第九話 真実
「……レ、レイス様……! き、奇遇でございますね!」
「なぜ貴女がここに?」
落ち着かない様子でおどおどしていた侍女長は、間髪入れずに切り返した俺の質問で黙り込んだ。それでも続けて問い詰めてみる。
「その箒と塵取りは?」
「えーと……あの、わ、私の友人がやっていた“お店”を閉めると聞いて……か、片付けを手伝っておりまして」
店を閉めるだと?
それを聞いた途端、俺は「どいてくれ」と侍女長を強引に払いのけて小屋に入った。体が勝手に動いたのだ。
しかし、小屋の中はもぬけの殻だった。
煌びやかに壁を装飾していた飾りや燭台も、シルクのクロスが敷かれた丸いテーブルも、茶葉を仕舞まっていた可愛らしい木製の棚も、全て綺麗サッパリ無くなっている。
目の前には、殺風景な部屋が広がっていた。
「あの……急いでおりますので私は失礼――」
「待ってくれ」
俺が振り向くと、呼び止めに応じた侍女長もぎこちない様子でゆっくりと振り返った。
「少しだけ貴女と話す時間が欲しい。いいか?」
「は……はい」
「ここにいた占い師は貴女の友人と聞いたが、彼女は今どこに?」
「それが……友人からは『誰にも居場所を教えないで欲しい』と言われておりまして、た、例えレイス様でも……お教えすることは出来ません」
「そうか。では、彼女が“重大な犯罪”を犯している可能性があり、早急に行方を突き止めなければならないとしても……か?」
「そんな! お……あの子が犯罪なんて犯すはずが――」
「可能性の話をしている。だが重要参考人として聴取しなければならない人物を、貴女の私情で隠すと言うのなら余計に“怪しい”と判断せざるを得ない」
畳み掛けるように尋問の如くそう告げると、侍女長は焦りを隠せない面持ちで冷や汗をかいていた。
もちろんこれは出まかせだ。だが、俺が見る限り侍女長も十中八九“嘘”を吐いている。
『――女は咄嗟に嘘をつく時、よく相手の“眼”を凝視することが多いんですよ~。視線を逸らすと挙動不審に見えますからね――」
オリヴィアの言うことが本当ならば、俺の目を不自然に凝視する侍女長は、あの占い師について何か隠している。
また、あの人が店の後片付けをいくら友人でも侍女長一人に任せるような人物に思えない。責任を持って最後までいるはず。
塞ぎ込んでしまった侍女長に、俺は口調を緩めた。
「すまない……今俺がした話は嘘だ。だから安心して欲しい。だが、貴女が占い師の秘密を隠していることはもう判っている。俺はどうしても“あの人”に会いたいんだ。正直に話してくれないか……この通りだ」
そう言って――俺は頭を下げた。
すると侍女長は「そんな、お顔をお上げください!」と声を上げた後、観念したのか肩を落としながら深く息を吐いた。
「もしかして、その花束は……あの人にお渡しするのですか?」
「ああ、そのつもりでここへ来たんだ……四十本ある。この意味は、君にも解るだろう」
突然、侍女長は持っていた箒と塵取りを床に落とし、口に手を添えて目に涙を滲ませた。それに困惑した俺が何と声をかけるか悩んでいると。
「あの人は……あの占い師は……お嬢様なんです」
な……。
「今……なんと――」
「占い師の正体は……レイス様がご婚約を解消された……アイシャ様なんですよ!!」
頭が真っ白になるのと同時に、身震いするほどの鳥肌が立つ。
そして全身の力が抜けた俺は、握りしめ過ぎて茎が折れてしまったカーネーションの花束を落としてしまった――。
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