第37話 【10月7日】
風邪はなんとか大人しくしてくれている。有難い限りだ。ボクは扁桃腺持ちだから一旦熱が出ると三十九度台が3、4日は続く。そのきつさと云ったら…。
携帯に彼女からの着信があった。元「彼女」の彼女。かけ直してみると「仕事だった?」と割にはっきりした声が聞こえてきた。
「うん。どうした?」
「別にどうもしないけど。体、時々しんどいからさ。声聞いて楽になろうかなって」
知らなかった。やはり悪いのか、体。
「今、一人?」ボクは聞いた。
「うん、ずっと一人だよ。決まってるじゃない」
返す言葉がなかった。経済的な事とかはどうしてるのだろう?
「なんかさ。病気すると病気のしんどさより、一人でいることの方が持て余すのよね、実際」
分かる気がした。僕の背中がわずかに冷たい熱を帯びてきた。
「あなたもさ、気をつけなさいよ。お互い年だし、一人だし」彼女は笑った。
「そうだね」
「あ~、やだやだ。何言ってるんだろうね、私」
「いいよ、それで」ボクは言った。
「え?」
「昔は昔でさ、知らない仲じゃないんだし。こういうときは弱音…ごめんね、上手く言葉が見つからない。けど、連絡くれて本当嬉しいよ」
握った携帯受話器の向こうからはしばらく何も聞こえなかった。そう、繋がってるだけでもいいじゃないか。何とか生きてるだけでもいいじゃない。ボクは曇ったビル街の上空を眺めながらそう思った。
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