明日には、

月光砂空

明日には

また!?と小3になるときの俺は笑う。このときのまたは入学から数えてのまただった


また!と小5の夏の俺は強がる


また,,,かよ!と中2の夏の俺は反抗する


また、か。高3になろうとしたとき俺は受け入れた


また俺は学校が変わって1年程経った

もう学校が変わることは大学入学だけと思うと少し懐古に襲われる


でも次のまたは違うか、みんなにとってもまたで小学校入学から数えるとみんなは4校目になるんだなとふと気づく


じゃあ俺にとっては8校目かと小さく息を吐く

大学にして2周目かよ、プロじゃんと苦笑する


でも次は今までと心持ちだけは違う

自分から友達作ろう、めいっぱい楽しもう、みんなに話しかけてみようって思う

ちょっとイタいとは分かってるけど楽しみたい、それだけだった


今日の卒業式を終えたら俺は自ら巡り会いに行く

自分のこれからに


ただ大学もあいつがいないとな、と少しだけ陰る

いやそんなわけ笑 俺は自分で自分を、きっとみんなも、楽しくさせる


俺はあいつと並べるようになる

大好きで憎むべきあいつ

ずっと先に見えてた小さい背中は実は隣にいたらしいあいつ

でも俺はまだそうは思えてない


今日もういちど本音をぶつけて謝って感謝できるようなやつに俺はなれたのだろうか

お前なぁ、

逃げてんじゃねぇよ、でもお前の逃げのお陰で俺は救われたよ、と


そんな風に今までを振り返りながらあいつに会うため、卒業式へ行くため駅まで道を歩く


初めてあいつと学校で会った日もこんなんだったと俺は過去に引っ張られた



4回目の転校となるともう緊張もなにもない、と本当は鼓動が速い体で呟いたのを覚えている


まだパリッとしているが微かに春を覗かせているいちど練習した道を俺は歩いていた


新しい学校に着いて当たり障りの無い自己紹介の挨拶して席につく


こんな時期にわざわざ、と周囲から奇異の目線を投げられるが咎めてくるような面倒くさいやつはいなかった

俺は大学受験に向けて環境が整った、勉強に集中できる、と強がっていた

平穏に日々を消化しちゃえばいいと思っていたのも事実で

実は俺も荒れてたんだなと今になって思う


そんな俺にあいつは話しかけてきた

周りは俺に注目しているのではなくあいつに注目していて、少数の俺への目線は後付けだが同情に似た匂いを感じた


あいつは気にするでもなくかえって無視しているようでもなく

「君、えっと、しばたにじゅんとくん!よろしくな!僕かりゅうようだい!」

圧倒的陽のオーラに目を細めながらも俺も答えた

「よろしく、かりゅうくん」

あいつは笑う

「ようだいでええよ!僕もじゅんとって呼ぶからさ!」

「分かった、ようだいよろしく」


俺はあとから座席表で彼は隣の席の狩生葉大だと知った

あとからきいた話だがあいつは俺の漢字、芝谷巡人は教科書の名前の欄を覗き見て知ったらしい


そこから俺は周りの目を少し気にしながらも葉大とつるむようになった



巡人なんて名前でやっと巡り会ったのがいい子ぶりっ子かよ、巡り会わせてくれんならもっときらきらしたヒーローが良かったと嘆いたなと駅のホームで懐かしむ


