第57話 新たな世界への第一歩
『勝ったぁぁぁぁぁぁぁ!』
『ボロス、ありがとう!!!』
『【50000】世界を救ってくれた感謝を込めて!〈赤スパの悪魔〉』
『流石は闇の者、我が同胞よ!〈中二ニキ〉』
『お前英雄だよ! 疑ってごめん!』
『ボロスさん、本当にお疲れ様です!〈博識ニキ〉』
『【50000】やっぱり兄貴最高!!!〈弟分ニキ〉』
我の勝利宣言を受けて、コメント欄が一気に感謝の言葉で溢れかえった。どうやら、我の疑いは完全に晴れたようだ。
……やはり、誰かから認められるのは嬉しいな。
そう思いながら街を見下ろすと、何か小さな物体が、街の方へと落ちていくのが見えた。
「……まだ辛うじて生きてたか。しぶとい奴め」
我はその物体を追って急降下し、地上へと戻った。
先にその物体が落下していたようで、着地の勢いに耐え切れずにぐちゃぐちゃになっていた。
その物体の正体は、変わり果てた親父だった。先程までの邪気はどこにもなく、全ての力を失ったか弱いスライム本来の姿に成り下がっていた。
「……ボロスか。儂を倒すとは、随分と強くなったものだな。……その力、魔物の為に使ってくれないのが凄く惜しい。お前ならば、魔鉱石に頼らずとも魔物の世界を作るのは容易いだろうに……」
魔鉱石が崩壊したからか、親父は自我を取り戻したようだった。今にも消えそうな声で、そんな事をほざいていた。
「……親父。一つ聞きたい事がある。どうして、街を壊す事よりもAランクの皆や我を倒すことを優先したんだ? 我らの相手なんてせずに、上空に飛び上がってブレスを撃てば済むはずだったのに。まさかとは思うが、人間の街にも被害を与えて、それを我が倒すことで我を英雄にしようとしたのか?」
我がそう聞くと、親父は笑みを浮かべながら吐き捨てた。
「ハッ。儂がそんな事をすると思うか? ……でも、お前がそう思うんだったら、そういう事にしてくれて構わない。どうせあの時の儂には、まともな自我は残っていなかったからな」
親父が肯定も否定もしなかったのは、我を思っての事だろうか。どちらとも取れる余地を残したつもりか?
……今更親のように振る舞っても、もう遅いというのに。
「……親父。最後に一つ、言わせてくれ。我が魔物の為に力を使わないことが惜しいって言ってたけど、それは違う。我の力は、魔物と人間の為に使うんだ。二つの種族が手を取り合う未来こそが、一番良い未来だと我は思っている。……いや、我がその未来を作るんだ。だから、地獄で見ていろ。お前が卑下していた人間と魔物が共存する未来を」
我が親父に最後の言葉を告げると、親父は笑みを零し、我にこう言い放った。
「……そうか。お前が描く未来、地獄で見させてもらうぞ。儂の魔物の世界より酷いものにしたら、地獄から這い上がって壊してやるからな」
そこまで言って、親父は満足したように口を閉じた。
我は死を待つ親父の体に剣を突き刺した。親父は笑ったまま息を引き取り、その体は少しずつ消えてなくなっていった。
そして、最後の欠片がそよ風に吹かれ、塵となって宙に舞った。
「……やはりどんなクソ親父でも、父親を殺すのは決して良い気分では無いな」
我はあまりにあっけない親父の最後を見届けながら、そう零した。
「……今日の配信はこれで終わりだ。皆、我の戦いを見届けてくれてありがとう」
『こっちこそ、ディア十七世を倒してくれてありがとう!』
『お前のやった事は絶対に無駄じゃない。だからあんまり気落ちするなよ!』
『【50000】受け取れ! 魔物と人間が共存できる世界への先行投資だ!〈赤スパの悪魔〉』
『ボロスもAランク冒険者たちも、皆英雄だよ!』
『また配信してくれよな!』
『誰も死ななくて良かった~!』
『兄貴、本当にありがとう! この事は絶対に忘れない!〈弟分ニキ〉』
沢山の感謝の言葉に包まれながら、我は配信を終了した。
皆が心配だ。急いで皆の元に行かなくては。
そう思って我は走り出そうとしたが、一歩目で転んでしまった。
体が動かない。全身に力が入らなかった。……あれほどの大決戦をしたのだ。全ての力を使い切るのは当然か。
段々と視界がぼんやりしていくのを感じた。意識が朦朧としてくる。
あぁ、我もここで死ぬのか。薄れゆく意識の中で、死を実感した。
……もう一度だけ、レイさんに会いたかった。そして想いを伝えたかった。
