ネトゲで俺をボコった最強美女ドラゴンに異世界でリベンジします!でもあいつ異世界でも最強みたいじゃないですか!ていうかバトルより先にイチャラブが始まりそうなんですが、そのころ元の世界は滅びていたようです

王子ざくり

第1話 1000の刃を背負いし狐

 最初に名乗っておこう。

 俺は、浅羽裕貴。

 次にこの名前を使うのは、けっこう後のことになる。

 

 日本時間、21時。


 サーバーからのメッセージが、戦いの始まりを告げる。


『神秘の深奥を目指す者たちよ! 汝、何を求め戦う!? 黄金か? 栄光か? 女神の祝福か?……否! ただひたすらに、己の力の極限を見極めんがため! ならば戦え――M.R.Bマンデイレイドバトル!!  』


 アクティブユーザー数200万人を誇る人気MMO――『アルケインレジェンド』。


 日々行われるレイドバトルの中で、運営もプレイヤーも特に力を入れているのが、毎月第3月曜日に行われるM.R.Bマンデイレイドバトルだ。


 俺はこのゲームがローンチされたときからのプレイヤーで歴8年。M.R.Bにもほぼ皆勤で、今年中には参加100回を超えるだろう。


 多くは初出しの強力なレイドボスに、廃人もライト層も、それぞれの全力で挑んでいく。


 それを眺めながら、俺もタイミングをはかって切り込んでいく――今夜も、そうなるはずだった。

 

 しかし、今夜。


「なんだあの……赤い霧!?  いや、全方位フレア!? 燃やされるどころじゃねえ。みんな……みんな爆ぜていく!!」

 

 M.R.Bに、異変が起こっていた。


 さっきから、Discordボイチャは阿鼻叫喚だ。

 いつもは緩く戦況報告するくらいのチャンネルが、今日はフレンドの絶叫を吐き出し続けている。


「ぐぅっ! 体が拗られ……風? 風に握りつぶされ………ぷぎゅぅっ!!」「フィールドが割れた!? 落ちる――なんだこの景色!? 蠱!? こんなのリアルタイムでレンダリング出来るのか――竜!? 蠱じゃなくて竜!? うわあああああ!!!!!」「これは――治癒? HPが回復――嘘だろ!? こんな数字!! ――畜生!! HPゲージがオーバーフローして死ぬなんて……こんなのあるか!! ふざけるな!!」「眩し……あれ…影が無……俺……空っぽ…………」「あれ? これ? どこだ? ……俺、どうして味方を……お前、どうして俺を!? ぐぎゃっ!!!!」「やべえぞあいつ! 九頭竜をワンパンで殺しやがった! 近接はヤバい! 逃げろ……あれ? 動けな、くそっ! 足が凍ってやがる!! あっ! あっ! あっ! 来るな! 来るな! 来るなあああああああああ!!!!!!!!」


 アルケインレジェンドのサーバ戦上位7サーバー――『(アカツキ』『煌炎コウエン』『銀嵐ギンラン』『碧海ヘキカイ』『幻影ゲンエイ』『光翼コウヨク』『聖樹セイジュ』。


 その全てのレイド戦のフィールドに乱入者が現れ、圧倒的な力で虐殺PKを繰り広げているのだ。


 ボイチャの情報を整理すると、乱入者は各サーバーに1人ずつ。 


 7位の聖樹には、真っ赤なドレスの美女。

 6位の光翼には、半ズボンのショタ。

 5位の幻影には、貴公子然とした青年。

 4位の碧海には、ステッキをついた紳士。

 3位の銀嵐には、黒い和服の童女。

 2位の煌炎には、金髪の黒ギャル。

 1位の暁には――


 彼らは、フィールドに現れると。


「邪魔よ」と美女が。

「いっちゃえー!!」とショタが。

「さらばだ。儚く猛き者」と貴公子が。

「良い夜だな」と紳士が。

「去ね」と童女が。

「バイバーイ」と黒ギャルが。

「じゃあな」と――


 ひとつの例外もなく、一撃でレイドボスを消滅させたのだった。


 そして。


「私の目当ては、あなた達」

「次はぁ。誰がいっちゃう?」

「怯えたまえ。しかし怖じけるなかれ弱き者」

「この良き夜に――」

「逝け」

「みんなもバイバーイ」

「というわけで……」


 プレイヤー達に襲い掛かったのだった。


 それから5分も経たず。

 7つのサーバーで千人以上いたプレイヤーたちは。


 ある者は爆ぜ。

 ある者は潰され。

 ある者は喰われ。

 ある者は壊され。

 ある者は溶かされ。

 ある者は惑わされ。

 そしてある者は殴られて。


 ほぼ全滅していた。


 ありえないことだった。

 ゲームの設計上、レイド戦でのPKは不可能なはずだ。


 ということは――ボイチャが来た。

 直通だ。


『どぅふふふ。運営の仕掛けですかなあ。フォックス殿』


 俺は答える。


「いや、それはないだろ。KDW」


『どぅふっ、どぅふっ。拙者の愚考したところも、同じでござる』


 ボイチャの相手は、日本人じゃない。

 こういう日本語を喋る、中国人だ。

 