今はあいつをちゃんと悪いところもあるような人間味がある唯一のヒーローだと知ってるし、俺の名前は巡り会わせてもらうために付けられた訳じゃないってことも知った


今日で最後になる学生証の名前のところを撫でる


俺は自ら巡り会いに行く

相手に神様が巡り会わせてくれた人だと思われるようなやつになるための名前


本当の意味はもううろ覚えだがこんなのだったはずだ

意味をちゃんと実感させてくれたやつもあいつだったなと俺はまた過去に飛ぶ



休み時間の教室で半袖のあいつが俺を呼ぶ


「なー巡人ー」


転校して少し経った、緑が眩しい時期だった


「なに」

「巡人って転校多かったんだろ?」

「おう」


なんで突然そんなことを聞くんだと俺はざわついたが伝えられるわけもなく軽く返事をする


「じゃあお前あれだな、巡り会わせてもらう側じゃなくて巡り会いに行く側だな!」

「…そうなのか?」

「だってそうだろ!僕んところ巡り会いに来てくれたしな」


俺はそんな大層なやつじゃなかった

俺からしたら葉大こそが巡り会いに来てくれたやつだとその頃は既に思い始めていた


「いや、別に…葉大が俺に話しかけてくれたんだろ」

「転校してきたのは巡人だろ!」

「まあ、それはそうだけど」

「だからマジありがとうな!僕巡人のお陰で楽しいわ!」

「いや、でも…その、葉大こそ、サンキューな」


俺は初めて葉大に本音でお礼を言った

お礼を言われて照れくさく、伝えられた嬉しさでも照れくさかった



そこからだ

俺が本当にあいつになついて周りを気にしなくなったのは


俺は本音を言うのが苦手だったから本音すぎる本音は昨日まで言えなかったがあいつと毎日を楽しんだ


あいつは眩しかった。あのときのあいつはこの世のものとは思えないほど眩しかった

クラスにも奉仕し、成績も優秀で、運動神経も抜群、面白くていつも笑ってて、ポジティブで、照れずに本音を言ってくれて、俺には最高すぎるほどにすごい友達だと信じてた


なんでクラスの中心にこいつはいないんだろうとそのときは不思議に思うくらいに最高なやつだった


マジであいつに懐いた俺はあいつと色んなことをした


理屈なんかには全く合わない馬鹿みたいなことを毎日して馬鹿騒ぎして馬鹿笑いをした

あれが青春なんだろうなと今でも口角が緩む


修学旅行で恋バナしてどうすればいいかお互いいない好きな人を空想で作ってその空想の人物について真剣に話したり

通話しながら一緒に課題を徹夜でやって、というか優秀なあいつに教えてもらったり

次の日授業中寝てふたり仲良く並んで先生からお咎めを受けたり


楽しかったなぁと電車に揺られて思う

本当に馬鹿だけど楽しい日々だった

想定してた日々とは違う世界だった

あいつのお陰で。あいつのせいで


周りからみれば不格好なコンビだったろう

最初の頃は無口な俺と口数が多すぎるあいつ

時間が経てば少ししゃべるようになった俺と相変わらず口数が多すぎるが表情が柔らかくなったあいつ

対照的だと俺は電車の揺れに共鳴するように少し笑う


1人で過ごすと思った毎日もあいつのお陰でほとんどの時間が2人になったし

あいつが用事でいない休み時間とかは最初は1人だったがクラスメイトと話せるようになったり


でもそのせいであいつについて、周りの違和感の正体について俺は知ってしまった


