第14話 暗雲
裕二はバーボンのボトルを抱き、夜更けの窓に立ち愕然としていた。美優が死んでしまった。殺したのは誰だろうか?
バーボンは1789年(合衆国発足の年)、エライジャ・クレイグ牧師によって作られ始めたのが最初といわれている。
バーボンという名前はフランスの「ブルボン朝」に由来する。アメリカ独立戦争の際にアメリカ側に味方したことに感謝し、後に合衆国大統領となるトーマス・ジェファーソンがケンタッキー州の郡のひとつを「バーボン郡」と名づけた。それが同地方で生産されるウイスキーの名前となり、定着したものである。したがってかつてバーボン・ウィスキーというのは、地理的な呼称、つまりケンタッキー州で生産されたコーン・ウィスキーのことを指す呼称であっ。しかし後にバーボン・ウィスキーとコーン・ウィスキーとはその原料と製法によって再定義がなされ、別物を指すようにアメリカ合衆国の法律で規定されるに至った。
裕二が飲んでる銘柄は『アーリータイムズ』だ。
美優は裕二の前にも男性と何人も付き合っていた。ホラかも知れないが20人と付き合ったらしい。その中の誰かが殺した可能性はある。
榊田クリニックでは、採算性の悪い小児外科を廃止しようとする動きがある。小児外科は赤字とはいえ、人員や小児病棟が少ない中、子供たちの最後の砦であるため、柴田教授や荒木准教授は同科の廃止に反対の立場をとっている。理事長の裕二や副院長の石田隆之介は廃止に賛成の立場をとっている。
昨夜、パニクった柴田が病院の屋上から飛び降りるという事件が起きた。柴田は搬送されたが即死だった。
「柴田め、評判が落ちるじゃねぇか?」
裕二は星屑を睨みつけながら死人に鞭打つ発言をした。
裕二は、新妻のあずさとともに新しい街に引っ越してきた。仕事は順調で、ふたりは豪華な自宅を購入し、順風満帆の人生に思えた。
そんなある日、学生時代の同級生、吉田勇太に出会う。そして後日、勇太から引越祝いとして豪華なワインが届けられた。あずさはワインの返礼として、彼を自宅の夕食に招いた。食事の間、勇太はまるで親友だったかのように語り、石井を殺したのは勇太だと疑っていた裕二は不快感をおぼえる。あずさには、彼は見かけよりいい人には違いないと思えた。
後日、二人が仕事仲間のパーティーから帰ると、勇太から「ギフト」として、庭の池に鯉が泳いでいた。また、裕二の留守中にあずさに家に入れてもらいテレビの設定を手伝うなどしていた事で、裕二は不快感を友人たちに語り始める。 そんな中、勇太は二人を自宅の豪邸で開かれたホームパーティに招待する。裕二はあえてパーティーに参加し、そこで勇太に今後は付きまとうなと伝えて去る。
その後、鯉が一晩で全滅したり、飼い犬が行方不明になったり、奇妙なことが続いて起こる。勇太の仕業と考えた裕二は勇太の自宅に抗議に行くが、実は勇太はその豪邸に住む夫婦の運転手を勤めていただけで、夫婦の旅行中に勝手に家を使っただけだったのだ。
さらに「ギフト」が届き、勇太が裕二との過去を水に流すつもりだった、悪気は無かったもう二度と会わないとメッセージが添えられていた。あずさは、裕二と勇太の間に昔何かあったのではと思い始める。 そして、鯉や犬の一件から、あずさは勇太の影に怯え、安定剤を飲みすぎて倒れるなど精神不安定な状態となる。耐えられなくなったあずさは、裕二に対し、過去になにがあったかを話すように求める。だが裕二は何もなかったと言い張り、過去を振り返らないで前を見ようとあずさに言い聞かせる。
その後しばらくは平穏な時間が過ぎ、あずさは待望の子供を妊娠をした。そんな時妊娠祝いに訪れた裕二の姉から高校時代の勇太の過去を聞きだしたあずさは、裕二の言動に多くの嘘を感じ始める。
そして裕二の高校時代の友人から、彼の勇太に対する過去の所業を知ったあずさは、裕二に勇太に対して過去を謝罪するように詰め寄る。
「あなた、吉田さんのことパシリとして使っていたでしょ、ちゃんと謝りなさいよ」
裕二はあずさとの関係修復の為、仕方なく勇太を職場(笹野出版をリストラされたあとは派遣社員として食品工場で働いていた)を訪ねて謝罪しようとするが、もう手遅れだと謝罪を受け入れようとしない裕二を殴りつけ、そのまま立ち去ってしまう。そしてあずさには勇太が謝罪を受け入れてくれたとまたしても嘘を話すのだった。
榊田クリニックが運営する介護施設『桜の里』は、長年の歴史と伝統を誇り、地域の高齢者たちに寄り添う大切な場所であった。しかし、施設内の労働環境が悪化し、ブラック企業化していた。
そんな中、新しく入ってきた介護士・
蓮は東和大という有名な大学出身だったが、経営難らしく高卒扱いにされた。さらに病院の駐車場も月極料金を払わないといけない。
