第24話 安祥城の戦い(3)
天文18年(1549年) 3月 岡崎安祥城付近
滝川 左近将監(一益)
「では佐久間殿、滝川殿。我ら水野家はここまでで御座います。ここから先は織田家のみ……。御武運をお祈りしております」
知多半島へと上陸を果たした佐久間信盛を大将とする織田勢。しばしの休息の後、同盟の水野家の案内によって知多半島を抜けた手勢は暴風と闇夜に紛れ無事、安祥城南西の沼地へと辿り着いたところだ。
「道案内、誠にかたじけない。殿には
「共に安祥城に救援に行けぬこと、申し訳ない……」
「大高方面を今川に押さえられているとなれば、帰りも刈谷・緒川城を通り、知多半島へ抜けることとなるかと思います。下野守様が自領を守って下さるだけで我ら織田家としては本当にありがたい」
「そう言っていただけると助かる。末森織田勢が大高・鳴海まで来れば我ら水野家と今川勢を挟撃できるはず。我らはその期を待ちましょう。では……」
そういうと水野家の手勢五十を引き連れ、きた道を戻って行く信元さん。
北から鳴海・大高方面へ向かう織田本隊と南の刈谷・緒川城の水野勢が上手く挟撃出来れば数で上回る今川勢をなんとかできるかもしれない。あとは俺たち別働隊で安祥城に籠る織田信広さんをどう助けるかだ。
「さて、左近殿。我々も動くとしよう」
満面の笑みでそう言ってやる気を見せる信盛さん。
彼の身体は大きいが筋骨隆々というより、どちらかといえば肥満体型。しかしそんな信盛さんが鎧兜を身に纏う姿は、まるで大熊のように猛々しく風格漂う大将のようだ。
半日前、船上で幽鬼のようになった悲しき熊さんを知らなければの話だが……。
「ここまで来れば、丘の上に位置する安祥城は目と鼻の先。ですが城の北側は松平・今川勢が分厚く囲っており、そう簡単には近づけそうにはありませんなぁ」
「西と南と東は深い沼地と田に囲われておるか。特に東側は丘の上に在る城に足元が悪い中、登らねばならぬ地形。西は北の敵勢から見られる位置。これは南の沼地を行くしかあるまい」
安祥城で織田信広さん達が籠城を始めて既に五日。あてのない籠城は兵達の士気も下がり、やがては内側から崩壊しかねない。
幸いにも俺達の大将・信盛さんは統率ステータスが比較的高いから、沼地を越える無理な行軍でも兵達の指揮と忠誠に問題はないだろう。
佐久間信盛のステータスはこれ。
”佐久間出羽介(信盛)”
統率:70 武力:65 知略:72 政治:52
信盛さんのステータスは”大将”としては十分。統率も並の領主以上にあるし配下の”部将”には俺や前田蔵人などの補佐がいるから、今回の千人ほどの織田別動隊であれば容易に指揮できるだろう。
この統率ステータスは軍の指揮人数を表すパラメーターで、指揮人数の適正値を超すと士気や意思疎通に遅延などのデバフ効果が現れる。
例えば、信盛さんの場合は統率:70なので本来の適正人数は70人だが、配下に統率の高い”部将”役の俺や統率:72の前田利久、統率:71の池田恒興が居ることでその指揮人数を底上げしているといった感じだ。織田家は優秀な将が多いから数千人単位の軍団運用も他家に比べたら楽にできるはず。
信盛の場合:統率70×
バフとなる部将の能力は高い者から計算するなど、制約はいろいろあるが、おおよそこんな感じで指揮人数にバフが掛かっていくと思ってもらえれば大丈夫。
それに、これはあくまで軍事行動における統率ステータスの影響だが、個の戦いや局地的のものは志摩での
「よし、各々方。我らはこのまま闇夜に紛れ沼地を抜けて安祥城へと向かう。必ずや三郎様の御兄上、三郎五郎様を救うのだ! 」
「「おうっ!! 」」
みんな気合いバッチリ。那古野の大広間を出る信長さんのあの悔しげな表情をみんな見てたから、その気合いの入り様は凄まじい。やっぱ信長さん、若い頃からカリスマ性抜群で慕われてたんすねぇ。
しっかし俺の未来の記憶だとこの
信行くんと争う家督相続とか、濃尾同盟とか、上洛とか本能寺の変とかビッグな歴史イベントはなんとなく知ってるんだけど。
まぁとりあえず、信広さんはここで死ぬはずじゃないから助けるって方針でいいはず。俺もこんなところで死にたくないし、とにかく手柄を上げて信長さんに出世させてもらうぜ。
*******
天文18年(1549年) 3月 岡崎安祥城