また走馬灯のように甦ってくる


今から1、2週間前の体の芯まで冷える日だった



あのとき俺はきっとあいつがいない休み時間は暇だとか考えながら窓の外でも眺めていたんだろう


「ね、芝谷!」

「…川淵?どした?」


なんでわざわざあいつがいないときに、とそりゃ怪訝に思った

今思えばあいつがいなかったから1軍男子の川淵は話しかけてきたんだろう


「大したことじゃないんだけどな、芝谷、お前よく狩生と仲良くできるよな」

「え、なんで?笑 葉大いいやつだぜ」

「そっか、お前あれ知らねえのか」

「多分知らん、あれって…?」


胸騒ぎだったんだろう

悪い予感だったんだろう


でも俺は気になった

好奇心に勝てなかった


「最終的な噂でしかないけどそれなら教えてやれる。聞きたい?」

「お、おう」


ごめん、葉大と思いながら俺は聞いてしまった


でも聞いて良かった

お陰であいつを人間だって知れた

本音も言えた

ただ、ただ

あいつはどんなことを思って俺といたんだろう

そう思ってやまなかった


話し終わった川淵が他愛の無い話を続けてチャイム鳴った、と言って遠ざかっていく


俺は掃除をしながらひとつひとつ噛み砕く

埃が何だかうざく埃を床に押し付けた


川淵によると葉大は俺が来る前器楽部にいてバンドを組んでいたらしい


葉大の性格上なんでも楽しく全力でやりたかったということは俺も想像できた


だがメンバーは違った。ただ思い出を作るために、家に帰るのが嫌だから、なんとなく、で入ったようなやる気の無い奴らだったらしい


方向性の違いで解散や脱退なんて学生とはいえバンドではよくある話だろう。むしろそれなら良かった


メンバーが葉大について陰口を言ったりメンバーに色々話す様子や他にもたくさんの写真や動画をストーリーにあげ始めたというのだ


そしてそれに怒って傷付いた葉大がメンバーを殴って問題になったということらしい


埃をつぶしながら俺はそんな程度のことかよ、と強がっていた

つまり結構動揺していた

いくらかっと来ても暴力振るうような奴じゃねえよな


本当ではないといい

俺はそう願う



そしてあいつへの態度をどうすればいいか勝手に気まずいまま卒業へのカウントダウンが本格的に始まった


学校の最寄り駅になって俺は電車から降りて改札を出る


今日の卒業式のあとあいつにもう1回話をしよう


冷たい空気が一気に肺に入り込んで身震いをした

あいつと初めて怒鳴りあった昨日は何だか怖くて武者震いをしたなと嫌でも昨日を思い出してしまった



そういえばいつも話すときはあいつからが多いんだと思い知った

それにここ1週間くらい俺はあいつに煮え切らない態度をとってしまったからなんとなく気まずい


なんて口を開けばいいか分からない

でも今日は俺から口を開かなきゃと思って放課後の騒がしい教室で帰る支度をするあいつに体を向けた


「な、ね…、なあ葉大、あとでさちょっと聞きたいことあんだけど…遊歩道通って一緒に帰ってくんね?」

「まーいいけど、そんな改まる話なの?」

「まあ、うん、そう。2人がいい…かな」

「おけおけーちょい待ってて僕もうそろ出れる」

「ん、了解」


今日は特に手が冷たい

俺の心持ちのせいなんだなとか思いながら遊歩道についた