それを最後に、我の意識は完全に途絶えた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
———目を覚ます。
ここは地獄か? そう思い辺りを見渡すと、ここは地獄ではなく、親父との戦闘で更地になった魔王領近辺だと分かった。
そして、我はコブリンやAランクの皆、さらには市民たちに助けられているところだった
「魔王様の体は魔力でできているので、魔力さえあれば再生できます! 冒険者ではない方も、体には僅かに魔力があります。皆さん、どうかそれを分けてください!」
コブリンが市民たちに懇願している姿が見えた。市民たちはそれを快く受け入れ、自らの魔力を差し出していた。
そして抽出された魔力が、点滴で次々と我に流し込まれて行く。体の中に少しずつ魔力が満ち溢れていく感覚を覚えた。
「……皆、助けてくれたのか」
「……ボロス? ボロス、分かるか!? 皆、ボロスが目を覚ましたぞ!」
傍で我を見守ってくれていたカイトが我に気付き、大声を上げた。
その言葉に反応して真っ先に近づいてきたのはコブリンだった。
「魔王様―! うっ、一時はどうなってしまうかと……! 本当に不安でした……! 戻ってきてくれて、本当に良かった!
コブリンは号泣しながら我に抱き着いた。普段ならば離れろと言っていたが、今は快くそれを受け止めることができた。
「我からも……、今回は戦ってくれて本当にありがとう。お前の力が無ければ、親父には勝てなかった。……本当にお前には、助けられてばかりだな」
「……魔王様をお助けするのが、私の役目ですから! これからも、好きに使っていただいて構いませんので! 共に魔王様の夢見る世界を、作っていきましょう!」
コブリンは泣きながらも、決意の籠った声で我に言ってくれた。
……相変わらず、頼りになる奴だ。
「ボロス君、起きたのか! 今回は本当にありがとう!」
続いてガンマさんも、ダイゴとライトの肩を借りながらゆっくりこちらに歩いてきた。
「……正直、今回の騒動でボロス君が魔王だって分かった時、俺はAランク冒険者として君を倒すべきか、一人の友人として君を信じるべきかすごく迷ったんだ。でも、今では君を信じて良かったと思ってる。今こうして皆で生きているのも、全て君の勇気のお影だ。……実の父親を殺すのは辛かっただろうけど、君のその覚悟が世界を救ったんだ。俺達を救ってくれて、本当にありがとう」
ガンマさんはボロボロになった体に涙をこぼしながら言った。その姿はひどく痛々しかったが、彼がAランク冒険者としての務めを果たしたという名誉の現れだ。
「ガンマさんも、力を貸してくれて本当にありがとう。我を信じて皆を説得してくれてありがとう。皆が生きてるのが我のお陰なら、我が生きてるのはガンマさんのお陰だ。Aランク冒険者としての務め、ガンマさんも果たせたと思うぞ」
我のねぎらいの言葉を受け、ガンマさんは涙を流していた。彼が泣いている姿は初めて見た。
彼の努力は決して無駄ではなかった。彼の努力があったからこそ、我々は勝てたのだ。努力の成果は今、勝利という結晶として確かに現れていた。
「……あとカイト、お前にもお礼を言わなくちゃいけないな。配信を始める前、お前達の歌を聞いたんだ。正直言って、すごく勇気づけられた。皆から疑われていた時だったから、カイト達が味方だと分かっただけでとても安心した。皆も、我の心の支えになってくれてありがとう」
我が笑みを零しながらそう言うと、その場にいた全員が泣き出してしまっていた。
カイトは溢れ出る涙を拭いながら、我にある事を告げた。
「ボロス……、まだお礼を言わないといけない人が残ってるんじゃないか? あのチケット、無駄にするなよ」
そう、我にはあと一人、どうしてもお礼を言いたい人がいた。
我が変わるきっかけをくれた人。我に人間の素晴らしさを教えてくれた人。
今日は二十一日。あの人と約束をした日まであと四日あった。
ジェットスニーカーズのクリスマスライブが終わった後で、レイさんに想いを伝える。
魔王だと分かった我をレイさんは受け入れてくれるだろうか。そんな不安が無いわけではなかった。だが、とうに覚悟はできていた。
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