第11章:軍隊って何ですか?
川上は先頭を歩いていた。敵が居そうな地域と言うものは空気感で分かるもので、それは非行少年が敵対する組織の縄張りを何となく理解出来る感覚に近い。見た目以上に頑丈な89式小銃の脚を外して来れば取り回しがかなり改善されるのだが、単に外す理由が無く着けたまま携行している。羨ましくも有り難くも無いが残念な事実として砂漠、と言うにはあまりに岩場に富んだこの地域は雄大な大自然の極々一部であり歩いても歩いても景色がまるで変わらない。
自分が愚痴を溢せば班員達の弱さがとめど無く溢れるだろう。とは言えまだ5km程度しか歩いていないから、誰もが体力的には余裕に満ちているのだが何しろ退屈で仕方ない。背嚢より小さく軽い斥候バッグに収めた私物は飲料食料とポンチョぐらいの物で、後は無線機とその構成品や予備電池、弾薬や武器手入れ具と暗視装置の収納袋に戦闘外被、官品ばかりが容積を取っている。特に無線の予備電池は始末が悪く、飲料食料と違って消費しても軽くも小さくもならない。
映画でよくある“それから○○時間後”に憧れたものだ、時間がそう都合の良い経過をしてくれれば軍人に苦労は無い。良くも悪くも足とすっかり一体化した半長靴は洗濯して綺麗に乾燥させた靴下の作用で快適性を保っていた。何より大事な事として、不快な岩場を歩く夜でも足首を保護している。私物のトレッキングシューズを履いていた先輩を羨んだ時期もあったが、彼は市街地で現地人と握手をするという禁忌を犯しシリア派遣軍に長年伝わるジンクスで対戦車地雷を踏み戦車の先駆けとなって空を飛んだ。高級なアメリカ製のトレッキングシューズは片足分しか残らず、残りはどこかに行ったが多分死んでいるだろう。地雷源で勇敢に戦死したと遺族に手紙が書かれた、一応嘘では無い。別に私物の靴が悪い訳では無いが、彼は体重と同じ重さになる様に土を詰められた棺で帰国した。
川上は周囲に目を配った。敵の兆候は無く、暗視装置無しでも月明かりで道や稜線を見る事が出来た。背中越しに聴こえる足音からは、班員らが淡々と遅れず着いて来ている事が理解出来た。名前も知らない星が綺麗だなと最初の数分は感じたが、歩いても歩いても星の位置は変わらない。どこまでも沈む事ができると錯覚する星空に見下ろされながら、この果てない大地をただ淡々と歩くのだ。
シリア派遣当初は流星をシリア政府軍の短距離弾道弾と誤認して全軍に警報を上げた将校も居たが、蓋を開けてみれば彼等は満州国軍の軍旗を掲げた帝国陸軍相手に殴り掛かる様な事も無く今回に至るまで直接的な交戦は稀であった。周囲に警戒の目を向けるが、稜線上にも道路縁端にもなんの気配が無い。内地の演習場であれば他部隊の教育や訓練とすれ違う事も多いが、この広大な地ではそんな事も起きない。日中なら民間人や彼我の人員が通行する道路も夜間にはまるで交通が無くなり、街灯も無いこの地では月明りと星明りが明る過ぎる程に夜空を照らす。
暇を持て余した川上は妄想をする。内地から出る前にコンビニで発売されていたスナック菓子はまだ売っているだろうか、ボーナスが出たら何を買うか、たまには風俗店でも行くか、ソープランドは面倒だからデリヘルにしようか、それよりただ1人で温泉に行ってのんびり過ごすのも良いかも知れない、いや今年こそは童貞卒業だ――川上は自身の煩悩と向き合いながら欲求の三国志を右脳でこなしていた。それでもまだ、この景色は5センチと動いた気がしない。
