第78話 【11月17日】
朝、地下鉄で珍しいものを見た。それは両の手に子ども二人を繋ぎ、背中には生まれて間もない赤子を背負い立つ母親。電車に乗り込んで初めて彼女に気がついた時、ボクは自分がタイムカプセルに迷い込んだのかと思った。渋滞の車両に立つ彼女の母親ぶりはまるで「昭和」そのもので、周りの者たちもそこだけ吸う空気が違うとでも云うかのように自然と距離を空けていた。
ボクは彼女の斜め前の吊革に掴まり、じっと彼女と彼女の子どもたちを見ていた。さすがにこのところ気になっている変な男=「観察者」も気にならなかった。それほど彼女たちの存在にはインパクトがあった。その後3つか4つ目の駅で彼女ら親子は降りていった。その駅からどこへ行くのか。そこに彼女たちが生きていく如何様な場所があるのかボクには想像もできなかったが、ボクは職場に着くまで不可思議な爽快感を感じていた。それはまさしく「爽快」で、あれほど嫌っていた肥満体の母親にボクは「潔さ」さえ感じていたのだ。そう云えばこっぴどく叱られる両脇の子どもたちさえどこか幸福そうに見えた。
本当に不思議な朝だった。
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