ダンジョン配信学校の元失格教師〜退職したのでスキル【教育】で眷属を増やし配信業で食っていく〜

まちかぜ レオン

第1話 ダンジョン実習

 流行を食い物にする人間はいつの時代にも存在する。


 十五年前、鉱物と魔物の宝庫、ダンジョンが現れたときも同様だった。


 ダンジョン出現の影響は凄まじく、国の勢力図さえ塗り替えるほどだった。政府や企業はすぐさま利権確保に走った。


 むろん、個人という単位でも動きがあった。探索の様子を配信することで金銭を得るダンジョン配信者の出現がそれだ。


 十数年の時を経て、ダンジョン配信界隈は膨れ上がっていた。


 モンスターの討伐、鉱物の収集、特殊装備での探索など、配信のジャンルは多様化・細分化されている。


 いまの時代、ダンジョン配信には夢がある。バッググラウンドなど関係ない。一発逆転を目指せるビッグ・ドリームだ。憧れる子供はすくなくない。


 そうなると、ダンジョン配信者を志す人間を食い物にする連中だって現れる。


 ダンジョン配信学校はいい例だ。


 俺・わたり恭平きょうへいは――ダンジョン配信学校の教師である。


 ***


 斬。


 聞こえるのは、断末魔の叫び。灰となって消え去る。残るのは宝石を思わせる魔石だけ。


 ゴブリンの腹を貫いたのは、俺の持つ指示棒だった。


 魔力で一気に展開し、数メートル先のゴブリンを捉えた。


「いいか、モンスターの倒し方は自由だ。不意を打ってもいい。安全に倒すのがポイントだ」


 おぉ、と歓声を上げつつ、生徒は拍手した。


「渡先生やる〜」「意外に強い」「こうやって倒すのか……」


 初心者向けダンジョンの、浅い層。


 きょうはここで、ダンジョン実習っていうのをおこなっている。


 3年A組の生徒を引き連れて、モンスターの倒し方を教える。とはいってもクラスメイト全員を連れていけるものではない。クラスの精鋭十名弱を引き連れている。


「君たちもいずれ、有名な配信者を目指すんだ。俺を超えるんだぞ〜」


 ニコニコしながら口当たりのいい言葉を吐いている。実に気持ちが悪い。


 有能な探索者はダンジョン配信学校などにこない。ダンジョン探索に魂を奪われ、学校を中退するかそもそも通わないような者たちがトップを取るというものだ。


 専門学校と相性が非常に悪いのが、ダンジョン配信者という仕事だと感じている。


 ダンジョン配信学校に勤め、はや五年以上経過している。いまだ俺より強い生徒とは対面できていない。卒業しても大半がふつうの仕事についてしまう。配信や探索のノウハウを身につけたのにもかかわらず、だ。


 探索者というのは博打だ。命をチップにして、当たるかもわからない賭け事に魂を削る。まともな人間は残らない。


 トッププレイヤーにこそ学ぶべきところは多いだろうに、俺のような中途半端な志なかばで折れたような連中に対して、大金を積ませている。生徒をカモにする、実に最低の仕組みだと感じている。


「がんばりまーす!」「絶対超える!」


 呑気に楽しげな様子でいられると心が痛むというものだ。俺を超えずに散っていく大半の生徒のことを思うと。


 こうして心の中で葛藤している通り、俺は!


 ダンジョン配信学校の教師なんて、早々に辞めたいと感じている。


 座学を教え、ダンジョンに潜っては浅い階層で雑魚狩りに走る。大した金は入ってこない。


 文句をいってはいるが、俺もダンジョン配信学校の卒業生である。同じ轍を踏んでほしくないからこそ毒付いている。心の中で、ひっそりと。


「これから長期休暇になって、試しにダンジョン探索する奴もいるだろうが、くれぐれも気をつけるんだぞ。夏休みにダンジョン潜って帰らぬ人になりました、なんてそう珍しい話でもないんだからな」


 わかってます、と軽い調子で返される。


 夏の間にもしっかり鍛錬を積んで、いい探索者になってもらいたいものだ。


 どうしてここまで他人事のようなのかって?


 簡単だ。俺が今週で退職する予定だから。


 ここの仕組みにはうんざりだ。そもそも俺はダンジョン配信者を目指していたのだ。実力だってそれなりにある。


 それでも、俺は一度、断念せざるをえなかった。


 ふたたび挑戦しようと思うのは、ようやく復帰のタイミングにふさわしいと確信したからである。実力がついた。心の整理もついた。


 同僚には申し訳ないという気持ちがある。だが、それ以上にここを辞めて、ダンジョン配信者の夢をふたたび追いたい、という思いがあふれていた。


 ダンジョン配信学校の教師として最悪の考えで脳内をいっぱいにしつつ、本日のダンジョン実習を進めていく。


 モンスターの倒し方はもちろん、魔石について、探索者同士のマナーについても触れていく。


 あっという間の数時間だった。慣れていることだから、というのが大きかったのだろう。


「……そういうわけで、本日のダンジョン実習は以上だ。お疲れ様!」


 モンスター討伐の実戦もあったため、生徒はややぐったりとしていた。


「「「お疲れ様でーす」」」


 現地で解散した後、俺の目は死んでいた。


 荒んだ大人になってしまったな、と思いつつ、紫煙をくゆらせるのだった。


 退職して、それからすぐにダンジョン探索。そして配信。


 失敗しても構わなかった。貯金はある。むこうしばらくは無職でも生きていけるのだ。


 いずれにしても、挑戦せずに腐りたくはなかったのだ。



【あとがき】


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