第7話勇者パーティー新加入
俺たちは剣道場に来た。
「新品の道着と袴と防具がある。それを身に着けるがいい。もちろん竹刀もな」
「はい。ありがとうございます」
なんで新品の防具一式があるんだよ。
仕組まれてるとしか思えない。
女子剣道部の後輩もいる。
剣道は審判がいないと試合は出来ないからしょうがないけど、式町先輩、何を企んでるんだ。
優子ちゃんは女子の部室で着替えてきた。
優子ちゃんの道着、袴姿を見れるのは嬉しいけど、こんな茶番は認めたくない。
「よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
「始め!」
試合が始まった。
剣道の試合は二本先取制だ。
優子ちゃんの太刀筋は初心者にしてはいいけど、剣道とダンジョンでの剣の扱いは全くの別物なので全国大会上位の実力者の式町先輩とは勝負にならなかった。
あっけなく二本取られて試合終了した。
「ありがとうございました」
「ふん。全く歯ごたえがなかったな。勇者というのはこの程度か」
「待ってください、式町先輩」
「何だ? 剣持」
「その言い方は何ですか! 天木さんは受ける必要のない勝負を受けたんですよ。それに剣道は礼に始まり礼に終わる、ではないのですか? もっと敬意を払ってもいいのではないのですか」
「相変わらず甘いことを言っているな。剣道に限らず勝負事は勝った方が正義だ」
「なら俺と勝負してくれませんか?」
「ほう、面白い」
「真央君……」
俺は道着と袴に男子部の部室で着替えた。
防具は昔使っていたのが残っていた。
道着と袴は同級生が新品を貸してくれた。
「剣持君、部室に来たんだね。僕は信じてたよ。戻ってきてくれるって。防具は昔のがそのまま残ってるよ。道着と袴は剣持君が戻ってくれるのを信じて新品を用意しておいたよ」
「ごめん。戻ってきたわけじゃないんだ。式町先輩と成り行きで戦うことになった」
「そうなんだ。頑張ってね。僕は君が戻って来てくれるのを信じてるよ」
何故か同級生から復帰の期待をされているけど、俺は戻る気はない。
ダンジョン配信に魅了されているからだ。
「意外と様になっているではないか」
「お世辞は必要ないです。試合よろしくお願いします」
「始め!」
式町先輩の攻撃が来る。
遅すぎて欠伸が出そうだ。
剣道とダンジョンでの剣の扱いは違うと言ったが、動体視力が違い過ぎる。
日々深層でモンスター討伐している身からすれば、式町先輩の剣は遅すぎる。
式町先輩の技術は凄いと思うけど、俺の相手ではない。
俺は出小手を決める。
出小手とは相手が面を打つ動き出しを狙って、右小手を打つ技だ。
「小手あり! 一本!」
「式町先輩が出小手を決められるなんて!」
「噓でしょ!」
試合が再開した。
もう終わりにする。
今度は抜き銅を決めた。
抜き銅とは相手が打ってくる面を躱し、胴を決める技だ。
「胴あり! 勝負あり!」
「そんな、式町先輩が負けるなんて……」
「信じられない……」
式町先輩が近寄ってきた。
お互いの健闘を称えるのかな。
「剣持、ふざけるな!」
あれ……俺、胸倉掴まれてる。
「貴様は何をしてくれたんだ!」
「い、いや、正々堂々とした勝負だったんですから、その態度は違うんじゃないですか?」
「そうじゃない! そういうことを言ってるんじゃない!」
「?」
そこで式町先輩から聞かされたことは耳を疑うものだった。
式町先輩は優子ちゃんと倉木さんの配信を見ていた。
二人の配信を見て心を動かされた。
私も二人のようになりたい。
二人とも、可愛いのに強い。
パーティーに入れて欲しいと考えた。
そこでジョブ鑑定を行った。
その結果はBランクジョブの騎士だった。
良くも悪くもない、ジョブ鑑定を行った人が高確率でなるジョブ。
式町先輩は意気消沈した。
SSRジョブ二人のパーティーにBランクジョブの私が入れるわけがないと。
でも、諦めきれずに優子ちゃんが校舎を歩いていると自然と目で追う日々を送っていた。
そして、先程の優子ちゃんが不良女子グループに絡まれているのを見て、千載一遇のチャンスだと思ったらしい。
優子ちゃんを助け出せば、勇者パーティーに入る口実になる。
でも、式町先輩が助けるはずだった場面を俺が潰した。
そこで式町先輩は計画を変更し、剣道の試合を優子ちゃんとし、そこで勝てば勇者パーティーに入れてもらうように打診するつもりだった。
Bランクジョブになって自信がないけど、勝てば優子ちゃんが認めてくれてスムーズに勇者パーティーに入れると考えたからだ。
式町先輩が試合に勝って勇者パーティーに入れてもらう打診をしようとしたら、俺に試合を申し込まれた。
こいつは何をしてくれてんだと。
万事上手くいく方向なのに邪魔をして。
おまけに試合に勝って。
こいつは空気が読めないのかと。
「はあぁぁぁ!!! 式町先輩、自分が低ランクジョブだからって諦めるような人じゃないでしょ。無理矢理にでも付いて行くでしょ。そんな弱気でしたっけ?」
「失礼な! 私はか弱い女の子だぞ! SSRジョブ二人に付いて行けるか不安で不安で悩んでいたんだ! それをお前は潰して。可愛い二人と一緒のパーティーに入る計画が台無しだ。それに、入部後直ぐ全国大会優勝したのに剣道部を辞めたのも許せん!」
ここまで俺は式町先輩を空気の読めない人だと思っていた。
でも、現実に空気が読めていないのは俺だった。
やることなすこと全てが裏目に出ていた。
剣道部を辞めたのはダンジョン配信に集中するためだったから、後悔もしてないし、どうすることもできないけど、それを言われると辛い。
「ふふ、式町先輩可愛いんですね。良かったら私たちと一緒に配信しませんか? 智美に相談しないといけないですけど、歓迎してくれると思います」
「いいのか? 私はBランクジョブだぞ。お荷物になるかもしれんぞ」
「ふふ、さっきまでの態度と違って可愛いですね。智美もいますし、真央君が陰でサポートしてくれ―――って、これは言わない方が良かったかな」
「そうだ、剣持お前も一緒に来ないのか?」
俺は学校で魔王様キャラはやらないって決めている。
でも、この場面は……
「誰が貴様らと行くか! 我は孤高の存在。群れるなどしない。では、さらばだ!」
「あ、真央君……」
「おい、剣持」
優子ちゃんを守ってくれる存在が勇者パーティーに入ってほしいと思っていた。
予想だにしない展開だったが。
俺の願いは一つ。
優子ちゃんが無事でいる事だけだ。
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