第37話 激ヤバコラボ配信

 二日後、風見原フーコとのコラボが(一方的に)行われることになった日だ。

 我が配信場所となる都内のAランクダンジョンに向かうと、既にフーコが万全の状態で待ち構えていた。


「……随分と来るのが早いようだな」

「当たり前じゃない! 少しでも早くボロス様に会いたかったんだから!」


 うん、今日も安定のキモさだな。逆に安心さえ感じてしまう。


「それじゃあ、こっちも準備できたから配信始めてくれ」

「了解ですわ~!」


 今回の配信はフーコ側のチャンネル「フーコの部屋」にて行われることになった。フーコは早速カメラの電源をオンにし、配信を開始した。


「皆さんこんにちは! 風見原フーコです! 今回はなんと、時の人にして私の後の旦那である、影山ボロス様とのコラボ配信でーす!」


 フーコの合図の後に、我も配信画面に姿を現す。


「どーもー、影山ボロスでーす」


『明らかにボロスのやる気が無くて草w』

『まあ、あんなに粘着されてる奴とのコラボとか、やりたくは無いわなw』

『【50000】ボロス、グットラック……!〈赤スパの悪魔〉』

『この組み合わせ……、正しく闇のコラボッ!〈中二ニキ〉』


 フーコのチャンネルの視聴者の中に、一定数我の視聴者も見受けられた。だが、風斗さん―――弟分ニキの姿は見られなかった。

 まあ、あそこまでフーコと喧嘩したのだがら、当然ではあるのだが。


「本日は二人でこのAランクダンジョンに挑んでいきますわよ~!」


『ボロスいればAランクは楽勝っしょ』

『ヌルゲーだな』

『なんか今更Aランクって言われても……。いや、俺達の感覚が麻痺してるのか?』

『攻略中のトークに期待』


 あー、物凄く冷めている。ここ最近の我の配信が、マシンゴーレムとの戦闘やらSランクダンジョンやらが続いたせいで、感覚がおかしくなっているようだ。

 まあ実際、Aランク二人で同格のダンジョンに挑むなど、オーバーキルも良い所だ。


「それじゃあ早速行きますわよ―――って、早速魔物か!」


 ダンジョンに入ってすぐに、門番のように立ちふさがっていたのはデスキャット。小柄だが、その速度と鋭い爪は脅威に値する魔物だ。


「この程度の魔物なら……! フレイム———」

「ボロス様下がってて! ウィンドカッター!」


 我は攻撃しようとしたが、そんな我を押しのけてフーコが魔法を発動し、デスキャットを三枚におろしてしまった。


「ボロス様の手は煩わせないし、指一本触れさせない!」

「……あれ? これってもしかして、俺何もしちゃいけない感じ?」


『お、まさかの縛りプレイ!?』

『ボロスを守りながらの攻略か、少しは面白くなってきたな』

『フーコに守られるボロスwww』


 我は一切手出しせず、我を守りながらフーコがダンジョンを攻略していく。

 コラボによる我の存在意義が危うくなっている気がしたが、どうやらこの縛り(?)プレイが視聴者にはウケたようだ。ならば、このまま進むしかないだろう。

 流石のフーコといえど、この縛りをしながらダンジョンを攻略していけば、必ず体力の限界が訪れるはず。そのタイミングを見計らって、我が交代すれば良い。

 ……そう思っていた。


「ウィンドカッター!」

「ウィンドトルネイド!」

「ウィンドバースト!」


 フーコは迫る魔物達を次々となぎ倒していった。しかも、体力の底が未だに見えていない。

 ……やはり、腐ってもAランクナンバー2と言ったところか。


『フーコが強ぇw』

『ボロスがいるからかいつもより調子良さげやな』

『素晴らしい……、これが愛の力かッ!〈中二ニキ〉』


 そしてそのまま進み続け、気が付けばボスの部屋まで到達していた。


「さあ、例えボスだろうとボロス様には指一本触れさせないわよ!」


『えー、まだ縛り続けるの? ボロスのバトル見たい』

『それな。そろそろボロス解禁でええやろ』

『コラボの意味とは?』


 ボスも今まで通り挑む気でいたフーコだったが、コメントは否定的な意見が多かった。


「フーコよ、流石にコラボなんだし、最後くらい俺も戦って良いか?」

「……良いんですか? なら、夫婦での初共同作業ですね!」

「貴様と結婚した覚えはない」


 フーコの戯言を聞き流しながら、我はボスの部屋の扉を蹴破った。

 今回のボスはキマイラ。ライオンの顔面に蛇の尾、胴体には巨大な翼が生えており、そのアンバランスな肉体は不気味さを感じさせる。


「相変わらず気持ちの悪い奴だ。さっさと屠ってくれよう」


 正直さっさと配信を終わりたかったので、我も本気でかかることにした。


「ボロス様、私がひるませるのでその隙に魔法を! 風暴乱舞サイクロンバースト!」


 フーコが魔法を発動すると、キマイラの周りに暴風が吹き荒れ、その風がキマイラの体に斬撃を与えていった。

 我から見ても、中々良い魔法だ。四メートルはあるであろうキマイラの巨体を丸々と覆うほどの効果範囲に加えて、あの斬撃の威力。やはり此奴、魔法の腕前だけは確かだな。

 何はともあれ、斬撃にさらされてキマイラは身動きが取れなくなっている。あとは我が片付けるだけだ。


「さっさと帰らせてくれ! 炎魔弓インフェルノアロー!」


 炎の矢をキマイラに向けて放ち、大爆発を起こす。煙が晴れた時には、キマイラは無事に灰と化していた。


「よし、討伐完了!」


『おつかれ~』

『【50000】結構面白かったぞ! 流石はボロスとフーコ!〈赤スパの悪魔〉』

『最後の魔法連撃とかえぐいな!』

『みんなあっさり受け入れてるけど、Aランクダンジョンのボスを瞬殺とかえぐいだろ……』


 確かに。最近は強敵との戦いが続いていてすっかり忘れていたが、人間からすればAランクのボスでも驚異的な強さなのか。


「それじゃあ、今回の配信はこれで終了! みなさん、ありがとうございます~!」


 最後にフーコが視聴者に向けてウィンクしながらそう言い放ち、配信は終了した。


「ボロス様、お疲れ様~!」

「いや、俺は炎魔弓インフェルノアロー一発撃っただけだからあんまり疲れてない」


 そうは言ったものの、疲れていないのは体力面だけ。ここまでずっとフーコの戯言を聞かされていたので、精神的には物凄く疲弊していた。

 やはり此奴の相手は疲れる。今日はカフェに寄って砂糖大盛のブラックコーヒーでも飲んでから、魔王城に帰るとしよう。


「それじゃあフーコさん、さようなら」

「またコラボ配信しましょうね、ボロス様!」


 ダンジョンから出て、フーコにそれだけ告げてさっさと帰路につく。

 散々見られていたからか、フーコの視線が背中にこびりつく感覚がして、とてつもなく気持ち悪かったので、我は足早にカフェへと向かうことにした。

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