女流棋士までの恋

宗谷ソヤナー

第1話 ライバルの来訪

「ごめんください!」


 私の家の玄関に、女の子の大きな声が響き渡った。


「やっと来たわね! 待っていたわ!」


 私は、廊下を走って玄関に向かった。

 その場所には、とっくりの白いセーターとジーンズを着たショートカットの少女が立っていた。その右手には、ピンク色の傘をにぎっている。

 彼女の名前は、鎌倉美冬だ。私……藤沢夏織のライバルと言うべき存在だった。


「お邪魔します!」


 美冬は、そう言いながら自分の傘を玄関の傘立てに入れた。今は、家の中でも音が聞こえるくらいの勢いで激しい雨が降っている。まるで、川のせせらぎの音を聴いているかのようだ……。

 私は、彼女を自分の部屋へ連れて行く。準備は、万端の状態にしてあるから大丈夫だ。

 私は、部屋のドアを開けてそのまま進んでクルリと振り返って座り、そのままあぐらをした。私は、スカートを穿いているけれども、彼女の前ではいつもこのような振る舞いをしていた。一方、美冬は私に相対するように正座で座ってきた。

 そして、私たち2人の間には既に将棋盤と駒箱を置かれていた。


「じゃあ、夏織。振り駒をお願いするわ」


 美冬は、そう言って駒箱から「歩兵」と書かれた駒を5枚取り出した。私がその5枚を部屋のカーペットが敷いてある床へ降ると、表に書かれた「歩兵」が3枚、その裏に書かれた「と」が2枚、それぞれ上を向いた……良し! 私の先手だ! 幸先の良い流れだ。先手の方が、後手よりも僅かに勝つ確率が高いからだ。

 そして、私達は駒を並べてそのまま対局を開始した。


 今日だけは、絶対に負けられない! 


 私と美冬は、同じ高校の同級生で将棋部に入っている。私達の周りは、男子ばかりだったが、私達はその中でも群を抜いて強かった。男子達を次々に倒して、連勝を重ねていった。

 私は、近い将来に研修会に入って女流棋士になりたいという夢があった。美冬の方も、私と同じ目標を意識していたので……そして、私と実力が近いことから、何度も将棋でお互いにぶつかり合ってきた。私達の対戦成績は、完全に五分五分だったと思う。この美冬に対して連勝することは、かなり難しい。


「けれども、今回は絶対に負けられない!」


私は、思わず大きな声で叫んでしまう……大きな理由があった。

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