斥候にとって必須の技能のひとつが、見たまま聞いたままを報告するという事だ。それは敵が居ないという情報もそうで、否定情報と呼ばれている。しかし斥候にとってもうひとつの必須技能である無駄な電波発射の局限も忘れてはならない。どの辺りで無線を飛ばすかは決まりきった定時報告を除けば敵位置の見積もりと経験、勘に由来する柔軟な判断に委ねられている。つい先ほど、残念な事にほんの数分前に定時報告を行っている。暗い夜に綺麗な星を見たからと言ってもそれを無線で報告する事はあるまい。川上は歩きながら様々な事を考える事と並行して歩測を行っているが、最短経路であってもまだ20㎞は歩く必要が有るだろう。そして斥候は予定通りのお散歩で済む可能性は低く、紆余曲折の寄り道を経てやっと帰来するのが常だ。
肌寒いが極寒では無い。V8を一時的に下ろし、稜線の手前や陰になっている地形を視察するが動物1匹見当たらない。シリア政府軍はどこに主陣地を置いているのか、警戒陣地の警戒の緩慢さを見ると不用心に宿営していても良いと思うのだが。事前情報で存在する敵の戦車部隊はどこに行ったのか、まさかあちこちに単車で置いている訳でも無いだろう。しかし川上がそう思うのは帝国陸軍の戦車運用が集中に基づく突破であり、防御戦闘でも通常は集結して逆襲部隊として運用する為だ。その国にはその国の事情が有るのかも知れない。
それにしても不思議な戦場だ。シリア政府軍も反政府勢力も、それらを支援する国の各部隊や現地で動員された有象無象の武装勢力も、必ずどこかで激戦を繰り広げてはどこかで間抜けな小競り合いをしている。全員が真面目にやればどこかの勢力が勝ちそうな物だが、かくいう帝国陸軍も勝てそうな武装勢力相手にしか小競り合いをしていないのだから広義には同族なのかも知れないと川上は内心自嘲した。或いは遥々この地で虐殺に勤しむ武装親衛隊が、どういう要求に基づく任務かは知らないが最も真面目かも知れない。
半長靴で踏みしめる砂地の音が等間隔に耳に響く。こんな大地で敵の接近を受けたらどこに隠れたものか、何一つの遮蔽物も無い。もちろんライトを点けた車輛が来れば遠くからでも解るが、風も吹いている。徒歩人員と遭遇したら目の前という可能性も有るだろう、戦車の熱映像装置で見れば一目瞭然なのになぜこうして歩かねばならないのか。軍事的な理由は数あれど、個人としてはやはりどこか腑に落ちないなと一歩一歩がそう伝えて来る。
弱音を吐く兵卒を叱り上げる時間にはまだ早い。振り向けば前進開始位置が見えそうなほど前に進んでいる気がしないが、後ろを見ても前進開始位置は稜線の向こうであり倦怠感を隠さない後輩達が歩く様子が見えるだけだ。
川上は視線を正面に戻し、星空が照らす道を歩き続けた。この職業に就いた事を最も浅く後悔する時間だ。以前、新兵だった頃の彼にとって行軍や徒歩斥候は苦痛と後悔の深層であったのだが、シリア暮らしは新兵教育程度の期間でも比較にならない苦痛と後悔を与えていた。満遍なく見向きもされず、歴史書どころかSNSにすら残らない死ですら、それが同じ大日本帝国を祖国にする者である限り心に傷を付けない事は無い。内地であれば地域毎の文化だ歴史だ雪国か否かで口論になり、好きな野球チームがどこかで大喧嘩になるが異国の地では等しく日本人だ。階級序列が人権を定義する軍隊ですら、死という基本的人権の否定は平等に機会を与えられる。
時折蓄光のコンパスで一般方向を確認する。目印の無い広大な地、似た様な地形の起伏には事欠かない。遊撃課程を出た下士官なら超能力じみたサバイバル術でどうとでもなるのだろうが、川上の様なそれそこいらの若手軍曹は新進気鋭と揶揄される時期に身に付けた基本基礎を淡々と実行しなくてはならない。地図上ではどう歩いても横行するM15街道に当たる筈だが、夜の野外を漠然と歩けば延々と同じ地域を回ってバックストップにすら辿り着かない羽目になる。人の中身を地球は気まぐれに問う。自然相手に電車ごっこで挑む者に厳しいのは厳冬や高山だけではない。自分達が停止していても風で流れる砂を見ると波の中で揺られている気分になる。班員は言わずとも全周警戒する緊張感を維持しており、流石に尻をついて休憩する者は居ない事に内心安堵した。
