第10話 九鬼浄隆の困難
天文17年(1548年) 3月 志摩国 田城城
九鬼 宮内少輔(浄隆)
滝川殿が我が九鬼家の窮地を救うべく、わざわざ畿内から船でやってきてから数か月。徹底抗戦を主張する家臣と再起を図るべきという家臣で家中は二つに分かれた。元々体調が悪くなっていた父上(九鬼定隆)の容態は心労からか日に日に悪化し、ここ
血判状を持ってきた客将として滞在する滝川殿は、波切城主の叔父・九鬼石見守(重隆)に父上を説得してもらうべく、先日陸路で波切に向かった。海賊衆として今も海に出る頼りがいのある叔父上が居れば、二つに割れる家臣らの意見も少しはまとまるだろう……。
「若殿ぉぁぁっ!! 大変で御座いますっ!! 街道東の関所の物見から千賀家・浦家・小浜家の手勢およそ五百が田城城に向かっているとのことっ!!援軍を求めておりますが
「なにっ!! 父上が動けぬこのようなときに奴らめ、示し合わせて攻めてきおったか……。すぐに城下に集められるだけの兵を集めよ!!集まり次第、援軍として出陣する」
「ははっ!! 」
国府殿もどこから聞きつけたのか父上が病であることを知っておった。おそらく千賀・浦・小浜もそれを知って三家で合わせてきたのかもしれぬ……。ということは、波切の方も近くの和具家・越賀家・甲賀家辺りに攻められている可能性もある。叔父の九鬼石見守(重隆)が居れば落城することはないだろうが、少し距離があるため実際にはどうなっているかわからん。
田城五郷から兵を集めても、兵数二百も届くかどうか……。しかも父上は出陣できるような体調ではない故、私が出るほかあるまい。
まずは東で一当てして様子を見て、その後は田城城に籠城か、南に退いて波切を目指すか……。いや、陸路を行ってもすぐに追い付かれるだろうな。ここは城を捨てることになった場合は西の朝熊山に逃げるしかあるまい。
滝川殿があの血判状を持ってきてからこんなに早く決断の時がやってこようとは思ってもいなかったな。
「若殿ぉっ!! すぐに動ける足軽勢で八十ほど集まりました!騎馬武者二十騎と合わせて百の手勢でございますっ!!」
くそぉ、明らかに数は少ないが地の利を活かして戦う他あるまい……。
「その
「ははっ!! かしこまりました」
この兵で勝つことはできぬであろうが、あとは波切からの援軍があることを祈りつつ負けぬように耐え凌ぐ。九鬼家にとって厳しい戦いになりそうだ……。
**********
天文17年(1548年) 3月 志摩国 波切城
滝川 彦九郎(一益)
「鉄砲衆っ!! 構えよっ!!よーく引きつけぇ……撃てぇっ!!」
ズダダダァァッッッン!!
「おっしゃっ!!この鈴木孫六郎が越賀の足軽大将を撃ち抜いたぜ」
「
「おぉさすが孫六様っ!」「照算様も負けておらんぞっ」
滝川鉄砲衆として紀伊からついてきた雑賀出身と根来出身の者達がここぞとばかりに孫六郎と照算を自慢しあっている。おい、そこそこっ!! 俺だってさっきから指揮しながら火縄を撃ってるし、君らの師匠は俺なんだから俺を褒めなさいよ……。
現在、俺達滝川鉄砲衆五十人は、波切城北側の櫓群から迫り来る敵勢に火縄銃を一斉射撃している。俺たちが守る波切城北側に広がる陸地から志摩十三衆の和具家・越賀家勢百五十人が攻め寄せてきている状況だ。
人数差3倍を相手にしてもこの士気の高さは俺の統率:89のステータスのせいだ。統率は軍をどれだけ上手く率いるかのステータスで、指揮人数や士気、進軍スピード等に影響を与える。
史実より早くに九鬼包囲網を敷いた志摩十三衆は、おそらく定隆の病が重い(血判状の心労で病状悪化)とわかり、九鬼攻めの時期を早めたのかもしれない。おそらく田城城にも他の志摩十三衆が攻め寄せているはず……。
いやぁ、これは俺のせいではないはず。血判状を盗んだせいで志摩十三衆が焦ったなどではない。それによって定隆殿に精神的に負荷を与えたとかでは断じてなーいっ!!
「滝川殿ぉっ!! 女子供らは全員船に逃すことに成功しましたぞっ!! 海賊衆も石見守(九鬼重隆)様に率いられ、甲賀水軍を蹴散らしております」
「おうしっ!! では俺たちもそろそろ船にずらかるぞ。権八っ!! お前の船まで案内を頼む」
「お任せをっ!! 」
海には志摩の甲賀水軍が波切湊を封鎖しようとやってきた。しかし、波切城を放棄することを決めた九鬼重隆殿が海賊衆三百人の全てを引き連れて海に出たため、封鎖は失敗。時間を稼いだ俺たちも
なんとか九鬼家が被害に遭う前に尾張へ連れてゆきたかったのだが、なかなか上手くゆかぬなぁ。しかも史実では波切城主の浄隆の弟・嘉隆(海賊大名と呼ばれた)は助かったはずだが、史実より早い九鬼攻めのせいで嘉隆はまだ7歳で、田城城にいるはずだ。
なんとか浄隆と嘉隆を救って九鬼海賊衆と共に尾張に向かわねばならない。頼むから諦めるんじゃないぞ浄隆。
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