第77話 【11月16日】

 ダイエットを始めてから自分が肉体という冬服を着ている感じがよくある。歩いていて自分の贅肉が筋肉から離れ、ぶるぶる波打つ感じがしてイライラする。「ダイエット、まだまだか」とため息も出る。

「私もダイエットしようかな~」同じ職場の女の子が昼休みに話しているのが聞こえた。

「止めといた方がいいよ。中途半端な気持ちなら」そう喉まで出掛かったが止めた。ダイエットしてみようかな、と口に出してみるのにも何らかの意味はある。もともと痩せる、ダイエットすること自体個人的な価値判断なのだ。好きにすればいい。

 ふと外に目をやると町の冬景色が広がっている。近くの並木が色づいてきたのが分かる。

「でも12月になったらまた食べちゃうのよね、絶対」と女の子。

 そう。それが普通と云えば普通なのだ、きっと。


 最近変な男に見張られている。気がついたのは地下鉄の構内でふと後ろを振り返った時だ。相手と目が合った。そして離れなかった。時間にして2、3秒かも知れないがそれで十分過ぎるほど相手の「普通じゃなさ」が見て取れた。

 それから何となくだが誰かにつけられている気がする。それが「誰か」は分からない。地下鉄の彼かも知れないし、もしかしたら違う人かも知れない。はっきりしているのはその見られているという感覚。感触と云ってもいい。それがまるで贅肉の冬服のように纏わりついて離れない。

 先日仕事帰り、街で雑誌の取材につかまった。「所謂『読モ』、やってみませんか?」最初何のことか分からなかった。「あなた、背も高いし、きっと悪くないと思うんですよ。周りから言われません?」その30手前の女はそう甘ったるく笑い、ボクの写真を数枚撮った。その感覚にもゾッとした。以来外を出歩くのが以前よりも増して億劫になった。家に帰るとどっと疲れが出てくる。こんなことは初めてだ。そして汗をかくしか今のボクにできることはない。

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