と気さくに接しているのは、初めて見ましたわ」
「あの野郎「紋無し」のくせになずな様に触りやがって!」
「「「「許さん、許さん、許さん」」」」←芹なずなファンクラブの面々。
彼等の横を通り過ぎる度、そんな言葉が聞こえてきて――
女子達の懐疑の目と、男子達の血走った目が俺に向けられる。
なあ、芹さん。
さっき「ここでは目立つから場所を変える」と言ったな。
もう、取り返しの付かないレベルで注目されてるんだよ!
俺は、芹さんに連行されながら心の中で涙を流した。
学校のアイドル芹なずなと、謎の「紋無し」陰キャ男子が、手を繋いで歩いていた。
その大ニュースは、当然瞬く間に学校全体に知れ渡ることとなる。
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