蓮はケアマネの
蓮は周囲のスタッフや入居者との絆を築きながら、ブラック企業化した介護施設の改善を目指す。彼は職場の問題に立ち向かい、労働環境の改善や高品質な介護の提供を求める。
11月20日、夏子は妙な息苦しさを覚えたので最寄りの『ほりこしクリニック』にやって来た。最初は更年期障害を疑った。更年期には、さまざまな不定愁訴が現れることが知られているが、代表的な症状はホットフラッシュと呼ばれる「のぼせ」「ほてり」「発汗」だ。これは閉経の前後に女性ホルモン(エストロゲン)が急激に減少することが原因だ。
堀越先生は
「念の為に心電図検査しましょうか?」
心電図は、心臓の電気的な活動の様子をグラフの形に記録することで、心疾患の診断と治療に役立てるものである。心臓のみの筋電図とも言える。電気生理学的検査の代表的なものであり、日常診療で広く利用されている。
検査室に場所を移動し、検査着に着替え。ベッドの上に仰向けになる。若い女性の検査技師が、冷たい器具を胸に装着していく。
単極胸部誘導という手法だ。
最近はアキミチャグム、アキミチャンクロデムラムラ、アキミチャンコクシ、或いはセキグチクンと覚えられている。これは赤黄緑茶黒紫を無理やり読んだものである。
V1が第4肋間胸骨右縁で赤、V2が第4肋間胸骨左縁で黄色、V3がV2とV4の結合線の中点で緑、V4が鎖骨中線と第5肋間を横切る水平線との交点で茶色、V5がV4の高さの水平線と前腋窩線との交点で黒、V6がV4の高さの水平線と中腋窩線との交点で紫である。
V1、V2が右室、V3、V4が心室中隔付近、V5、V6が左室を反映している考えられている。
右室梗塞など、右室の状態を詳しく知りたいときは、V3、V4、V5、V6と胸骨を挟んで対称の位置にV3R、V4R、V5R、V6Rが用いられる。
上記の電極部位は、あくまで「心臓を中心で輪切りにした電気的活動を知りたい」と言う本法の目的に沿っていなくてはならない。V1〜V6の電極の配置は出来るだけ体軸に鉛直で一直線状に並んでいる事が望ましい。しかし、年余に渡る経時的なフォローアップではマーキングにも限界があり、上記のようなランドマーク法を用いる事もやむを得ない。
また、著しい肥満の患者や乳房の大きい患者においては、上記のランドマーク法を用いても電極の位置が決め難く、その再現性が貧弱であることもある。巨乳の患者においてはあえて乳房の下部の胸壁に電極をずらす必要は無く、むしろ乳房からの反射波によって心電図の電気信号が打ち消されて判読が困難になることすらある。
もう一方の手法は単極肢誘導と呼ばれている。
医療の教育現場では、伝統的に『
即ち、右手首が赤、左手首が黄色、右足首が黒(中性電極)、左足首が緑である。この順に「あきよしくみこ」と呼ぶ。
四肢の震え等によってノイズを生じやすい。その対策として、四肢の近位に電極を装着するという技法もあるが、左上肢に限っては心ベクトルの変動をもたらすので好ましくない。
検査結果を待つのに30分も待たされた。ホットコーヒーを飲みながらワイドショーを見た。全然落ち着かなかった。
「綾田さ〜ん」
江角マキコに似た看護師が夏子を呼んだ。
夏子は診察に入った。
「検査、ご苦労さまでした。結果ですが、房室ブロックであることが分かりました」
「房室ブロック?」
「房室ブロックとは、心房と心室との間の電気信号が何らかの障害のためにうまく伝わっていない状態の総称であり、特段の治療を要さないものから、ペースメーカ植え込みが必要なものまで様々であります。 障害が起こる場所は心房筋、房室結節内、His束内、右脚、左脚などさまざまで、出現する症状の程度や重症度もさまざまなのです。綾田さんはレベル2です」
「先生、原因は何ですか?」
「そこまでは分かりませんが、房室ブロックの原因としては、加齢によるものの他、薬剤性(心不全や高血圧による薬など)、電解質異常、甲状腺機能異常、感染症(ウイルス性心筋炎)、急性心筋梗塞、サルコイドーシスやアミロイドーシスといった心筋症など多岐にわたります」
「そうなんですね?」
「この病は3段階あるんです。ステージ1は全くの無症状で、ステージ2は2種類あり、ウェンケバッハとモービッツと呼ばれるもので、綾田さんのタイプはウェンケバッハです。モービッツは症状が重く、ステージ3になりやすいのですが、ウェンケバッハは治療を要しません」
それを聞いて少し安心した。
「もし、めまいなどの症状が出たらすぐに受診してください」
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