 KDWというのは『声だけでKデブってD分かるんだよW!!』の略で、日本人の女性プレイヤーにそう罵られたのが性癖に刺さってそう名乗るようになり、そしてその名にふさわしい日本語を学ぶことにしたのだそうだ。


『仕掛け』と、KDWが言ったのは、『これは運営の仕掛けたイベントなんじゃないか?』、『あの乱入者たちこそが、今回の真のレイドボスなんじゃないか?』という意味だ。


 そして俺もKDWもふたりとも、『それは無い』と考えている。


 理由は――


「同士討ち、してる奴がいるだろ」

『どぅふっ! PK出来ないということは、プレイヤーがプレイヤーを殺せないということでござるからなあ』

「つまり、同士討ちも出来ない」

『どぅふっ! どぅふっ!  PKを禁じる仕組み自体が無効になってるということでござるな』

「で――中国人おまえらか?」


 KDWは碧海サーバーのプレイヤーだ。碧海には金満プレイヤーが多い。そしてそのほとんどが中国人だ。彼らは金にあかせてアイテムを買い漁るのはもちろん、中にはチートコードを書かせるための会社を持ってる奴もいる。


 だから、こんなシステムに干渉するような悪戯ができる奴がいるとしたら、中国人の可能性が高い。


 しかし――


碧海うちに、そんな輩はいないでござるよ』

「だろうな」


 それは、彼らの行動原理に反する。いずれ詳しく話すこともあるだろうが、彼らはチートは使っても、ゲームのシステム自体には干渉しない。そういう線引きが彼らにはある。そしていま起こってるような事態は、彼らの線引きを無視するものだ。だから、乱入者あいつらが中国人という線は無い。


『裏付けも取ってるでござるからな。どぅふっ』

「流石、仕事が早い」


 本気で感心してると。


『どぅうふふ……そちらの戦況は?』

「1VS1だ――稲荷光イナリビカリ!!」


 稲荷光イナリビカリ――俺の最大火力の技を、俺は放った。

 閃光が疾り、爆炎が吹き荒れる。


 KDWが言った。


『どぅふふふ。流石でござる……それにしても乱入者はきゃつらは、何を企んでるのでござるかなあ?』


 PKが可能になってるだけじゃない。

 異変は、もう一つあった。

 普段なら、死んでも時間が経てば復活できる。


 しかし、それが今日はできない。


 いつまで経っても、クールタイムが終わらない。だから、乱入者に殺された分だけ、フィールドにいるプレイヤーは減っていく。


 いまやほぼ全てのサーバーで、残ったプレイヤーはゼロ。


 ただひとつ、サーバー戦1位のアカツキを除いては。


 しかしそのアカツキですら、既にほぼ全てのプレイヤーが退場している。


 ただ一人――フォックスおれを除いては。


 そして、その俺も――爆煙が消える。

 他人事のように、俺は呟いていた。


「効いちゃあいねえか」

 

 そこに現れたのは、人影。

 人差し指を立てた手を、俺に向けて突き出している。


 俺の目の前に、乱入者がいる。


 アカツキに現れた乱入者は、金髪にサングラスに皮パンにアロハ。

 

「いや――思った通りだな!」

 

 恐ろしく整った顔立ちの、なんかチャラそうな男だった。


 アロハそいつが言った。


「『見』に徹しながら、ず~っと嫌な場所から『殺気』を飛ばしてたよなあ。タイマンになったらなったで足を凍らせても効かないし、いま喰らわせてきたアレもかなりビッとした攻撃だ。な~んかなあ。な~んか違うよなあ……オマエは、なんか違う。他のヤツとは違う。オマエ――強いだろ」


 俺は答えた。


「ああ、強いよ」


 PVPでは、5年以上負けてない。

 アカツキが1位になったのも、俺がPVP戦の代表になってからだ。

 

 1000の刃を背負いし狐サウザンド・フォックス

 

 アルケインレジェンドこのせかいで、俺はそう呼ばれている。


「いいね~え」


 アロハが笑う。

 歯を剥き出すわけでもない。

 どんな動物にも似ていない。


 ただひたすらに、捕食者であることを伝えてくる笑みだった。


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お読みいただきありがとうございます。


新連載です。


オンラインゲームといったらPSOくらいしかやったことのない作者ですが、がんばります。とはいってもタイトルからお分かりの通り、すぐに異世界に行っちゃうんですけどね。


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