もうこの会社ダメだろ
思わず俺は聞き返す。
「なんすか突然。というより仕事する場所間違ってません? ここは総務企画部ですよ」
「あ、私先月からここに異動したから」
「……は?」
「そういうわけで一応先輩よ、敬いなさい」
敬われるくらいの行動を示してから言ってほしいセリフ、俺の中でぶっちぎりの第一位である。
なんやそれ、あまりにファーストイヤーすぎて驚きもカズノコ天井だわ。百合だったらいくらカズノコ飼っていようと意味ないけどな!
ま、いくら父親の保護下だとはいえ、知らない人には人見知り発動とかで失敗ばかりしていた吉崎パイセンに人事部は向いてなかったことは確かだと言える。まともに話してたの俺くらいだもの。先輩の失敗をフォローしたのも俺だけどな!!
そして、話の持って生き方が唐突すぎんだろ。誰も出勤してない時間帯に早出をして掃除でもしようかと思ったのに。
やる気に満ち溢れた社員です、と思わせるための印象操作がしょっぱなで躓いた。スケバン刑事並みに前途ヨーヨーを目指したつもりが、名探偵ばりに前途コナン、いや多難になっちまったよ。
悲しみよ再度こんにちは。
「まあ敬うのはどうでもいいとして。いきなりなんすか、芸能プロダクションとか紹介してもらって転職して成り上がるつもりですか。なろう系もびっくりの無謀な挑戦ですが、止めませんから頑張ってください」
「違うわよ。広告用」
「は?」
「うちの会社企画で、『
「ああ、ネット通販専門の激安衣料……」
「そうそう。でも、最近他の企業に展開負けしちゃっててね、かなり厳しい状況」
「それは
「そこで、三国志レベルの起死回生の一手として、今度新しい展開を予定してるんだけど、私もそれにかかわらせてもらってるわ。その広告に起用する人を探してるってわけ」
「そんなマイナーな武将ネタを拾っていただきありがとうございます。なるほど事情は分かりました。でもそんなの企業案件でオファー出せば済むことでは」
「予算がないのよ!!」
「……」
予算がケチられてるってことは、半分見捨てられてるんじゃね? とは思った。
だがあえて言わないでおこう、話は最後まで聞かなきゃならん。
「たとえネット広告だけだとしても、素人を使うのと芸能人を起用するのとでは、全く格が違ってくるの!!」
「そういうもんすか」
「だから健康食品とかでも、売れてないけど知名度はそれなりにある芸能人を使ってるじゃない!」
「それはある意味そういう広告に出ている人への冒涜ですね。でもそれならそういう芸能人を指定すれば済む話でしょう」
「本当に予算がないのよ!! できるかぎり広告料にまわしたいし、あんたにもし芸能人の知り合いがいたら、お友達価格でそのぶん出演料お安くできないかなーって思って」
「そんなの事務所が許すわけないだろうし下心満載すぎて草。そもそも、そんな都合のいい芸能人の知り合いがいると……」
そこで俺の言葉は止まった。
……あ、いたわ。
確かに一人いた。芸能人の知り合いが。
でも知名度的にはどうかは存じ上げません、俺はほとんどテレビとか見ないし。
というか、なんで配属先でのあいさつよりも先に仕事の話を投げられたんだろう、俺。
社会の厳しさをあらためて痛感したわ。
…………
自分で体験したからわかるが、右も左もわからない都会でやっていくっていうのはそれなりに大変だ。
だからこそ、今さらながら思い出したように気になる。
真尋も、頑張っているんかなあ。
―・―・―・―・―・―・―
というわけで真尋の近況が気になった俺は、千尋さんというつてを頼り強引に真尋の連絡先を聞き出し、オフの日に会社近くで会うことになった。
むろん例の広告のオファーのことは一言も告げてない。
「……久しぶり、優弥。元気そうだね」
「あ、ああ。真尋も久しぶりだな」
なんというか。
久しぶりに会った真尋は、帽子をかぶって眼鏡をかけているものの、確かに芸能人らしききれいさを持っているように思えた。
ただ、俺のほうへ向けてきた挨拶のような笑顔は、やや覇気がないようにも見えて。
ちょっとだけ審配。
────────────────
とりあえず、今日が『コイビト・スワップ』2巻の発売日ということで記念更新してみました。
ちなみに電子版のみですが、お読みいただけたら嬉しく思います。
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