どう口を開いていいかやはりわからず口をパクパクさせているとあいつが先に息を吸った


「で、なんなの、話って」

「え、あ、うん、あー…えと」

「僕の前の話、聞いたんだろ」


虚を突かれた

俺は明らかに動揺してそれはYes同然の態度だったと思う


「…やっぱりなー笑 最近よそよそしいと思ったんだよ」

「ちょっとまって俺から全部言わせて、な?」


俺は川淵から聞いたことをそのまま言って事実確認をした

あいつの答えはなぜか微笑んでいながらのYesだった

でも俺が聞きたかったのはこういうことじゃなくて、俺が伝えたかったのはこれだけじゃなくて

もういちど冷たい空気を吸おうとしてもあいつの雰囲気が少し変わったような気がして少し躊躇したけど俺は声を出した


昨日の夜に考えに考えたあいつを傷つけないようにする言葉


「別に俺はさ…葉大から離れようとしねえよ。だってそれ正当防衛じゃん。俺は事実確認してお前に大丈夫だって伝えたくてs」

「だっる」


遮られた。そう、初めて葉大に遮られた

初めてなのはそれだけじゃなかった

言葉遣いが汚いのも、俺のことを悪く言ってくるのも初めてで俺は動揺が隠せなかった


数秒間が開いていて俺は目が合わせられなくて汚くなった俺とあいつの革靴を見つめていた


隣で息を吸う音が聞こえて顔を上げるとあいつはよそよそしい顔で俺を見ていた

「巡人、もう僕と一緒にいない方がいいんじゃないの?」

「だから俺は別に気にしないって言ってるって…え、なに?どした?俺なんかやった?」

「なんかやった?じゃなくてさ笑ほんとは気にしてるんだよね、僕分かるよ。1年も一緒にいたからさ~、巡人が動揺してるのわかっちゃうんだ」

「いや、ちが、ちがくて、な、」

「何が違うの?今日まで気まずそうだったじゃん。僕が暴力振るう最低な奴って思ってないなら今日まで僕に何を思ってたの?」


そこまであいつは一息で言うと遠くに目をやった

自然と俺もそっちを見る


葉大じゃないみたいだった

いつも温厚で誰も傷つけないような葉大はそこにはいなくてわざと俺の神経を逆撫でするように言葉を選んでるみたいで

俺は手先の感覚がなくなるくらい冷えるのを感じた


もう俺の中には昨日考えた言葉が無い

でも伝えたいことはある

それを言ったらきっと傷つけてしまうかも、気持ち悪いって思われるかもしれない

だけど言わなきゃ


「葉大」


あいつがもういちど俺の目を見た


「暴力は正直意外だったけどお前は誰より大人っぽくてかっこよくて最高の友達で、俺にとってお前はヒーローで、俺よりずっとずっと前を歩いている存在で、俺はずっとお前にあこがれてたし尊敬してたし、何より感謝してた

それは今も」


葉大はやはり俺の言葉にびっくりしたみたいで、でも嬉しかったみたいで少し笑顔になる

俺はよかった、よかった,,,と下を向いて息を吸う


葉大は俺が口を開く前に言葉を発した

「やっぱり巡人もみんなと同じで僕についていけなかったんだね」


心臓が大きく鳴る

「は、、、?」


葉大は俺の目を見て笑顔で話す

「だってそういうことでしょ。いいように言ってるけど巡人は僕と君は違くて僕の方が余裕そうに見えたんでしょ。僕は他のクラスメイトとは違うように見えていたんだね、やっぱり」


