クラスの白聖女さまが小悪魔女子系配信者であることを、俺だけが知っている
畔柳小凪
そのいち
俺のクラスには『白聖女さま』がいる――。
もちろんファンタジー世界でもない現代日本のごく普通の高校に、ホンモノの聖女なんている訳がない。成績優秀・スポーツ万能な上に、誰に対しても物腰やわらかで優しい、漫画に出てくるような美少女優等生ーー雨宮菜月。白聖女とは、そんな彼女にいつしかついた渾名だ。
「やっぱり白聖女さまの教え方は上手いな」
「ずるーい。聖女さま、私にも数学教えて!」
「はいはい、順番に、ですよ~」
定期テストを来週に控えた昼休み。彼女の周りにはいつものように沢山のクラスメイトに囲まれていた。そんな彼女らに、雨宮は控えめな笑みを浮かべながらテスト勉強を教えてあげている。あれだけ騒がしくてちゃんと勉強になっているのかは怪しいけれど。
そんな雨宮たち陽キャが視界に入らないように、俺は教室の隅の自席で寝たふりをする。そうでもしないと自分がボッチでいるのが少しみじめに思えてしまうから。と、その時。
ピロン、と携帯が音を立てる。ばっと起き上がってスマホを操作すると、メッセージアプリには1件の着信があった。相手は雨宮。
『今日の放課後、修くんのお家に寄るね』
それを確認してからつい雨宮の方を見てしまうと、一瞬、雨宮と俺の目が合い、あろうことか雨宮が俺に向かってウインクしてくる。雨宮のことだからウインクなんてそんなあざといことに慣れてるわけもなく、ちょっとぎこちないのがちょっと微笑ましい……って!
雨宮が思わせぶりなウインクをした瞬間。
「えっ、白聖女さま、今まさか俺にウインクしてくれた?」
雨宮を取り囲んでいた男子生徒の一人が勘違いして大きな声を上げる。。
「えー、それはないでしょ。一番の親友であるわたしに何か伝えてくれようとしてくれたんだよね~」
「あわわ、えっと……」
彼女を取り巻く生徒たちが少しざわつき始めて俺は頭を抱える。
……学校では俺たちの関係に気づかれないようにしてくれ、っていつも言ってるんだけどな。
そしてその日の放課後。
「……ってことで、今日の配信はこれでおしまい。 チャンネル登録と高評価もしてくれると、ナツミ、うれしいですぅ! じゃ、次回も待ってますね、せ・ん・ぱい♡」
マイクに向かって最後に甘えるような声でそう言うと。配信は終了され、PC画面に映し出されたプチデビルのコスチュームをした金髪少女のアバターが動きを止める。それを確認してからPCの前に座った雨宮はヘッドフォンを外し、俺の方を振り向く。
「修くん、わたし、今日もちゃんとできてたかな?」
「ああ、今日もばっちりだ」
俺がそう言ってうなづくと雨宮の表情がぱっと明るくなる。
俺と雨宮には1つだけ、2人だけの大きな秘密がある。配信の設備が整っている俺の部屋に週に2回集まり、雨宮が中の人・俺が裏方全般としてvtuber雛森ナツミの配信を行っていること――それが、俺と雨宮の中で共有している『秘密』だ。
vutuber雛森ナツミは魔界からやってきた悪魔で、自由奔放で甘え上手で、思わせぶりであざとい言動もよくする小悪魔系後輩の女の子ーーという設定。クラスの中で『白聖女』と慕われる雨宮の本来の性格とは真逆といっていいキャラ。きっとクラスメイトが雛森ナツミの配信を見かけることがあっても、その中の人がまさか雨宮とは思わないだろう。
なぜ優等生の雨宮が自分とは真逆のキャラクターのvutuberを演じているのか。なぜその配信を俺が機材を用意するなどで手伝っているのか。それは今から三か月前、俺と雨宮が出会ったばかりの時まで遡る。
_____________________________________
お読みいただきありがとうございます。全部で8,000字くらいの作品を3,4エピソードに分けて毎日1話ずつ更新していけたらと思ってます。もし面白いな、と思われたら最後までお付き合いいただけますと幸いです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます