最強の魔王様、勇者にフラれる~リスナーども、結局我が勇者のピンチに駆けつけてるだと?ふざけるな!勇者の無様な姿を見にきただけだ!仕方ないから我が最強だということを教えてやろう~
新条優里
第1話最強の魔王様、勇者にフラれる
学校の帰り道。
突然彼女から別れを切り出された。
「真央君、別れよう」
「分かったよ、優子ちゃん」
「止めないの?」
「俺と優子ちゃんじゃ釣り合ってなかった。付き合っている期間は幸せだったけど、違和感みたいなものを感じていたのも事実だ」
「本当は止めてほしかっ……いえ、私から別れを切り出したのにそれはなしよね。今までありがとう」
「ありがとう、優子ちゃん。今まで楽しかったよ」
俺はフラれたことよりも、こんなクソ陰キャぼっちコミュ障中二病のカースト最下位のゴミ人間と、カースト最上位の学校一の美少女が今まで付き合ってくれていたことに感謝しかなかった。
ダンジョンが世界に出現して早数十年。
ダンジョンに生息するモンスターを倒して、その素材を売却し生計を立てる探索者や、モンスターを倒す様子を配信して、広告収益や投げ銭で生計を立てるダンジョン配信者という者たちが徐々に現れ始めた。
探索者や配信者たちはジョブを入手し、その力でダンジョン攻略を進める。
配信者はダンチューブというアプリを配信に使い、ダンチューバーと呼ばれている。
冒険者協会でジョブ鑑定を行うことで、ジョブを入手できる。
俺、
SSRジョブは珍しく、当時は話題になった
このジョブというものはその名前がついた能力を入手するだけで、魔王になったからといって、世界を征服したり破滅させるとかはない。
だが、折角魔王になったのだから俺は黒装束に角を生やした衣装でダンジョン配信を行い、登録者を増やしていた。
普段の俺の配信の様子。
「ふはははは!!!!! 弱い、弱い、弱すぎるぞ、モンスターども。我を楽しませてくれる者はおらぬのか!」
”魔王様~”
”さす魔王”
”やっぱ魔王様の配信はスカッとする~”
俺はモンスターを圧倒的な力で殲滅する。
コメント欄が湧く。
学校ではぼっち、ダンジョンでは魔王様キャラ。
それが俺の生活だ。
俺が配信者を目指したのは、義妹に良い生活させるためだった。
毎日美味い物食わせて、『お兄ちゃんのせいで太っちゃったじゃない』って言わせたかったからだ。
ぐへへ、キモイだろう。
俺にとっては誉め言葉だ。
毎日美味しそうにご飯を食べる義妹を見られて俺は幸せだが、義妹は太りにくい体質なのかスレンダーなままだった。
胸部に栄養が豊富に行き渡っているが。
そんなキモイ俺には彼女がいた。
もうフラれたけど。
ある日学校一の美少女が告白してきた。
隣の席の
これは嘘告白? でも、優子ちゃんはグループに所属していない。
別のクラスに仲がいい子がいるが。
俺みたいな陰キャぼっちと違って、優子ちゃんは高嶺の花でみんなが話しかけづらいのだろう。
グループには所属していないが、困っている人がいたら積極的に声を掛けていた。
そういうところに俺は優子ちゃんに好感を持っていた。
俺は告白なんてされたことがなかったから、どうしたらいいか分からなかったが、ここで断ったら二度とこんなチャンスやってこないと思ってOKした。
当たり前だが、嘘告白ではなかった。
何故優子ちゃんが俺のことを好きになってくれたのかを言ってくれることがあったが、ここでは恥ずかしいので俺の胸の内に秘めておく。
優子ちゃんの真剣な気持ちを知ってからは俺もその気持ちに応えようとしたが、どうしても俺の中にある卑屈な気持ちを拭えなかった。
俺と優子ちゃんじゃ釣り合ってない。
そして、ある日俺たちの関係は終わった。
フラれたこと自体はしょうがないが、俺は優子ちゃんの気持ちに全力で応えていればと後悔した。
俺がフラれる少し前にニュースが飛び込んできた。
SSRジョブ勇者を取得した者が出たというものだった。
なんとそれが優子ちゃんだった。
凄いことだと思ったけど、何故とも思った。
ジョブを手に入れるには冒険者登録が必要だ。
優子ちゃんの口から、探索者やダンジョン配信者になりたいということを聞いたことがない。
俺を信頼してなかった? それともここ数日で思いついたこと?