「だからお前がかっこよく見えたんだよ、、、?」


「僕はみんなと一緒だよ、全然おとなじゃ、ない」


「じゃあなんて言えばいい?なんて言ったら俺にとってお前は最高だったってわかってもらえる?」


葉大は満足したように俺から目をそらした


「僕は君に怒ってもらえてて嬉しいよ」


意味も分からなかったし、時間は案外進むのがゆっくりで俺はずっと息をしていなかった

なんとなく弁明をしなきゃいけないような気持になる

「俺は、、、お前に助けてもらったのは本当、、、でも、最初はいい子ぶりっこでうざいって思ってた

でもそのおかげで俺はお前は大人だなって思って遠慮なく色々言えたしやってもらえた、それにもう気にしてない

俺の言いたいことも全部くみ取ってもらえたし幼く見せようともしててもっと大人だなって思ってる」


「僕の努力は無駄だったみたいだ」

葉大は先の方を見ながらまだ微笑んでいた


なんかよく分からないけれど

俺に色々考えさせたいのかやけに遠回しな物言いと、あいつばっかり被害者面してるような態度と

でもそんなことは正直どうでもよくて

何より俺のこの本音を受け取ってくれないあいつに

珍しく俺はムカついた


「言葉が足りねえんだよ、、、!お前も、俺も、、!言いたいことあるならちゃんと言え馬鹿」


あいつは俺の方を振り返る

その顔はさっきより笑顔だった


俺はさっきよりも息をたくさん吸う

「俺はお前に救ってもらったんだよ、、、感謝して悪いかよ」


俺の情緒も言葉も支離滅裂で


「なに?救っといて同じ立場としてみてほしい?俺からしたらわがままなんだよ阿保!そんなふうに言うなら俺より全然ガキだっつうの!」


葉大は同じ笑顔で俺の方を掴んで俺を公衆トイレの外側の壁へ押してくる

「僕がすぐ暴力を振るうやつでも救われたとか言えちゃうんだね」


「よ、うだい、、、それ逆ギレって言われちゃう、、、」


「なんとでもいいなよ。僕はあくまでも暴力魔なんだろ。君は暴力魔に救われたんだね、かわいそうに」


「とか言って話しかけてくれたのはそっちじゃん、、、っ、、俺も支離滅裂だけどお前もだろ」


葉大は寂しそうに笑ったまま俺を見ていた

「葉大、俺、分かんない。お前と過ごしたこの1年、今肯定していいのか分かんねえよ、、、楽しかったのに、、楽しかったのに、、、俺だけだったんだろうな、」


葉大は何かを堪えるようにして笑顔のまま口を開かない

「お前、、俺だけを楽しませて嬉しいか、、、?救ってやったって勝手に満足してたんだろ、正直、どうかと思う、、おれお前が

そんなやつだって思わなかった」


葉大は俺をまだ壁に押し付けている

その力は全然強くない


俺はこいつの顔さえ見たくなくて下を見る


「ありがとう」


俺には全く意味がわからない

会話ができないし通じない


「ふざけんな、、、っ、、、意味わかんねえ、、、っ、やめろよ、、、、っ」


俺は葉大の手を払い除けて走る


葉大の手が濡れていたらしく俺の手も少し濡れる

それはたぶん俺が泣いていたから


気づいたら泣いていた

イライラしてムカついて怒って悲しくて

あの涙はとても重かったと思う

全部を混ぜたみたいな感情を涙には乗せきれなかった



「おはようございます、ご卒業おめでとうございます」


校門の近くに立つ先生や後輩たちが今日卒業する人たちにそう言っている


正直そんなにめでたい気持ちではない俺は会釈だけをしながらさっさと教室へ行き自分の席に座る

俺の目線は否が応でもあいつの席に行く


その机は主が来るのを待っている


俺はさっと教室の外に目を向けて昨夜似合わずも考えすぎて寝れなかったからか瞼は重力にすぐに負ける


