そのさん
1週間後。定期テストが明けた教室はテストからの解放感のせいか、どこか空気全体が浮ついていた。そしてそんな時に話題に上がるのは色恋沙汰などの浮ついた話題になるわけで。
その時、雨宮を中心とするグループが話に花を咲かせていた話題もコイバナだった。だれだれとだれだれが付き合始めただとか、隣のクラスのどのカップルが最近別れただとか、そんな話がひと段落して。
「そう言えば白聖女さまは誰か気になる男の子とかいないの?」
いつも雨宮の近くにいるショートカットの少女がふと口にしたそんな疑問を口にした瞬間。それまでいつも通り興味なさげに彼女らの会話を聞き流していた俺はつい、耳をそばだててしまう。そしてそんな白聖女さまの『気になる男子』という話題にこれまでも元気だった雨宮の近くの男女も一段と色めきだつ。
「そういえば白聖女さまってあんまり男っ気ないよね~。付き合ってないとおかしいくらいかわいいのに」
「白聖女さまの気になる男子! 気になるぅ!」
「白聖女さま、気になる男の子がいるなら告っちゃいなよ。白聖女さまからの告白を断る人なんて絶対いないって!」
「あ、えっと……」
周りの女の子たちに迫られて雨宮は困惑したような声を漏らす。でも、その頬はほんのりと赤みがさしていた。
--ってことは、雨宮にも好きな男子がいるってことか。毎週二人きりでいるのに、そんな気配、全くなかったんだけど……。
そう考えた瞬間、俺はなぜか、背中に冷水を浴びせられたような気持ちになった。
――って、まあ、そうだよな。雨宮ってかわいいし、運動も勉強も人気者だし、恋愛くらい興味あるだろ。誰かが言っていたようにイケメンの彼氏がいない方がおかしい。そしてそんな恋愛相談、単なる配信のパートナーでしかない、しかも異性の俺に相談するわけがないよな。でも……だとすると雨宮と俺が2人きりで会っているのって邪魔だったりするのかな。
そんな不安が心の中に沸き上がり、そのもやもやがどんどん広がっていく……。と、その時。
「やめろよそんな話。白聖女さまが困ってるだろ」
「そうだそうだ! 大体、誰にでも優しい博愛な白聖女さまが誰か一人を愛するなんて、そんなこと自体解釈違いなんだよ!」
雨宮を異様に神聖視する、自称「白聖女騎士団」(要するに雨宮ファンクラブ)の面々が声を上げる。普段は鬱陶しく感じるこいつらだけど、その時の俺はなぜか、こいつらに救われた気がした。そしてそんなファンクラブの面々の登場に雨宮の彼氏で盛り上がっていた陽キャ達もクールダウンしてくる。
「あー出た出た、白聖女様を必要以上に神格化する親衛隊。あんた達、白聖女さまに夢見すぎなのよ。白聖女様だって女の子なのよ? 恋愛くらいするでしょーーでも、確かに無理に聞くのは失礼だったわね。ごめんね、白聖女さま」
「あっ、べ、別に大丈夫ですよ」
愛想笑いを浮かべながらそう答える雨宮。そこで雨宮に好きな男子がいるのかという話題はおしまいとなった。でも、この昼休みのことは俺の心に大きな爪痕を残した。
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