川上はシリアに来る前には知らない事が有った。戦争映画の主人公、歴史上の英雄、何か特別な力やオカルトで死なずに生還しているのかと思っていたが実際には違うという事だ。やるべき基本基礎を積み重ねた後は公平なサイコロで決まる。唯一の不公平はサイコロを自分のタイミングで振れない事だが、それですら誰にとっても公平だ。後は基本基礎をどれだけ守り、手を抜かないかだ。民間企業で働く同級生から軍人は命令に従っていれば良いから楽な仕事だと言われたが、歩かずとも気を付けすら出来ない同級生がこの地で生きて行けるのだろうか? 平和な内地の交通事故を目撃した時に救急車を呼ぶ事すら他人任せにしたお前が、同じ地球の果ての見も知りもしない他人の政治的主張なんて物に身体を張れるのか? 今ここに来て答えられると言うのなら聞いてやるが、もう前進方向も確認したから前進の時だ。お前はパソコンの前でメールの受信箱を開いたままスマートフォンでSNSでもやっていれば良い。川上はそんな思いに代表される、ふとした時に沸く不快な感情を内心に飲み込み前進開始の手信号をした。小隊系無線は眠りこけているのかと疑いたくなる静けさで、この世界に誰も居ないかの様な感覚が腹の底に過る。
もう何か月か前であれば極寒の夜だが、この時期であれば歩いている限りそうでも無い。東富士演習場がマイナス25度を叩き出して凍傷になりかけた新兵時代の川上が見たら羨む環境だが、当の本人は快適さを感じる事は無い。マシだよな、という妥協と納得が有るだけだ。住みたくて来た土地でも無いのだから。その凍傷だって衛生のアンビに向けて5㎞ほど歩いている内に血が巡ってほとんど良くなってしまう程度の軽症で、他人から見れば馬鹿げた笑い者でしか無いだろう。それでも良く頑張ったと励ましてくれたあの武骨な衛生兵は今どうしているだろうか、一度お世話になってそれっきりで名前も覚えていない。今でも尊敬する下士官だ。
夜間に歩き回るとつい自分の事ばかり考えてしまう。達成すべき任務は頭に有るが、常時それを黙読している訳でも無い。かと言って数歩歩く度に後ろを歩く兵卒を目視して声掛けしたり、お喋りをする事も無い。敵に発見される以前に聴音を疎かにしては敵を見付ける確率も下がる。米軍や特殊部隊はヘッドセットで集音能力を上げていると聞いているが、捜索連隊にそんな先進機材は無かった。つまりお喋りは厳禁である。考え事で退屈を凌ぐか無心で時間に身を委ねるしかない。妻帯者であれば配偶者や家族の心配をするのだろうが、川上はそんな偉い存在ではないし間違って誰かを妊娠させた覚えも無い。近衛師団に配属された同期の長谷川が彼女の生理が止まったと相談して来た事が懐かしい。当時は下ろせない時期だから彼女の腹を殴ってくれと頼まれたが、川上が断ったおかげで今では娘のオムツ交換を楽しむ良き父親となっている。節操の無さに呆れたが、人間はひょんな事で好転するものだと感心した。今では長谷川のSNSプロフィール画像は七五三の為におめかししたアユミちゃんの写真だ――歩美だったか愛美だか、漢字は忘れたが挨拶が大きく人見知りしない子だと言う。彼女に良き人生を。
他方、川上の周りは変化に富んだ何も変わり映えしない日々だ。こうして斥候に出ても敵と接触する事は少なく、他の歴戦の下士官の様な伝説的な逸話も持ち合わせていない。ドイツ人と戦った話は武勇伝の部品になりそうだが、せいぜいその程度だ。40kgの背嚢を背負って40km歩く戦士とは異なり川上はただの人でしか無い。
