ある冒険者の日常

@ph-Ls

プロローグ 朝

 ベッドの上で目が覚める。瞼を開けると、無骨な木の天井が目に入る。

 懐から懐中時計を取り出して時間を確認する。五時。多分午前。カーテンを開けると、まだ明るくなりきっていない街並みが目に映った。

 まだもう少しのんびりしていても依頼がなくなることはないと思う。そもそもこの街にはCランク以上の冒険者は少ないから、難しい依頼が無くなることはそうそう無いけど。難しい依頼は危ないしあんまりやりたくないから、少し早めに六時には家を出ることにしよう。


 やたら硬いベッドから体を起こす。やや体が痛い。Cランク冒険者ならもう少し上等な宿にも泊まれるんだけど、この宿にはお世話になっているし、中々変えどきが分からない。

 早起きしたおかげで少し暇なので、剣立てに置いてある剣の点検をすることにする。この剣はダンジョン探索中に手に入れたものだ。思い入れのある品だし、大事に扱っている。

 剣の手入れは毎日寝る前にやっているので、問題はないだろうと思っている。が、暇だし丁寧にチェックを行うことにする。

 切れ味は大丈夫か。問題ない。魔力は込められているか。良好。欠けやグラつきはないか。大丈夫。叩いて異音はしないか。いつも通り。


 剣の点検を終え、皮鎧の整備に取り掛かる。皮鎧の整備は少し時間がかかるから最近あんまりやれていなかったように思う。こういう準備不足は本当に良くない。そう反省し、今後は定期的に整備することを心に誓った。

 皮鎧の整備は時間がかかる割に無心で行えるので、その間に考え事をする。


 来週にはもう20歳になるのか。この歳でCランクまでランクを上げられたのは優秀な方かもしれないな。

 でも島にいる両親はそんなことには興味が無くて、『フクヤはまだ結婚しないの』というだけの内容をうすーく引き伸ばした手紙を毎月のように送ってくる。

 自分はまだ気儘に冒険者をやっていたいし、結婚する気など毛頭ないが、そんなことを親に言ったって聞いてはくれないだろう。そろそろ彼女でも探すべきか?

 でも女性の知り合いなど同業者とギルドの受付嬢ぐらいしかいない。待てよ?これ本格的にマズいのではないか?親の焦りがちょっと分かった気がする。まぁでも、未来の自分がなんとかしてくれるだろう。


 そんなどうでもいいことを考えつつ皮鎧の整備を終え、時計を確認する。六時。ちょっと時間をかけすぎた。慌てて朝の支度をし、冒険者ギルドに向かった。


***


【冒険者】(『彩華辞典』より)

 『魔物と無職をゼロに』を理念とする組織、『冒険者ギルド』に所属し、魔物討伐や素材採取、護衛などの依頼をこなす者の総称。

 冒険者はAランクからGランクまででランク付けされる。ただし、Gランクは犯罪者などのひどく素行の悪い者にのみ付くランクであり、実質的にはAからFまでの6段階で評価されている。

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