俺の青春はアイドルな姉に支配されている

おるたん

プロローグ

 目を覚ますと、視界には雲一つない澄み渡った空が広がっていた。

 ま、まさか異世界転生——なんて事もあるはずなく。そうだ、昼休みに1人で屋上で弁当を食べて、少し寝たんだった。

 お腹に乗せていたスマホを取って時間を確認してみると、すでに五限目が始まっている時間だ。と言うか、もう終わりかけ。

 全然少しじゃねぇ。


 LINEの通知が20件ほど溜まっている。どれも俺に帰って来いと促すものだ。ただでさえ寝心地の悪い場所なのに、良く気付かなかったものだ。まあ、体育だったのがせめてもの救いか。好きだから出たかったけどさ。


 一応既読を付けて、とりあえず屋上から離れる。しかし教室に戻るには早いので、踊り場で時間を潰す。

 そしてチャイムが鳴ってから、俺は教室に戻った。タイミング的に男子が数人帰って来たくらいだろう。


「おい百瀬、めっちゃ呼んだのに既読も付けないで何してたんだ!」

「そうだぞ。一ヶ月でもうサボりか?」

「クソ大変だったのに昼寝でもしてたのか? いいご身分だな」


 予想通り、3人戻ってきていた。いつも体育の授業で戻るのが早い3人組だ。


「いやぁ、昨日色々あって寝不足でさ。仮眠取ろうと思ったら、見事に寝過ごしたよ」

「かーっ、俺だって体育出たのにお前は優雅に昼寝かよ!」

「そうだぞ~。あたしも先生から何回も聞かれて大変だったんだからね?」


 話していると、扉の方から明るい女子の声が聞こえてきた。天音沙耶——このクラスのカーストトップの女子で、女王的な存在だ。

 彼女が来たとたん、男子3人は急に黙り込む。沙耶が話しかけたのだから俺たちは身を引くべきだ、とでも思っているのだろう。


 別に沙耶は「オタクが話しかけんな」と言うタイプではないが、圧倒的に上位の存在に対して壁を作ってしまうのだろう。

 気持ちはわかる。なんせ沙耶は入学式の時点で金髪にピアスで来た女だ。しかも今を時めく人気モデルで、顔もスタイルもいい。確か身長は170cmで胸はEとかFとか噂されている。

 そりゃ男子からすれば話しかけるのも躊躇ってしまうだろう。


「仮眠取ろうと思っただけなんだけど、ついな?」

「ついな? じゃないわ! マジ大変だったんだからね? 家近いからってそこまでの事情も知るわけないのにさー」

「いやでも、それについては俺悪くないと思うんだ」

「元をたどればサボった彰人が悪いでしょ。ねぇ田中?」

「ま、まあ、そうだね」

「ほら!」

「ほらじゃないが……とは言えないか。悪かった。次からは気を付ける」

「ほんと気を付けなよ~。あ、ゆいぴだ! ねえ聞いて~、彰人ったら教室戻ったら平然とそこで喋ってたんだよ? ヤバくない?」


 沙耶は同じグループの特に仲のいい女子が返ってきたとたん、その女子に愚痴りに行った。

 その後も教室に戻って来たクラスメイトから「お前めっちゃしれっと教室いんじゃん」的なことを言われた。


「あ、彰人くん戻ってたんだ。いったい授業サボって何してたの? おらっ」

「いてっ。おでこ防御薄いんだぞー」

「サボった罰だから甘んじて受けなさい。おらっ」


 最後に教室に戻ってきた佐倉真央が、そう言いつつ2発のデコピンをかましてきた。

 弟を相手にするように接してくる彼女は、一応ダブりの先輩だ。

 茶髪のボブに年下にも見える童顔美少女、ついでに小柄。実際先輩に中等部と間違えられるレベルだが、俺の一個上である。


「いった! 真央さんのデコピン地味に痛いからやめてくれ。反省したから」

「よろしい。けどホント、何してたの?」

「屋上で仮眠したら寝過ごした。マジで反省してる」

「あーあ。でもよかったね、体育で。浅木先生なら軽い注意で終わるだろうし」

「ほんとだよ。もし黒先だったら死んでた」

「そのもしもがないように、今日はちゃんと寝るんだよ?」

「わかってる。今日はちゃんと今日のうちに寝る」


 流石に学校生活に支障をきたすのは良くない。俺にだってクラスでのキャラや立ち位置があるのだ。

 今回はそれに救われたが、何度もやればただのダメな奴になってしまう。

 だから、本当に気を付けなければ。

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