まさか勇者になったから俺を振った? ジョブ通りの行動をしないといけないという決まりはなく、勇者の能力を手に入れられるだけなのに。
勇者の宿敵の魔王とは一緒にいられないとか? そんなことはないと俺は信じたかった。
「おはよう、真央君」
「おはよう、優子ちゃん」
別れたといって口を利かないということはなく、それからも普通に接していた。
別れた理由やダンジョンに足を踏み入れた理由は気になったが、それを聞くのは俺の中で憚られるという気持ちがあった。
元の日常に戻った。
学校でぼっち、ダンジョンで魔王様キャラ。
優子ちゃんは俺に何か言いたそうによく俺をチラ見してくる。
チラ見に気付くということは、俺もチラ見してるからだけど。
今日、優子ちゃんがダンジョン配信するという噂になっていた。
同級生から質問されていた優子ちゃんは肯定した。
俺は気になるから家で配信を視聴しようと思う。
案の定、優子ちゃんの配信は凄い注目度だ。
待機画面の視聴者数や、コメント数が凄い。
チャンネル登録者数も急激に増えている。
”ワクワク”
”勇者様初配信”
”楽しみ過ぎる”
『皆さん、こんにちは、ユーコです。今日は私たちの初配信を見に来てくれてありがとう御座います。一緒に行ってくれるのは親友のトモミです。皆さんに楽しい配信をお届けできればと思います』
『皆さん、こんにちは。賢者のトモミです。』
”きちゃぁぁぁ!!!”
”勇者様~!!!”
”美人過ぎる!!!”
”賢者様も綺麗だ!!!”
”こん勇者様~”
”こん賢者様~”
優子ちゃんの親友の
優子ちゃんが仲良くしている別のクラスの子だ。
SSRジョブが一人誕生するだけでも珍しいことなのに、二人も同時に誕生したことで連日ニュースになっていた。
連日世間の話題を集めたことで今回の配信はかなり注目されていた。
チャンネル登録者数や、同時接続数がうなぎ登りだった。
二人の攻略配信は、上層から始めるみたいだ。
ダンジョンは上層から始まり、中層、下層、深層と地下に進めば進むほど出現するモンスターが強くなってくる。
深層より深い場所があるらしいが、一部の人間を除いてその存在は世間に認知されていなかった。
上層には雑魚モンスターしか出現せず、二人の攻略配信は順調だった。
優子ちゃんは剣と魔法でモンスターを倒し、倉木さんは魔法でサポートしていた。
”お二人とも綺麗なだけでなくお強い”
”目の保養だ~”
二人に邪な視線が向けられるのは複雑な気分だったが、無事ならなによりだ。
『『きゃっ!』』
安心していたのもつかの間、トラブルがあったようだ。
二人がある地点まで足を運ぶと、二人は光に包まれその場から姿を消した。
転移トラップが発動したのだ。
俺は二人が飛ばされた場所に見覚えがあった。
深層だ。
凶悪なモンスターが出現する、ベテラン冒険者でさえ足を踏み入れるのを憚られる場所。
そして、飛ばされた先には火龍がいた、
火竜、獰猛な性格の竜種。
その巨体から繰り出される爪撃、尾の振り回し、そして全てを吹き飛ばすブレス。
冒険者の間では遭遇したら逃げろというのが暗黙のルールだった。
逃げ場がない場合は……。
”転移トラップ!”
”火龍だ!”
”二人とも逃げて!”
『ダメ! どこにも出口がない!』
『戦うしかないの……』
”今の二人の実力じゃ無理だ!”
”本当に無理なのか? 案外勝てるかもなんて……”
”いくら才能があるといっても戦闘の初心者だ。無理に決まってる!”
”誰か二人を助けて!”
”本当に誰か助けてくれ、このままじゃ取り返しのつかないことになる”
俺は駆け出していた。
クソ! 転移魔法はダンジョンに到着しないと使えない。
二人がいた場所は見覚えがある。
ダンジョンにさえ到着できれば直ぐなのに……。
勇者と賢者は逃げられないので、火龍と戦うことにした。
『ダメ! 近寄れない……』
火龍の尻尾の振り回しで勇者は近寄れなかった。
賢者は魔法で援護するも全く効かない。
勇者や賢者と言っても、最初から途轍もなく強いということはない。
他の一般的なジョブより初期能力が多少高く、潜在能力を秘めているというだけだった。
ダンジョン攻略を始めたばかりの二人は上層攻略が適性であり、中層攻略をするには実力不足だった。
中層でさえ場違いなのに、深層は二人にとって完全に不相応な場所だった。
二人は窮地に陥っていた。
勇者の非力な斬撃と、賢者の未熟な魔法では火龍に傷一つ付けることは叶わなかった。
火龍はあしらうように尻尾を振っていたが、賢者の魔法が当たることによって立腹した。
大口を開け、ブレスを放つ準備をしている。
”おいおいおい、嘘だろ……”
”このままじゃデビュー配信が事故配信になるぞ……”
”誰か近くにいないのか?”
”いるわけないだろ トップ配信者でも下層がやっとだ 深層に人がいるわけない”
『嫌だ、嫌だよ……死にたくない……真央君助けてー--!!!』
絶体絶命の状況。
視聴者どころか、火龍と対峙している二人も死を覚悟するような状況。
無慈悲にも火龍の口からは業火が発せられようとしていた。
しかし、火龍から放たれたブレスは二人に浴びせられることはなかった。
そのブレスは、同程度の衝撃波のようなものと相殺された。
『!?』
勇者と賢者は何が起こったのか分かっていない。
『ふはははは!!!!! 呼んだか、勇者よ? 無様なり! そのような矮小な相手如きに遅れをとるとは。我が永遠のライバルと思っていたが、見込み違いだったか』
そこには場違いな、高笑いをする黒装束の男がいた。
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
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