俺はあいつのことを分かっていたつもりでいたのに全部否定された気がして悔しかった


傷ついてるあいつを俺の一言のせいで余計傷つけた

それはもうしょうがないかもしれないけどそれに気付けなかった

励ましたい、謝りたい


でも感謝したい

あいつは俺の本音をほじくり出した

無理やりだったけど


やっぱりもう1回あいつに俺の本音を伝えたい


いつもより始業時間ギリギリに来たあいつの背中に向かって心を決める


「そろそろ座ってーえーまずは卒業おめでとう。早速だけど卒業式では、」


俺は担任の声を聞き流し指示に従う



気がついたら卒業式が終わりみんなが写真を撮っている


このときの時間は重いようで軽いリュックのようだった

つまり

俺はあまり重要に思っていない


リュックにいろいろなものがが入っていくのは今からだ

俺は葉大に伝える

ぜんぶ


葉大はその写真の輪の中にはいない

俺は知ってる


俺は先生やクラスメイトに感謝を告げ学校から出る

もう帰ったと俺は踏んだ


あいつを探す


あてもなく肌寒い街を歩く

活気があるようでない街

転校してきたときは何も知らず何も知る予定もなかった街

でも

あいつと寄り道したせいでそこそこ知るようになった街

知らないところはまだまだある街


学校の周りを1周歩いたところで俺は気づく


これ結構無理なんじゃね


気付けば気持ちばかり焦って俺は歩く足の回転を速くする


もはやどこへ向かおうなどど考えてもいない

俺の足は自然とあいつとの思い出がある場所へと向かっている


あいつとひたすら話したベンチ

その近くの自販機


夏にあいつとアイスを買った近くのコンビニ


取れないクレーンゲームをしたゲーセン

ふざけて入ったプリクラコーナー


ゆっくり歩いた線路沿い

最後まで話をした駅の出口


最後に向かったのは

あいつと最後に話した遊歩道


ハッピーエンド的な結末になるなんて少し期待していた俺がいた


あいつがいない


よくよく考えればそんなところにあいつがいるはずもなく


俺はいよいよ行くあてがなくなり樹の下に座り込む


下を見ると地面の色が1箇所、もう1箇所と濃くなってくる


あいつに運命的な感じで巡り会いたかった

あいつと俺は偶然で必然だって感じたかった


だから避けていたけど

俺はスマホで連絡をしてみようとする


「、、、あ、、れっ」


どのポケットの中に手を突っ込んでも無い

っていうか

俺の肩には朝かけていたスクールバックさえ無い


「あ」


教室に戻らずに飛び出してきたみたい

本当に俺はいつも大事なところでやってしまう


俺は頭を抱えて地面に座り込んでため息

少しも時間を無駄にしたくないのに

でも今無きゃ困る


悩んでる時間さえあいつはどこかへ行くと思うと勿体無くて俺は再び学校に向かって走り出す


俺は遊歩道を走り抜け校門を通り抜ける

まだ写真を取り続けているクラスメイトたちを横目に見ながら俺は教室棟へと急ぐ


自分の息切れしている音がうるさい


外履きを脱ぎ捨てて階段を駆け上る


廊下を靴下で走ると案外音が大きくて

なんとなく悪いことをしているような気持ちになって

俺は教室に近づくにつれてゆっくりそーっと歩く


教室のドアに手をかけて力を入れると中からがたっ音がする


俺はさほど気にも留めずドアを開ける


そこには人がいた

俺の口から漏れた声かドアが空いた音か

どちらにせよ何者かに気付いたらしい窓辺に立つ人


「葉大、、?」


いや、あいつは俺の方を振り返る


窓が開いているからカーテンとあいつの髪がなびき顔には影がかかる


なにやってんの?飛び降りるの??どういう気持ちなの?


