タイムスリップ型脱出ゲームへようこそ〜戦国〜(修正版)
きなこもち
其ノ壱 幕開け
作者注
この物語は、続編となっております。
登場人物がそこそこいたり、ゲームの内容が若干難しかったりするので、『タイ脱』シリーズを初めて読むと言う方は、先に『タイ脱』第一作、第二作をお読みください。(コレクションでまとめてあるので、そちらも参考にしてみてください。)
ここまでのあらすじ!
元の時代に戻るためには、ペアとなっている人を見つけて、持っている腕輪同士をくっつけなければならない。
そして、前作『タイムスリップ型脱出ゲームへようこそ〜平安〜』で、私は播磨(お月)と名乗る女の人質になってしまい、三人とは離れ離れに。
彼女の目的とは、そして私たちを待ち受ける運命とは–––。
「あれ?柊真君、明ちゃんは?」
そう明るく聞いてくる和さん。でも、その明るさは、わざと作っているとわかる。
いつもは天然っぽい和さんも、日本トップの学校に通っているわけで、馬鹿ではない。
きっとわかっている…ただならぬことが起きたことを。
「明は……置いてきました。」
「……喧嘩でもしたの?」
「脅されました。帰らないと、明がどうなってもいいのかと。」
美沙さんと和さんが、小さく息を呑む。
「……誰に?」
「彼女は名乗りませんでした。しかし、自分のことをタイムトラベラーだと。あとは…、十二単着ていました。」
「うーん、それだけじゃわかんないな……。いっぱいいるし、平安貴族。」
その時、美沙さんが突然博士に掴みかかった。
「じいちゃんのせいでっ!明ちゃんがどうなってるかもわからない!危険な状態かもしれないっ!じいちゃんは、軽い気持ちで私たちにモニター頼んだかもしれないけど、それがどんだけ危ないか、考えたことある?じいちゃんはっ」
「美沙!」
和さんが、美沙さんを博士から引き剥がす。
博士は、白衣の襟を直すと、パソコンをいじり出した。
「ふぅぅぅー。」
美沙さんが横で大きなため息をつく。
すると、博士が口を開いた。
「…今、『時空GPS』によると明ちゃんは戦国時代にいる。」
「じいちゃんが明ちゃんをこっちに戻すことはできないの?できるよね?天才博士だもんね?」
「美沙、言い方…。」
「できることならやっている!」
博士の突然の大声に、空気が震える。
ピンと空気の糸が張る。
「でも、そのためのプログラムが、何者かによって消されているんだ!」
荒い息をする博士。
しばらくして、落ち着いたのか博士は静かに言った。
「一つの方法がある。三人も戦国時代に行きなさい。そこで、明ちゃんを救出する。どうだ?」
戦国時代に、行く……。
あの戦乱の中に飛び込んでいく。正直怖い。
俺は目をつぶった。明の笑顔を思い浮かべる。
「……わかった。」
俺は言った。美沙さん、和さんも頷く。
「明ちゃんを、助けに行こう。」
俺たちは、準備を整え、カプセルに入った。
「それじゃあ、行くぞ。」
俺は、こぶしを握りしめる。明、待ってろ……
博士がボタンを押した。当たりが眩く光り始める。
その時、博士が何か言ったのだけれど、俺にはわからなかった。
気づくと、当たりの景色は変わっていた。
平安の、雅で優雅な感じとは違う…、そう、
「『一族の無念を晴らすため』ってどういうこと?」
「だから、言わないって言ったでしょう?」
「人質であるからには、人質はなぜ自分が人質なのか知る権利があるはず。」
「そんな権利聞いたことない…でも、まあ、教えてあげるわ。私がこんなことをしているのは、我が一族の誇りを取り戻すためよ。」
彼女は、淡々と語り始めた。
「我が一族は、鬼を倒し民を救った由緒正しき家だった。なのに、私たちの家系は、衰退して行った。この戦国時代に、戦いで敗れたから。当主とその妻は斬首、残された子供たちはなんとか生き延びて、その末裔が私。」
「それがどうしたの?」
「『それがどうしたの』って何?」
静かな怒りを奥に感じる。
「その後、子供たち…私の先祖は辛い仕打ちを受けた。今までの贅沢な暮らしから、山奥で誰にも知られずひっそりと暮らした。次女なんか、他の武将と結婚することになっていて、お互いに愛し合っていたのに、別れざるを得なかった。そして、うちの家系が負けたって歴史マニアの人の中では有名だから、たまに言われるよ、『あぁ、あの負けた一族ですか。』」
彼女は、まっすぐ前を見据えた。
「私は変える、負けた、と言う過去を。そして、誰も、苦しまないようにしたい。」
作者注その2
この物語はフィクションです。世の中には、鬼を倒した伝説が残っているところもあると思いますが、それらとは一切関係がないので念のため。
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