魔王様、デートをぶっ壊される

第14話 遊園地デート(?)開始!

 翌日、午前九時。我はある人を待っていた。

 我にとって、誰かを待つというのは初めての事だった。我を待たせた者は即刻切り捨てていたからな。

 そんな我が、今人を待っている。コブリンに伝えたらきっと目玉が飛び出るくらい驚くだろう。


「ボロスさん! 遅れてすいません! 待ちましたか?」

「全然大丈夫ですよ。俺が早く来すぎただけです」


 我が待っていた人———レイさんは、昨日のダンジョンの時と同じように白銀の髪をツインテールにまとめ、空色のパーカーと白いロングスカートを組み合わせていた。

 実にレイさんらしい、清涼感あふれるコーディネイト、と言ったところか。やはり可愛い……!


「今日は遊園地に行く、って事で良いんでしたっけ?」

「はい! 見たいものがあるんですけど、遊園地って一人だと入りづらくて……」


 世の人間達は一人でどこかに行くことに抵抗がある事が多いと聞いていたが、レイさんもその一人だったようだ。

 そこに現れた我は、本当に丁度良いタイミングだったという訳だ。

純粋に我と出かけたかったのか、それとも目的の為の道具にされたのか。本当の所は分からない。だが、レイさんの助けになれるのであれば、全く悪い気はしない。


 しばらく歩いて、ついに目的の遊園地が見えてきた。

 東京シティパーク。数多のビルが建ち並ぶ東京の街中に造られた、都市と遊園地が一体化した近未来の施設らしい。


「私が見たいのは、この『ジェットスニーカーズ』の限定ライブです! この人達の歌、本当に好きなんですよね! まだ時間もありますし、それまでは沢山遊びましょ!」


 そのバンドの名前は聞いたことがあった。確かコブリンもよく聞いていた、三人組の国民的人気バンドだ。空を裂くような鋭いギターの音色と、ギターボーカル・カイトの透き通るような声が魅力だと言われているが、実際に聞いたことはない。あのレイさんが気に入っているのだ、さぞ素晴らしいバンドに違いない。

 ライブ開始まではあと三時間ほどあった。その時間で果たしてどれほどのアトラクションに乗れるだろうか。


「ボロスさん! あれ、乗ってみませんか?」


 レイさんが指さした先にあったのは、ビルとビルの間を縫うようにして存在しているレール、そしてその上を超高速で走る乗り物。ジェットコースターだ。

 我は乗ったことは無かったが、多分『深淵の手』を使って高速移動してる時のような感覚なのだろう。見たところ、搭乗者たちは皆ギャーギャーと叫んでいた。

 この程度で恐れおののくとは、実に情けない。我がこんな低俗な物に恐れをなすはずなどないだろう……。


「うぎゃあああああああああ!!!」


 な、何だこれは。速い。速すぎる。

 この我でさえ、戦闘で経験した事のない速度だった。しかも、本当にビルの間スレスレを走り抜けるので、このまま衝突するのではないかという恐怖さえ感じられた。

 我の体をがっちりと押さえつけている安全バー。慣性で吹っ飛びそうになる体が無理矢理固定されることで、これまた独特な恐怖を生んでいた。


「わぁー! 楽しいー!」


 だが、何故かこの状況下においてもレイさんは楽しそうにはしゃいでいた。

 一体どうなっている!? レイさんはこのような修羅場をいくつも潜り抜けてきた歴戦の猛者だったのか!? 何故この速度でそんなに笑っていられる!?

 子供のようにはしゃぐレイさんも可愛いと思ったが、そんな事を考えている余裕さえ、我には残っていなかった。


「いやー! 楽しかったですね!」

「レイさ―――いやレイ様、さぞかしお強い歴戦の戦士様とお見受けしました。何なりとご命令を」

「ちょっ、ボロスさんどうしたんですか? そんな家来みたいになっちゃって」

「あんな恐ろしい物に乗って笑っていられるなど、それは強者でございます。これまでのご無礼をどうかお許しください!」

「いやいや! 私よりボロスさんの方がめちゃくちゃ強いでしょ!」


 そんなやり取りを交わした後、我の要望でベンチに座り一旦休憩することになった。


「はぁ……、二度と乗りたくない」

「えー。残念です。楽しかったのに」


 意外と怖いもの知らずなレイさんの新しい一面を見れたことに、我はささやかな喜びを覚えた。


「じゃあボロスさん、次はアレ乗りましょうよ! 今度はゆっくりできるはずですよ!」


 彼女の指の先にあったのは、ビル群の中に堂々と鎮座していた観覧車だった。一番上までたどり着けば、この辺りを一望できそうだ。

 あそこでレイさんと話しながら、東京を一望するのも悪くない、むしろ良いと思い、我は早速レイさんを連れて動き出した。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 暗黒の部屋の中を、一つの松明が照らし出した。

 僅かな光に照らされたのは、銀色に輝く機械のボディ。そして名誉ある「D」の紋章。

 その男は懐からスマホを取り出し、そこに映し出されている映像を見た。


「ボロスよ……。これは天罰だ」


 男は何やら呪文を唱えだした。男の前にある『ソレ』の下に、魔力で描かれた魔法陣が輝きだした。


「コイツが東京に降り立てば、大きな被害が出るだろう。ボロスよ、その時貴様はどうする? 以前ならば、間違いなくコイツと共に人間に攻撃を仕掛けただろう。だが、ダンジョン配信などという腑抜けた物を始めおって……! 人間に加担するならば、この『マシンゴーレム』が貴様を焼き払ってくれよう! 行け、転送魔法!」


 男が魔法を発動すると、ソレは一瞬でこの空間から消えていた。


「さあ、貴様を試させてもらおうぞ」


 男は怪しげな笑みを浮かべて言った。

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