シリア政府軍がいると言う見積が当たらず、残念ながら川上らは献身的に歩き続けた。内地では財閥系企業に就職出来ない者がアメリカ由来の動画配信サービスで稼ぐ夢を見ていると言う。時代の変わり目とも言われる冷戦構造の雪解けに世界は平和の夢を見るが、この地ではそんな希望など。時計を見るだけ無駄だろう、体内時計はまるで時間が進んでいないと言っている。ハイドレーションの飲み口を咥えてひと吸いし喉を潤す。眼鏡はレンズで光を取り込むから裸眼よりもよく見えるが、見たところで敵らしい兆候も見られない。シリア政府軍は自国に外国軍が存在して反政府勢力を支援している現状をどう考えているのだろうか、川上には不思議だったが答えを教えてくれそうなシリア兵は居ない。パラコードとカラビナでサスペンダーに留めた携帯無線機のアンテナから伝わる歩調と半周遅れの振動が一定の速度で歩いている事を報せて来る。班員達も遅れず淡々と歩いていて、太陽が沈み切った夜の色は不変の深みを増す事無く均一な光景を描いている。
そして、歩く。歩測によれば東へ前進経路を変更する位置だ。シリア政府軍が障害構築を行っていれば鉄条網や地雷原に遭遇するのかも知れないが、ここいらにそんな物は無かった。対戦車壕、射撃陣地、通信施設、監視哨、およそ軍隊が構築する物の一切が見当たらない。車輛の音やライトも無し、ただ時間を重ね疲労感を受け取る。何度思い起こしても徒歩斥候の中で最もありふれた時間だ。映画の様な派手な戦いに憧れた時期も有ったが、今の希望は退屈潰しの種だ。イヤホンで音楽でも聴ければ良いのだが、そんな間抜けな斥候は長生き出来ないだろう。最近はドローンとか言う仰々しい名前のラジコンが空から見張っていると言うから、娯楽で耳を塞ぐのは愚かだとシリア兵は証明していた。
ただ歩く。1中隊本部が見積を立てた位置にまるでシリア政府軍が居ないのだ。警戒陣地は単に置かれていただけの陣地だったのか、まるで誰も居ない土地を川上の斥候班は歩き続けたし小隊系無線が沈黙しているという事は他の斥候班も同様だろう。それから数時間後――とはならず、ただ目の前の地に一歩一歩足を踏み出す。それを繰り返すしか無く、ただ周囲に目を向け、耳を傾け、敵の兆候を探しながら歩き続ける。
足音以外、何かを探るような物音がした。振り向くと安藤が背負った斥候バッグを片手でしきりに揺さぶっていた。川上は何か異常が有るのか確認する程度の感覚で目を向けたが睨まれたと感じたのか直ぐに斥候バッグから手を離し両手で89式小銃を携える。別に何かを意図した訳でも無いのだが。そうしてまた沈黙、ただ歩く時間が続く。一歩、また一歩。そうして足を進める中で、川上は安藤に少し気を遣って小休止する事を決めた。敵と接触している訳でも無いのだ、装具の不具合は今の内に改善させた方が良いだろう。
「大丈夫です」
大丈夫では無い奴に限ってこう言うのだ。川上は半ばうんざりしながら前を向き直り、前進再開の手信号を示した。川上の歩測ではあと1㎞ほど歩けば地形変換線でもあるG道に出る筈だ、その前に装具を直させようかと思ったが良いと言うなら良いのだろう。そしてG道が見える稜線沿いまで来た時に、雷鳴の様な轟音を従えて夜空に赤い光が煌めいた。
「伏せろ、伏せろ! 誰か地雷を踏んだな」
夜空は再び夜空に帰ったが、何かしらの因果が有ったのだ。川上は文句を吐き出しながらサスペンダーに留めていたカラビナを外して携帯無線機のアンテナを空に向け、受話器を片手に第一報を上げる。試射も無く一発だけの爆発、地雷と考えるのが妥当だろう。一般方向から推測すると北の方向で、首から提げたシルバコンパスを見てもそれは正しかった。
「ヒトヒト了」