それが言葉に出せるわけなく俺の荒い呼吸とあいつの深い呼吸の音が重なる


「、、、わすれ、もの」


かろうじて俺は声を絞り出すがあまりにも頼りない


あいつは浅く2回くらい頷く


俺は後ろのロッカーから荷物を取り出そうとロッカーの前に座る


手を止めて何気なく聞く


「いつから、いるの」


「写真撮影始まったくらいから」


あいつは前を向く


「何、、してるの」


「見物」


「何を、、?」


「クラスの奴らと巡人」


「おれ?」


あいつは前を向いたまま頷く


「巡人、忙しそうだった」


「俺はお前を探してて、、、!」


「人を探してたのは知ってる。僕だったんだね」


俺はなんだか照れてしまってあいつの隣に腰掛ける

怖い

高いところも滑ったら落ちて死んじゃいそうなここもあいつも


俺もあいつも口を噤んだままで時間が過ぎていく


あいつが密度が小さい声を発する


「巡人、ごめん、僕のせいで怖い思いをさせたね」


「それは、別に、俺も悪いことしたって思ってるし、

ただ今みたいにわざともう怖くないよってみせたり軽く流そうとするとこ俺ムカつく」


俺が言いたいことをまた汲み取ってくれたみたいで葉大は少し笑う


「ありがとう」


「な、葉大、ここで何してたの?」

俺は重い感じを悟られないよう言葉の端に笑いを含ませた


「巡人をみてた。あとそうやってわざと軽く言って空気を重くさせないようにするとこムカつく」

葉大はそう言って悪戯っぽく笑った


俺は苦笑する

互いに気を使われたくないようだ


「葉大、なんで俺を見てたの?」


「言いたいことと聞きたいことがあるから。巡人はなんで僕を探してたの?」


「奇遇だね、言いたいことと聞きたいことがあるから」


俺はまだ前を向く

きっと葉大も前を向いたままだ


お互いなんとなく照れくさいから

俺らは前を向く


「でも僕いいや、巡人の顔見たらきっと伝わってるって思っちゃった!んーでも、やっぱひとつ。

もし僕が君にとってヒーローでも僕はそんな大層な奴じゃないよ、でも君が僕をそう思うように僕も巡人を英雄だと思う

それだけかな」


「ふーん」


「巡人照れんなよー!!」


葉大がきゃははと笑い声を上げながら言う

俺は懐かしくて目を細めた


それを隠すようにあえてぶっきらぼうに声を出す

「葉大、お前嘘つき過ぎ、適当すぎ、無理矢理過ぎなにより不器用過ぎ!」


「は!?なんでだよ~!ひどいな~」


「まずお前暴力沙汰なんか起こしてないだろ、」


「気付いてたんだ、全部デマ流されたんだよね笑」


「そういうとこ!適当なんだよー友達付き合いもー」


「そうでもしなきゃ傷つくだろー」


お互いまだ前を向いたまま

軽いと見せかけてそれはもう深い話をしているみたいだ


「傷がなきゃ成長できないからな!しかも駄目だったらやり直しがきくだろ」


「、、、僕にもできたのかもね、やり直し」


「当たり前だろ、ヒーロー笑」


「うわ、まだ言うのそれ、巡人もなかなかだよね」


「そうだよ、知らなかった?なにより君がなんと言おうと君は俺の尊敬する人だからね」


「だから、僕はそんなやつじゃないって」


「だからこそだよ。昨日までは完璧ですげえって思ってたけど人間味があって安心したし、お前みたいなやつかっけえなって」


「、、、ふーん、、ありがと」


視界の端に映るあいつの耳は赤い


「また会うときまでに俺は葉大のこと全部抜かすからね」


「それがいいよ、巡人らしくね」


「お前の真似じゃなくて俺らしく頑張るな」


「それは僕もだね」


葉大の言っていること、どこまでが本当なのかはわからない

でもそれくらいが俺にはちょうどいい

ちょうどいい空気感


磁石みたいに

俺が惹かれて、

葉大が惹かれて


気付いたら互いに互いを求めて尊敬しあってた


ただ少し互いが互いを上に見すぎてたらしい


俺はなんとなくそんなことを思う


「それも、悪いことじゃ、ないよな、」

葉大はやっぱり俺の心の中が読めるらしい


ただ俺もあいつの心の中はわかる


「強がんなって笑」

「おう」


「俺どうすれば正解だったなんてわかんないけど俺は今これで最適解だったと思ってる」

「よっさすが理系」


葉大は鼻の先を搔く


「葉大お前やっぱすげえ強くてかっけえよ」

「別に」


俺らの会話はぶつ切りだ

でも気まずさとかは全く含まない

むしろ俺には心地いい


本当に本当に心地よくて

プールのあとの国語の授業みたいに不思議な心地よさがあって

とにかく心地いい


多分葉大も同じ気持ち


下を向いた葉大が小さく口を開く


「どうしよっかな、」

「何が?」


「巡人のいないこれからどうすればいいんだろうなって」


「別に俺死ぬわけじゃねえし笑」


「そう、だけど!」


「それに大学はみんなにとっても初めてで不安でいっぱいの場所だろ」

「まあ、、な」


「俺はもうプロだから慣れたけどな!」

「うるせ、本当は不安なくせに」


「おまえだる~」


「楽しんだもん勝ちだからな」

「そらそう」


俺らは目を細めながら夕日を見る


葉大は軽く頷いてやっとこっちを見る

「巡人、ありがとう。あと卒業おめでとう」


俺も葉大を見る


「感謝するのはこっち、卒業おめでとう」


俺らはすべてを目に焼き付けながら教室に降りて階段を駆け下りる


葉大、俺、卒業おめでとう

大好きだよ

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明日には、 月光砂空 @thuki-sora

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