織田 三郎五郎(信広)
「くそっ……。気が昂ってよく眠れぬ……」
松平家を先鋒に今川勢が矢作川を越え、ここ安祥城を囲い、既に五日。総攻めこそないが、少しずつ我が方の兵達の疲労が溜まってきている。
この安祥城は丘の上に在って周りを見渡しやすく、南方は湿地で素早く移動できないという地形のおかげで守りに易く、攻めるに難い城だ。
それもあり、今川勢も急いて落とすつもりはないのか、北側三の丸の囲いを分厚くするのみ。手勢も松平家が主で、ほとんどの今川勢は城を素通りし、大高方面に向かっているようだ。
「庶長子とはいえ、なめられたものよ……」
俺が弾正忠家嫡男であったならば、今川家は確実に殺すために被害を顧みずに無理に攻めるであろうに、この手緩さ。
思わず愚痴が溢れてしまうわ……。
侮られることは屈辱ではあるが、そのおかげで生き永らえているのも事実。果たして親父は援軍を寄越してくれるだろうか……。
とにかく、気を鎮めるために夜風にでも当たるとしよう。
俺の居る安祥城は本丸・二の丸・三の丸の構成だがそれぞれが沼地に独立した島のように配してあり、特に本丸、二の丸は水堀に囲まれ守りが堅く、それぞれに生活する館が設けてある。本丸を挟み込む形で北に三の丸、南西に二の丸が位置しており、それぞれの曲輪の間には堀があって、木橋を渡ることで曲輪同士の行き来が可能だ。
攻められやすい北の三の丸は夜間も常に兵を配しており、夜襲警戒を怠らず、常に櫓で松平・今川勢の陣を監視している。丘の上に在るお陰で見通しはすこぶる良いのが利点だ。
三の丸は赤川彦右衛門が、本丸は中野又兵衛(重吉)に差配は一任している。この与力二人は何度も俺と共に松平と戦っている
そんな夜でも寝ずの番の兵達の喧騒が聞こえる本丸、三の丸を背に俺は静かな二の丸へと向かう。沼地に囲まれた二の丸は北側に比べると静かなもので、今川勢も沼地を避けて陣を敷く為、曲輪の周りは比較的穏やかなのだ。
とはいえ、守りの兵を置かない訳はなく、こちらも櫓を配して暗く不気味な沼地を見張っている。
「おぉ、今宵は弓の名手、本宮甚九郎が見張り番であったか」
「これは三郎五郎様、寝ずの番で御座いますか? 」
「いや違うのだが、なかなか寝付けなくてな……。三の丸には申し訳ないが、静かな二の丸で夜風に当ろうと思ってな」
今宵の櫓番は織田家中で弓の名手と謳われる俺の家臣・侍大将であった。弓上手な者は総じて遠目が効く者が多く、櫓番などを務めることが多い。
「こちらは湿地故、今川勢の陣灯りも城からかなり遠くですからね」
「少しの間、俺も櫓番をしてもよいか? 」
「えぇ、
異変があったのは、快く迎えてくれた甚九郎と会話をして一刻ほど過ぎた頃だった。
「さ、三郎五郎様。沼地に幾つかの旗印が見えまする……」
「なに!? 暗すぎて俺には見えん……。紋は見えるか? 」
旗印が見えるという甚九郎だが、俺には闇夜が深すぎて何も見えぬ……。何より昨日まで吹き荒れた嵐で今宵も月が雲に隠れて余計に暗いのだ。
「
「なに! それは真か!! 」
「は、はい!! よく目を凝らせば旗印以外にも軍勢が沼地の草を掻き分けて近づいているのが見えまする」
なんと……、親父は援軍を送ってくれたのか。しかも今川の鳴海・大高の封鎖を抜けてわざわざここ安祥城まで……。
「すぐに城門を開けて彼らを迎えてくれ。それと大将を本丸まで通すのだ」
「ははっ!! 」
甚九郎は俺の指示を聞くと返事と共に櫓から飛び降り、城門へと駆け抜けて行った。
たしか前田
それならば佐久間紋は那古野の佐久間
「三郎五郎様ぁ! 援軍は二の丸広場に収容致しました。大将の佐久間様、副将の滝川様を本丸にお通ししております」
「おぉ、すまぬ。考え事をしておった。すぐに向かう故先に行っておれ」
とにかく士気も下がり始めていたこの城に援軍が着いたのは僥倖じゃ。まずは佐久間と会って今後の策を立てるとしよう。
△△△
“登場人物ステータス”
”佐久間出羽介(信盛)”
統率:70 武力:65 知略:72 政治:52
”前田蔵人(利久)”
統率:72 武力:43 知略:63 政治:54
"池田勝三郎(恒興)"
統率:71 武力:70 知略:64 政治:65
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