第13話 その気持ちの正体は
「いや~、配信めちゃくちゃになっちゃいましたね! うまく説明できなくてごめんなさい!」
配信を終えて開口一番にレイさんは言った。
「まさか格ゲーがあそこまで難しいとは……。迂闊にアレを選んだ自分を少し恨んでます」
「まぁ、次はもっと簡単なゲームやりましょ!」
次は。レイさんが既に我とまたゲームをすることを確信してくれている。
我は内心めちゃくちゃ浮かれつつ、表情は冷静を装って、レイさんに別れを告げる。またすぐに会えるだろうに、何故か少し寂しかった。
「じゃあレイさん、また今度」
「はい! 今日は色々とありがとうございました!」
外まで来て見送ってくれたレイさんの声を背中で受け止めながら、我は魔王城への道を歩いて行った。
……レイさんの声が聞こえなくなった瞬間に、また会いたいと思っていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「コブリンよ、戻ったぞ!」
魔王城の扉を蹴破り、我はコブリンを呼んだ。
「魔王様! 私も色々とお話したいことがございます! こちらに来てください!」
コブリンの方も何やら話があるらしく、焦った様子で我を呼んだ。
「うむ、まずはお前の話を聞こう。何の用だ」
玉座に着き、我はまずコブリンの話を聞くことにした。
「魔王様、今日の配信は数多のアクシデントがありました。襲われていた女性冒険者を助け、さらにそこから魔王様の魔法の調子が狂い……。ですが、逆にそれにより死闘の演出ができたという物なのでしょう。魔王様とゴールドゴーレムの戦いの切り抜きの再生数が百万回を突破しております! さらにスパチャによる収益も三十万を突破しました! 結果的に、今回の配信は大成功だと言えるでしょう!」
コブリンに言われ、我も自分のスマホを確認する。
マーチューブの登録者三十万人突破、マイッターのフォロワー数も十五万人を突破。我が知らぬうちに、我はとんでもない有名人になってしまったようだ。
「拡散が拡散され、それがさらに拡散されたことで圧倒的なバズを生んだんですよ! さらに、ダンジョン配信名物である赤スパの悪魔氏の登場、インフルエンサーであるマーキン氏などによる拡散などで未だその勢いは衰えていません! この調子で行けばさらなる利益を得られますよ!」
コブリンは目を輝かせて語っていた。彼もまた、我が配信している間に様々な調査をしてくれていたようだ。実にありがたい。
「ひとまず私からは以上です。魔王様、そちらも何かあったのですか?」
どうやら我のターンがやってきたようだ。レイさんとの間に起きた一連の出来事。貴様ならば、最適解を導き出してくれると信じているぞ。
「実はだな……」
「成程成程……」
我の話を一通り聞いたコブリンは少し考えた後、ついに口を開いた。
「……魔王様、それは多分、恋ですね」
「恋、か……」
我はそれを聞いて、納得できるような、できないような、何とも言えない感覚を覚えた。
だが、恐らくコブリンの言う通りなのだろう。この焦がれるような感覚こそが、物語の中で度々耳にした恋という物なのだろうと。
「レイさん、でしたっけ。ダンジョンで助けた女冒険者の。彼女とのゲーム実況配信見させていただきました。魔王様があそこまで下手だったのには驚きましたが、あの時の魔王様、私が見てきた中で、一番楽しそうでしたよ」
コブリンは微笑みを浮かべながらそう言った。
「コブリンよ……」
「魔王様……!」
我はしばらくコブリンを見つめた後、こう言い放った。
「誰がゲーム下手だァ!? 貴様誰に口を聞いている!」
「アッ……、大変申し訳ございませんでしたァァァァァ!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
実に無礼な事を言ったコブリンには、罰として人間に化ける魔法を使ってもらい、人間の酒を買いに行ってもらった。今日はかなりの収益を得ることができたので、久々の祝杯だ。
そして我はその間に、レイさんとのお喋りに興じていた。
『ボロスさん、今日は私パスタを作りました! ボロスさんの夕ご飯は何ですか?』
『今日は配信の成功祝いで部下とお酒を飲むつもりです!』
『良いですね~! 祝杯、憧れです!』
『レイさんはお酒とか飲むんですか?』
『私、お酒弱いのであんまり飲めないんですよね……。なので代わりによくサイダーを飲んでます!』
……やっぱり可愛い。文字だけでもレイさんの優しげな話し方が想像できた。
「レイさん……、また会いた―――」
「魔王様―! 特上酒を買ってきましたよー!」
レイさんへの思いに浸っていたところに、タイミング悪くコブリンが帰ってきてしまった。
「コブリンよ……、よくもレイさんとの楽しいお喋りを邪魔してくれたな! 炎魔弓——」
「ちょっと魔王様落ち着いてくださいよ! ホントにすいませんでした!」
コブリンになだめられ、我は仕方なく席に着き祝杯の開始を待った。もちろんマインの通知はオンにしている。
しばらくして幹部たちも集い、コブリンの掛け声で乾杯をし、久々の豪勢な祝杯が始まった。
「うむ。実に久々の酒だが、やはり良いな!」
酒をがぶ飲みしていたその時、マインの通知が鳴ったのを我は聞き逃さなかった。即座に酒をテーブルに置き、通知を確認する。
「魔王様! 流石に祝杯の途中にスマホはダメだと思いますよ!」
「うるさい! 大事な通知だ。黙っておれ!」
小言を言うコブリンを黙らせ、我はそこに書いてあるメッセージを目で追った。
『今日のお礼もしたいので、今度どこかに遊びに行きませんか?』
……やったぜ。
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