魔王様、Aランク冒険者の集会に参加する
第31話 動き出す巨悪とAランクの集会
東京都渋谷区にある魔王領。そこには、通称SSSランクダンジョンとも呼ばれる、魔王城別邸があった。
その一室で、とある男が茶を飲みながらスマホの画面を見ていた。
「史上初のSランクダンジョン攻略、か……。この程度の事で馬鹿騒ぎするなど、やはり人間という生物は低俗で愚かだな」
人間が初めてSランクダンジョンを攻略したという快挙が成し遂げられて数日、その攻略者二人がギルド省から表彰を受けていた。男が見ているのはその配信のようだった。
そして、男はその攻略者のうちの片方を知っていた。
「貴様も落ちぶれたな、ボロスよ……。儂は貴様をそんな風に育てた覚えは無いぞ」
その男は影山ボロスの醜態に腹を立て、持っていた湯呑を握りつぶした。
「……だがしかし、人間の姿を保つという縛りを課した状態で、魔鉱石を大量に飲ませたスピノドラゴンを破るとは。ボロスも随分と力をつけたな。そして案外、この轟ガンマという男も侮れぬかもな」
男は懐から赤黒く輝く鉱石———魔鉱石を取り出し、それを掌の上で転がしながら言った。
「やはり、奴に政権を任せたのは間違いだったか。いくら年で衰えたとはいえ、こんな調子ならばまだ儂の方がマシだ。この十七代目魔王、エビリス=ディアが再び王座に就くときも近いだろう……」
男———先代魔王エビリスは、ひどく邪悪な笑みを浮かべていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「はぁ、はぁ……、久々の魔王城だ!」
ガンマさんと別れて数時間。何とかマスコミの目をかいくぐって、我は魔王城まで無事に帰還することができた。
「魔王様! お久しゅうございます! 今回の配信、大成功でしたね!」
我が魔王城の扉を開けると、一秒でコブリンが現れて我の荷物を持ってくれた。相変わらず仕事の出来る奴だ。
「今回の配信でのスパチャ合計額、なんと三千万円ですよ!? こんなに金を投げられるなんて、凄いですよね人間は。さらにチャンネル登録者も千万人を突破! そして人間政府からは報酬として五千万円! ウハウハですねぇ!」
「それで、遊園地襲撃事件の賠償金はあとどれくらい残っているのだ?」
「……あと三億円です」
相変わらず気の遠くなるような額だ。だが、マーチューブの収益が入れば、もう少し足しになるはずだ。しばらく節約を続ける他ない。
「まあ良い。そんな事よりも、コブリン、我がこの数日間で得てきた情報を共有するぞ。会議室に移動だ!」
「承知いたしましたぁ!」
会議室に移り、コブリンに紅茶を淹れてもらって、我はこの数日で起きたことを全て話した。
「成程……、魔王様とガンマさんをSランク冒険者として承認する案が出ていると」
「だが、これはしばらく後になる可能性もあるようだ。頭の片隅にでも置いておいてくれ」
「ですが実現すれば、この世に二人しかいないSランク冒険者という、とんでもなく強い肩書が手に入ります。そうなれば、チャンネルの勢いももっと増すかと……」
大体を話し終えたところで、我は自らの本心をコブリンに話すことにした。
「コブリンよ。実は我に考えがあってな。……魔王政府と人間政府の関係を修復し、平和友好条約を結びたいのだ」
「……それはつまり、人間と魔物が共生する社会を作る、という事ですか」
それを聞いたコブリンは、ひどく驚いている様子だった。
無理もないだろう。父上の反人間教育を受けて育ってきた我が、いきなりそんな事を言ったのだから。
「そうだ。……我はダンジョン配信を初めて、多くの人間に出会った。そして、父上の教えが間違っていたことに気が付いたのだ。人間が全て愚かなわけではない。立派な人間だって沢山いるのだ。そんな人間達ともっと仲良くなりたいと思ってしまった。今の魔王という立場ではそれはできないが、人間と平和友好条約を結び、二千年前からの人間と魔物の対立に幕を降ろせば、我は『影山ボロス』ではなく『ボロス=ディア』として人間と交友できる!」
「成程……」
我の思いを聞き、コブリンはしばらく黙り込んでしまった。
……やはり、コブリンには到底受け入れられない思想なのか?
「魔王様……、全くもってその通りでございます! 私もガンマさんやカイトに直接会いたい! ですが彼らは人間、私は魔物。この二つの種族にはあまりにも大きな壁がある! その壁を、ようやく取り払う時が来たんですよ! やっちゃってください、魔王様!」
だがコブリンは、予想とは裏腹に、我の考えに心から賛同する様子だった。
コブリンはその目を輝かせながら、新たな時代が到来する予感に胸を躍らせているかのようだった。
「そうか……。やはりそうだよな! 人間と魔物がいがみ合うなど、もう古いよな! よし、今すぐにでも稟議をまとめよう! コブリン、力を貸してくれ!」
「そうしたいのは山々なのですが……、果たして先代———エビリス様がこれを受け入れてくれるでしょうか?」
そう、そこが最大の懸念点だった。
激しく人間を嫌悪している父上が、この案を承認してくれるだろうか。
父上は老いにより我に王位を譲った後も、その権力を実質的に持ち続けていた。我はずっと、父上に縛られて生きてきたのだ。
「……父上と決別する時も、近いのかもしれないな」
我がそう呟いた、その時だった。
スマホの通知音が鳴り響いた。確認すると、ガンマさんからのDMのようだった。
『来週水曜日にAランク定例集会を行うから、ボロス君も来てくれ。もちろん、この集会にはAランク冒険者が全員集まるから、顔合わせだな。場所は下に書く通りだ』
「成程、Aランク冒険者の集会ですか……」
いつの間にか我の後ろに立ってスマホを見ていたコブリンが呟いた。
「おい貴様ッ! 我のスマホを勝手に見るでない! 不敬罪で首切るぞ!」
「申し訳ございません! ですが、そのAランク集会というもの、なんか結構楽しそうじゃないですか? だってほら、場所が……」
そう言われて、我はメールの続きを読む。
『今回の集会は国立横浜会議場で行う』
国立横浜会議場と言えば、ちょうど繁華街の近くではないか。さては、集会終了後に繁華街で楽しむつもりでいるな?
まあだが、それもまた一興。今後の為にも、Aランク冒険者達と親交を深めるとしよう。
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