傍受は出来なかったが各斥候班からの報告が上がっているのだろう、報告に対する返答は素っ気ない物であった。受話器をサスペンダーに戻そうとしたところに自動車らしいエンジン音が響く。
「待て、動くな」
川上に示されて班員達は地面に張り付いた。敵は偵察用の装甲車と言ったところか、軽快なエンジンを鳴らすそれはシリア政府軍の即応部隊だろうか。川上は音源がどの方向に向かうかを確かめてから敵の姿を伺おうと強かに地を這う。
「馬鹿、頭出すな!」
強かさが足りなかったが安藤は敵を稜線一本挟んだこの位置で勇気を振り絞ろうとした。夜だから見えないだろうと踏んだ彼の勇気を機関砲の乱打が迎え、砂塵と破片の混合物が川上を覆う。この時初めて川上は班員の心配より先に自身の運命への諦めを抱いた。
「川上軍曹、大丈夫ですか」
「大丈夫だ」
確認するより先にその答えが出た。声の主は藤井で、軍人らしからぬただ単に心配する面持ちが星明りでも見て取れた。川上にとっても意外だったのは怪我らしい怪我が無かったこと、89式小銃も無傷であることだ。口の中の砂を吐き出し、手足の指を動かして四肢が折れていない事を確認する。そして装具を確認するが、破片を喰らったりはしていなかった。頭が揺れている気がしたが、鉄帽を外したところその元凶が自己主張する様に頭部に突き立っている。なるほど藤井が心配する訳だが、軽い脳震盪で恐らく済んだのだろう。
「敵はBRDM、5分前に北へ向かいました。後続も無し」
更に意外であった。敵は安藤を粉砕した事に満足したのかG道を北進して行ったらしい。単独のBRDMで後続する部隊も無しという藤井の報告が正しければシリア政府軍の斥候か巡察だろうか。ライトを点けていた気配は無いので、安藤は夜空に稜線から頭を出して発見されたのだろう。シリア政府軍にも優秀な警戒員が居るらしい。
「解った、取り敢えず報告する」
安藤の生死は確認するまでも無かった。重機関銃なんか目でも無い、大口径の機関砲だろう。BRDMに機関砲が乗っていた記憶は無いからBTR-82Aとの誤認も疑ったが、普段装輪装甲車の俗称として使っているBTRでは無くわざわざBRDMと藤井が言っている以上、BRDMなのだろう。斥候バッグを地面に置き、アンテナを立ててから指向性を持たせる為にカラビナを引っ張って反らせる。砂まみれの受話器を吹いたり振ったりして幾らか綺麗にしながら藤井に訊ねる。
「敵の車輛、タイヤ幾つだった? 周囲に散兵は?」
「4つです、散兵無し」
なら確かにBRDMなのだろう。ともあれ5分前にBRDMが1輌北進後続無し、戦死者1人を報告する――任務継続に支障が無い事も。引き続き周囲を偵察しなければならない。彼等はこの周辺を捜索したが、敵の部隊が居た痕跡のみを見付けた。それもタイヤ痕だけで、天然の窪地に車輛を隠して待機していたであろう事しか推測出来なかった。安藤の亡骸は中途半端に身体の原形を失っていたが元が人間である事は解る。身分証は上半身と一緒に消し飛んでいたので残った部分から探し出したスマートフォンを遺品として持って帰ってやる事にした。間抜けから英雄まで等しくこの地で命を落とした者として、この地に置いて帰る事になる。棺には体重と同じだけの土が詰められて帰国する事になる。彼の地を吸ったシリアの土だ、全ての戦死者の一部と言っても過言では無い。几帳面に防水処置されたスマートフォンのデータを吸い出せれば、貴重な生前の姿を遺族に見せる事も出来るだろう。感傷に浸るのではなく、違う地域の敵を見に行く時だ。
「いや、お前ら全周警戒しとけ。敵の接近は射撃で報せろ」
この日、初めて人体を切断した感触を川上は生涯忘れなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます