白衣の勇者と悩める美少年

第30話 白衣の勇者、計画する

 ――月曜日。


 出社した英雄は、パソコンでチャットツールを開き、絵麻たちに提出してもらったレポートを確認する。


 絵麻たちには、前回のダンジョン探索で学んだことをレポートにしてもらった。軽く目を通した感じ、ちゃんと書けていているように見える。金曜日に遊んだときは、真面目に取り組んでくれるか不安だったが、やるべきことはちゃんとやるみたいなので、安心する。


(俺も、早く育成計画書を作成しなきゃ)


 啓子から計画書の提出を求められているので、前回探索した時の結果をもとに、彼女たちの育成方針について考える。


 その後、出社してきた啓子と挨拶を交わし、打ち合わせを行う。


 打ち合わせが終わってから、計画書の作成に取り掛かろうとしたのだが、啓子からの視線を感じ、目を向ける。


「どうかしたんですか?」


「……金曜日はお楽しみだったみたいね」


「ええ。まぁ」


 騒がしかったが、何だかんだ楽しめた。啓子が絵麻へ提示した条件に、遊んだ場所などの報告があったので、それで知ったのだろう。


「ふーん」


「あ、啓子さんも行きたかった感じですか?」


「いや、そうじゃないけど。ヒデ君ってさ、絵麻たちみたいな年下の女の子が好きなの?」


「そんなことないですけど」


「それにしては、ずいぶんと仲良さそうじゃない」


「それはまぁ、絵麻たちは妹と同い年なんで、自然と妹と接するような感じにはなってしますよね」


「あぁ、そういう理由ね。なら、安心したわ。それにしてもいいなぁ。私も行きたかった」


「行きたかったんじゃないですか。言ってくれれば良かったのに」


「友達の結婚式があったの」


「なら、仕方ないですね。でも、友達の結婚式なら、それはそれで良かったじゃないですか」


「うん、まぁ。でも、最近、周りの友達の結婚ラッシュでね。正直、楽しいって気持ちはなくなってきた。それに、幸せそうな友達の姿を見るたびに思うんだよね。私の幸せって何だろうって」


「……なるほど」


 英雄は嫌な予感がした。そして、それは的中する。それから啓子の愚痴が始まったので、英雄の手が止まる。


(早く終わらねぇかな。この話)


 そんなことを思っているうちに30分が経った。


「――あ、ごめん。そろそろ仕事しなきゃだね」


「そうですね」


 ようやく仕事ができる。英雄はパソコンに向かおうとしたが、啓子が話を続ける。


「ヒデ君は結婚願望とかないの?」


「ないですね。別に一人でも生きていけるんで」


「そうね。私も同じことを思っている。でも、5年後とか10年後にも同じことを思っている自信が無いの」


「まぁ、確かにそう言われると、そうかもしれませんね」


「じゃあさ、もしも5年後も私が一人だったら、ヒデ君が私のことをもらってよ」


「いやいや、啓子さんにはもっとふさわしい人がいますよ。俺なんかにはもったいない」


 啓子の不満げな視線を感じたが、英雄は気づかないフリをしてキーボードに手を置く。これ以上は付き合っていられない。


 ――昼食後に部屋へ戻ると、興奮した面持ちの啓子に手招かれる。午前中は不機嫌な感じがあったが、良いことがあったらしい。


「どうしたんですか?」


「これを見て!」


 啓子がパソコンの画面を指さす。画面には、Elementsのチャンネルが表示されていた。とくに興奮するような部分は無いが……。


「気づかない?」


「すみません」


「登録者数が、9万人になっている。あと、1万人で10万を突破できるわ!」


「あぁ、確かに」


「もう、テンション低いわね」


「すみません。いまいち、登録者数についてよくわかっていないので。10万を超えるとすごいんですよね?」


「もちろん! まだ、中位勢ではあるけれど、間違いなく一つの壁を超えることはできたわ。しかも三か月で! これは注目が集まるわよ」


「へぇ。でも、どうして急に増えたんですか? この前まで3万くらいだった気がするんですが」


「ゴブリン・バーサーカーを倒したからよ! だって、危険度Bのモンスターだし」


「……なるほど」


 あの程度のモンスターを倒しただけで注目されることに、ちょっとしたカルチャーショックを受けるが、そこは環境の違いもあるので、仕方ないか。


「あの子たちにも教えてあげよう」


 啓子はグループチャットに登録者数の件を流した。絵麻からはすぐに反応があったが、他の二人からは無い。授業中だから、確認できないのだろう。


「ああ、確かにそれは良いかも」


 啓子はグループチャットに流れてきた絵麻のメッセージを見て、そう言った。


「何が良いんですか?」


「10万人突破を見届ける配信。こういう配信をすると、一気に1万人が集まったりするものなの」


「なるほど。なら、良いですね」


「うん。じゃあ、そのつもりで計画を作っちゃおうかな。あ、そうだ。ヒデ君もその配信に出たらどう?」


「え、俺が出るんですか?」


「うん。もしかしたら、妹さんが見るかもしれないし、ヒデ君が出れば1万人集まるかも」


「保険ってことですか? まぁ、でも、俺が出ることで彼女たちの力になるなら、喜んで出ますよ。それに、啓子さんが言うように、妹が見るかもしれませんからね」


「よし! じゃあ、その計画を練っちゃおうか。今日は、あの子たちも来る日だから、予定を聞いてさ」


「はい」


 そして、絵麻、一花、翔琉がやってきてから話し合った結果、二日後の水曜日に配信を行うことになった。

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